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解体が報じられた、横浜最古の倉庫「旧日東倉庫」の歴史を探る!【後編】

ココがキニナル!

解体が取りざたされている横浜最古の倉庫「旧日東倉庫」の今後はどうなる?(はまれぽ編集部のキニナル)

はまれぽ調査結果!

9月1日現在解体の動きはないが、現所有者の「解体予定」にもまだ動きはない模様。一方で保存を求める動きは確実に大きくなってきている

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ライター:永田 ミナミ

2014(平成26)年8月1日(金)の神奈川新聞1面で報じられた「横浜最古の倉庫解体へ」という記事を契機として、日本大通周辺がざわついている。そして、そのざわつきによって逆説的に脚光を浴びることになった「旧日東倉庫」。

その倉庫が日本の近代建築史のなかでどのような位置にありどのような意味を持って今もなお立っているのかを、設計者である遠藤於菟(えんどうおと)の足跡と重ね合わせながら調査した前編に引き続き、今回は後編である。
 


後編では、前編で述べた歴史的経緯を踏まえながら現状と今後について考える
 



報道後の状況



歴史に思いを馳せるだけでは何も変わらないが、歴史を掘り下げることで、今後のあるべきかたちが、その片鱗だけでも見えてくるのではないかと意図したのが前編だった。

後編では、それを踏まえて、所有権が三井物産から、都内と横浜を中心に高級不動産物件を扱う株式会社ケン・コーポレーションへと移り、「早ければ8月中にも取り壊」され、駐車場などとして整備される可能性もあった倉庫の現状から、今後のかたちを探っていく。

報道の4日後の8月5日(火)、横浜市開港記念会館にて、公益社団法人横浜歴史資産調査会(ヨコハマヘリテイジ)主催による「旧三井物産株式会社横浜支店倉庫の保存を考える緊急シンポジウム」が開催された。
 


約120名が参加したシンポジウムでは、熱のこもった質疑応答も行われた
 

シンポジウムでは、吉田鋼市(こういち)氏(横浜国立大名誉教授)、西和夫氏(神奈川大名誉教授)、鈴木伸治氏(横浜市立大教授)、堀勇良(たけよし)氏(建築史家)、大野敏氏(横浜国立大大学院准教授)、水沼淑子(関東学院大教授)がパネルディスカッションをおこなった。
 


「富岡製糸場(群馬県)と同様、世界遺産になり得る資質がある建物」と堀氏
 

「近代建築史上極めてユニークな工法の実態を究明したい」と大野氏

 
シンポジウムでは、「建物の構造そのものに価値があるのでファサード保存(建物の正面など外観を維持すること)で外観を維持するのではなく、オリジナルの構造を残して修復し、保存すべきである」など、保存を求めるさまざまな意見が出たほか、「現在のような状況になる前に市などがもっと積極的に動いていれば」という言葉も相次いだ。
 


スライドでは1号館と倉庫のみの時代(増築竣工は1929年)の写真も紹介された
 

当時は、倉庫の2階窓から排気ダクトのようなものが出ていたことがわかる

 
また、今日までの経緯として、前所有者である物産不動産が「三井が独自で保存していく」ということで、夜間のライトアップや横浜市の認定歴史的建造物などの文化財指定を断ってきたということ、そして、その言葉と相互の信頼関係に基づいてやってきた、という話が出た。

横浜税関本庁舎や旧生糸検査所(横浜第2合同庁舎)ほど壮麗な建物ではない「旧日東倉庫」について、市がどれほど働きかけていたかはわからないが、1937(昭和12)年に建てられた「慶應義塾大学(日吉)寄宿舎(南寮及び浴場棟)」が市認定歴史的建造物になっていることからみると、資格はありそうである。

少なくとも、現在認定されている市認定歴史的建造物のなかに、橋梁や護岸、古民家などを除いた近代建築で、1910(明治43)年築の「旧日東倉庫」より古いものはない。
 


横浜市認定歴史的建造物「旧居留地消防隊地下貯水槽」の向こうに見える倉庫

 


解体か保存か



ディスカッションでは「今回のことは寝耳に水」という言葉が繰り返されたが、30年以上使用されないままとなっていたことを考えれば「オフィスビルを中心に事業展開をしているわれわれとしては、このままの状態で所有し続けることは経済合理性がないと判断した。最有効利用の方法を模索しているうちに売却先が見つかった(物産不動産事業開発部)」ことについては、企業の経営判断として合理性はある。

現所有者のケン・コーポレーションも「取り壊しを前提に購入した物件で、そのことは購入時に了解済み」という立場である。
 


市が買い取るとすれば、当然、財源の問題が出てくるだろう

 
物産不動産が手放すことになったのは、約30年もの間、ただ空っぽのまま閉ざされていた「元倉庫」だったからである。利用できない施設では「保存」というよりも「放置」になってしまう。

その意味では、鈴木氏の「倉庫は日本大通のまちづくりの最後の1ピース。ビジネス利用できるようにするといった所有者にもメリットのある方法などを提案することが、これからの横浜の『歴史を生かしたまちづくり』には重要」という意見が、保存を探る方向性としては、最も現実的と言えそうだ。
 


所有者に対して現実的かつ建設的な提案の重要性を説明する鈴木敏准教授


ファサード保存ではなく構造を残したまま活用するというのは非常に斬新で興味深い試みだ。もし実現すれば、今後の建築物の保存のあり方に、画期的な一歩を切り開くことになるのは間違いない。
 


旧館を周囲に残し、敷地中央に12階ビルが新築された横浜情報文化センター
 

13階建てビルの前に旧建物外観を復元した旧横浜地方裁判所

  


倉庫の現状



ケン・コーポレーションは、現時点では「時期は未定だが解体予定」という姿勢を崩していないが、予定は未定という言葉もあるので、ここからは外観の細部、そして横浜市立大学大学院の大野敏准教授に提供していただいた写真で、倉庫内部の構造を見ていきたい。
 


まずは外観から。右側の旧三井物産横浜支店ビルと一体的に建っている倉庫

 
倉庫ということで装飾らしいものはないように見えるが、近づいてみると、最小限ではあるが、屋根の周囲と柱頭部分に曲線的な装飾がほどこされている。ほかにも壁は煉瓦造の表面にタイルが貼られている。
 


柱全体が壁面から少し張り出しているのも古典的な装飾様式である

 
窓など開口部を大きく取るなど、鉄筋コンクリートの特性を生かした建築の先駆けであるベルギー人建築家ペレのフランクリン街のアパートも、のちのル・コルビュジェ(スイス/フランス)などと比べると古典的な建築装飾の延長線上にある部分が見られる。
 


チューリッヒにあるコルビュジェ最後の作品、ハイディ・ウェバー・ミュージアム(フリー画像)


旧日東倉庫も旧三井物産ビルも、その点は同じで、どちらも様式的装飾の古典と機能美のモダニズムの過渡期といえるだろう。
 


窓の周辺は真新しい白いタイルが貼られていて、修復のあとがうかがえる
 

中央扉の上はコンクリートの表面が少し剥がれているが充分修復可能だろう

 
シンポジウムで、建築史家の堀勇良氏は、世界各国の歴史ある鉄筋コンクリート建築物が、細部を修復しながら使用されている写真を紹介していたが、旧日東倉庫も外壁をきれいに修復すれば、外観の印象も変わりそうだ。
 


さて、この日は倉庫内に誰か入っているのかシャッターが少し開いていたので
 

内部にズームイン。こんな感じで左側には壁面と同じ重厚な扉がならんでいて
 


ビルと接する右側には業務用冷蔵庫のような箱がいくつもならんでいた

 
シャッター内部の柱には、強度を上げるためか、周囲を金属板で囲んであるものもあるが、道路から見える外壁と同じようなタイル壁と緑色の鉄扉が見えた。