昭和町の地蔵

昭和駅

文字通り昭和の面影を残している──と言っていいかわからないが、この小さな無人駅を歩いて2分ほどもすると、その地蔵が目に入ってくる。
　

　

身代わり地蔵尊

身代り地蔵尊とある。側面には「操業安全」という文字とともに幾多の企業の名前が、反対の側面には「交通安全」という文字と多くの個人の名前が書かれている。
　

側面には「操業安全」「交通安全」とある

しかし、この地蔵の由来は、前を通過する人がまず見ないであろうと思われる背面にこそある。そこにはこうあるのだ。

昭和二十年四月十五日より七月二十六日未明までによる史上最大の空爆に於ける犠牲者の冥福を祈り今後の諸安全を祈願してこの地蔵尊を建立するものであります　昭和五十年七月二十五日
　

後ろにこのような文言がある
　

昭和電工硝酸工場の被害（画像提供：川崎市平和館　転載不可）

何の変哲もない、見過ごしそうなお地蔵さんだが、実はかつてこの地を襲った未曾有の人災を深く悲しみ、犠牲者の御霊の安らかなることを祈っておられたのである。
こんな街角の地蔵にも深い歴史と悲しみがある。今は平穏な街並みに、幾多の涙と嘆きが隠れている。

ほかにもJR川崎駅近くにある延命寺には、御幸地区戦災殉難者群霊墓碑があることで知られている。やはり空襲で亡くなられた方々の御霊がここで眠りについている。
　

　

川崎市の延命寺にある御幸地区戦災殉難者群霊墓碑

戦争の慰霊施設は、探せばほかにもあるかもしれない。歴史に関して健忘症でありがちな私たち現代人は、平和の尊さを訴え続けているこうした施設に、より注目を払っていくべきであろう。



取材を終えて

慰霊施設はおよそシンメトリックで、平和な面影をしている。日本人は8月になると戦争を考える。憲法改正だ、集団的自衛権だとかまびすしいが、こうした地上の喧騒を、戦火に消えた方々は、あの世でどう考えているのだろう。
取材できるなら、ぜひとも取材したい。

家族を戦災で亡くされた方々は、慰霊施設をどのような思いで見つめるのだろう。亡き人との絆を、確認するのだろうか。お地蔵さんのお顔に、愛した人の面影を見つけるのだろうか。

いまはただ、合掌。


─終わり─


取材協力
・川崎市役所健康福祉局
・川崎市平和館


◆横浜　平和祈念碑
住所／横浜市中区弥生町4　大通り公園内
アクセス／横浜市営地下鉄阪東橋駅より徒歩1分

◆慶珊寺　供養塔
住所／横浜市金沢区富岡東4-1-8　慶珊寺内
アクセス／京急電鉄京急富岡駅より徒歩15分

◆川崎市戦没者慰霊塔
住所／川崎市幸区南加瀬1-2-1　夢見ケ崎動物公園内
アクセス／JR新川崎駅より徒歩15分

◆昭和町身代わり地蔵
住所／川崎市川崎区扇町12
アクセス／JR昭和駅より徒歩2分

◆延命寺　御幸地区戦災殉難者群霊墓碑
住所／川崎市幸区都町4-2　延命寺内
アクセス／JR川崎駅より徒歩15分