南ヨーロッパの片田舎を思わせる街を父娘コンビが旅する、はま旅Vol.112「いずみ野」編
ココがキニナル!
横浜市全駅全下車の「はま旅」第112回は、相鉄いずみ野線「いずみ野」の旅。昭和そのままの商店と南ヨーロッパの片田舎のようなカフェやレストランが交錯する知られざる街を父娘コンビがショートトリップ!
ライター:久保田 雄城
ある日、はまれぽ編集部から、「久保田さん、『はま旅』やりますか?」と嬉しいお誘い。
瞬間的に僕の左手は高々と上がり、口からは「やります!」という言葉が出ていた。
しかし、考えてみれば久保田が得意とする取材スタイルは、アポを事前にとって綿密な調査を行った上で対象者に会ってインタビューし、その原稿の推敲をしつこく繰り返して記事として完成させるというもの。
五月晴れの「いずみ野駅」にやってきた
突撃取材は、ほとんど経験がない。でも、まあいいや、どうにかなるだろう(このチョー楽天主義で半世紀生きてきたし)。しかしながら、53歳の白髪の男が一人で平日の昼間の郊外の街で、でかい一眼レフカメラを抱えてうろうろ、道に寝そべって写真を撮ったり、通行人に声をかけまくったり、立ち止まってお店の看板を30秒ほど凝視するというのはあまり美しくない。
というか非常に「あぶない」人と思われる可能性が高い、というのは周りからジョーシキ知らずと言われている僕にもわかる、なんとなく・・・。
そこで、ジョシュ兼カメラマンを雇うことにした。抜擢したのは、生まれも育ちも横浜、現在は本牧在住の僕の娘、薫美。こう書いて「くるみ」と読む。何でこの名前にしたか、昔のことなのでよく覚えていない。すまぬな、くるみよ。
久保田&ジョシュ、二人にとって人生初の「いずみ野駅」上陸は、まるで女神に祝福されたような五月晴れであった。
まずは歩く。右手にみえるのは、いずみ野団地
さっそく駅の北口を歩く久保田。しかし、ほかに誰も歩いていない。内心では、どーしよー、何にもネタなかったら、編集部に叱られると子どものように怯えている。しかし、ジョシュはそんなの関係ないと言わんばかりに、しゃがんで写真を撮りまくっている。
ジョシュは久保田のように寝そべらないから◎
変わらない街の魅力
歩いていると、ふと、なんだか気になる酒屋さんの看板が。「子どもがお酒を飲むわけじゃないのに、どうしてこの店の名前は『そとぐち』って平仮名で書いてあるんだろう?」と思い、店内へ。
どうして店名が平仮名なんだろう?
名刺を渡して、取材のコンセプトをお話すると、店主の外口さんは、ごく自然に話してくれた。
「うちは、今から33年前の1980(昭和55)年に開店したんだ。その頃は、周りにもなにもなかったとか言って欲しいんだろうけれど、実は今とそんなに変わらないんだよ」
「商店もほとんど増えていなしな。そう、高度成長とは無縁の街だったのさ」と自嘲気味に笑う。けれども外口さんはなんだか楽しそうだ。
外口さんはジェスチャーを交えながら、低くとおる声で話してくれた
こっちにおいでよ、街のこともっと詳しい人がいるからさ、と事務所の中までお邪魔させていただくと、そこにはいやに血色のよい高齢の男性が。名は山下さん。酒屋さんの常連(?)だという。
山下さんは“ずーずー弁”で楽しく話してくれた。故郷は福島だそうだ
はじめは、いづみ野の街の歴史の話だったのだが、気が付くと山下さんの人生の話題になっていた・・・。彼のお住まいは、酒屋さんの向かいの団地だそうだ。
よくよく見ると、山下さんの右手にあるのは、缶焼酎であった。なるほど道理で血色がいいわけだ。しかし平日の午前中からお客さんが事務所で一人で飲んでるって、なんだか平和だ。飲み過ぎだけには気を付けましょうね、なんて言えた義理でもない僕なのだが、素直にそう思ったので、偉そうに言わせてもらった。
最後に、外口さんに、なぜ店名を平仮名にしたんですか、と最初の疑問をぶつけてみた。特に意味はないねえ、とのお返事。なんだ意味はないのか。ちょっと拍子抜け。まあ、そんなものなのだろう。
お店を出て、道を一本脇に入ると、昭和レトロそのもののような店構えの薬屋さんが。入店するかちょっと躊躇(ちゅうちょ)していると、ジョシュから店内に入れと、強力な目力のアイコンタクト指示が。
・・・こうなるとどっちが助手だかわからない。
入店を躊躇(ちゅうちょ)するヘタレな久保田
こちらの薬屋さんは、いずみ野ドラッグといい、店主は川邊さん。お店は1977(昭和52)年に開業とのこと。やはり街はそんなには変わっていないと言う。
外口さんも川邊さんも、何だか街が変わらないことを申し訳ないように話す。けれど、そうだろうか?
生まれ育った街がいつまでも変わらないでそこにあるというのはとても幸せなことだと僕は思う。
「ええっ? 本当ですか」と疑い深い目の久保田