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一見、横浜に関係なさそうな「ふぐ」をまつる「供養碑」が本牧にあるのはなぜ?

ココがキニナル!

ふぐ料理店「忠勇」の創業者・永島四郎氏は、「ふぐ供養碑」を建立し、ふぐ調理免許制度をつくった方だと聞きました。横浜伝統の「ふぐ料理」などと併せて取材してください(寿さん、アルミンさんのキニナル)

はまれぽ調査結果!

永島四郎氏はフグの調理技術を確立した人。供養碑は、「神奈川県ふぐ協会」設立20周年記念に建てられた。横浜伝統のフグ料理は特にない。

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ライター:松本 伸也

暑さ寒さも彼岸まで。
昔の人は上手いことを言ったもので、お彼岸を過ぎてすっかり秋になってしまった。
食卓や店の軒先でも秋の味覚が並んでいることだろうが、実はその時期にはもう“冬の味覚”の姿が見え始める。

「下関で“ふく”の初競り」
なんてのは毎年この時期のお話である。いまインターネットで調べてみたら今年は9月25日。昨年は9月24日だった。
 


トラフグちゃんです。今年も食べられないんだろうなあ


今回はそんなフグのお話。
依頼者によればプールでおなじみ本牧市民公園に寄り添う本牧臨海公園に「ふぐ供養碑」があるらしい。先に出た下関など水揚げ盛んな土地ならばともかく、なぜ横浜が・・・って、これまた調べてみたら、近場だと東京の上野・不忍池にも「ふぐ供養碑」があり、全国各地にも散見しているようだ。
 


こちら上野の不忍池にある「ふぐ供養碑」


やっぱり高価ながらも全国的なフグ人気ってことなのかしら・・・などとも思いつつ、毎度ながら百聞は一見にしかず。横浜の「ふぐ供養碑」を拝むべく、依頼者の情報を頼りに中区の東端、本牧臨海公園に飛んだ。
 

本牧臨海公園の「ふぐ供養碑」
 



飛んでない。今回はJR山手駅から徒歩。貨物駅も見ちゃったりなんかして


徒歩で1時間弱もかかってしまったが、本来ならば横浜市営バス「本牧市民公園前」から徒歩1分。現場に到着しました。
 


写真の右手にはおなじみのプールが。また来年


入り口の地図を眺めると・・・お、プールを見下ろす高台の場所、“小さな博物館”とされる「八聖殿」の近所に「ふぐ供養碑」の文字が見られる。
では、とりあえず丘の上を目指してみよう。

「八聖殿」の手前の高台まで到着。休息所から見渡す根岸湾には船も浮かび、手前の工場群は夜は穴場夜景スポットになる。見晴らしがいいところだなあ、と何気なく辺りを見わたすと・・・
 


休息所から見わたす工場風景。あ、左端に見たことのあるフォルムが


さっそくありました、「ふぐ供養碑」が。ぷっくりとお腹の膨らむフグのオブジェ、そしてその並びには文字が刻まれた“碑”がある。
 


こちらが「ふぐ供養碑」


“碑”の文字を読んでみると、
1970(昭和45)年3月23日に「神奈川県ふぐ条例交付 並に(ならびに)当協会創立二十周年記念」で建立されたことがわかる。全文は以下の写真でどうぞ。
 


こちらがフグのオブジェのそばにある「ふぐの碑」


そして建立した責任者はその“当協会”、「神奈川県ふぐ協会」の「理事長 永島四郎」氏のようである。

その場にて「神奈川県ふぐ協会」でググッと検索をかけたところ・・・ホームページの「協会概要」ページのいちばん下に「ふぐ供養碑」の文字の原版写真が掲載されている。
 


写真はスクリーンショットです


「神奈川県ふぐ協会」は、「会員同士の親睦や経営の合理化、公衆衛生の向上を目的」としつつ、「伝統のふぐ料理を日本の文化として継承することを目的」として活動している団体だそう。会員数は136で、そのうち横浜市内の店舗は79店ある。

そして永島四郎氏。キーワードに「永島四郎」と加えて再度検索をかけてみると・・・ヒットするのは1件、はまれぽの「みんなのキニナル投稿」・・・つまりはこの記事の依頼文ってことね(笑)。

キニナル投稿の内容を改めて確認すると、永島四郎氏は「ふぐ調理師免許制度を作った」、「南区睦町にある元祖ふぐ料理の店“忠勇”の先代」である。
睦町の「忠勇」・・・30年近く近所に住んでいた筆者としては、入ったことまではないが場所も佇まいも思い浮かぶ酒場だ。こちらを訪ねれば「ふぐ供養碑」や永島四郎氏のことがわかるはず。では行ってみますか――。

と、次にアタリをつけつつ本牧臨海公園を後にし、本牧の住宅街を歩いていると(実際には「迷子になっていると」だったのだが)、ちょうど「ふぐ」の文字が見える看板にぶち当たった。どうやらお寿司屋さんのようである。「ふぐ供養碑」から場所も近いし、ちょっとなにか聞いてみようか。



フグの猛毒を取りさばく「ふぐ包丁師」


 
こんにちは。
 


「本牧 やなぎ田」さんに闖入


「ふぐ供養碑? 『八聖殿』のところにあるやつですよねえ?」、ちょうど愛犬との散歩道なのだという「本牧 やなぎ田」のご主人、柳田和明さん。「やっぱりフグを扱っているから気になりますよね」という柳田さんだが、神奈川県ふぐ協会との最後の縁はもう16年前になってしまうらしい。
 


「16年前、独立して免許を取る時間ができたときの話ですね」


「ウチはそちらの協会には入っていないんですが、免許を取る際には『神奈川県ふぐ協会』が行っている講習に通わないとまず合格できないんですよ」とのことで、せっかくなので試験の様子などをうかがってみよう。

「試験は、学科はまだいいんですけれど、実技がとにかく厳しくて難しい。まあ当たり前ですよね、一歩間違えばお客さん死んじゃいますから。で、その実技の内容が、何種類かのふぐを並べてその名前を答えさせたり、ふぐを丸々さばかせて、食べられる部位と食べられない部位を分けたうえでその名称も答える。『食べられない・肝臓』ってな感じですね。あとはお刺身10枚をつくりました。これらを試験官の人が取り囲むように見ています」という試験風景なのだという。
 


こちら「ふぐ包丁師免許証」。包丁師なんですね、神奈川県は


取り囲むように見ている理由というのは・・・
「大雑把に言いますとね、毒がある肝臓を取りさばくときに肝臓を切ってしまったと。それでその包丁のままお刺身を切って、それ食べたら死んじゃうわけです。有名なふぐの毒・テトロドトキシンは楊枝の先くらいの量で一発アウトですから。取り囲んでしっかり見ているわけです」ということだそう。

なので「私たちお寿司屋みたいに、お客さんの目の前で作っている人はまだいいんです。それが厨房の中で料理を作っている人の中には、囲まれるとアガッちゃって・・・という人もいましたよ(笑)」なんてことも。
 


お店での認証書。「もうちょっとカッコいいデザインだといいのですが(笑)」


そして免許の交付自体は自治体(神奈川県)だが、その試験官は神奈川県ふぐ協会の方々だったりするので、“講習”というのはすでに予行練習のようなものになるらしい。

「私のときは1本のふぐを1時間でさばく講習で、10本分として10回の講習でしたが、私は筋がよかったらしく、途中から1時間で3本ほどさばいて回数を短縮して終わらせました(笑)」という柳田さん、当然のように一発合格したのが16年前なのである。
「ただね、なかなか厳しい試験なので、普通は自治体ごとの試験(免許)が必要なのですが、神奈川の免許を保持していると、別の自治体でも講習くらいで交付されるんです。これは協会さんに感謝しないといけませんね」

ところで冬場にはどんなフグ料理を出されるのでしょうか?
「常にフグを仕入れるわけではないので予約をいただかないといけませんが、いわゆるフグ皮ぽん酢や唐揚げ、お刺身に、お鍋、そして最高の雑炊ですね」
ご予算次第でさらに「最高の白子」が付いたりするそうだが、「とてもオーソドックスなラインナップ」であるとか。

「繰り返しになりますがフグには死に至る毒がありますから、“冒険”はあまりしないのですよ。石川県などでは、多くのフグで猛毒を持つ卵巣を2年近くぬか漬けにし、それで“毒が消えた”として食べる郷土料理がありますが、ぬか漬けで無毒化されるという科学的根拠はないとも聞きます」
 


ゴマフグの卵巣のぬか漬け


「根拠がない、つまりひょっとしたら味見で死んじゃう可能性があることはできませんし、試験の講習でも最初に『“痺れたら”その時点で絶望、ただお客さんの場合は希望を捨てずに速やかに救急車を手配してください』なんて言われるほど中毒事故には敏感なので、卵巣のぬか漬けのような伝統的な料理は神奈川県にはないはずです」

試験の模様など貴重な話をありがとうございました。
てなわけで今度は“本丸”へ。南区睦町、中村橋の「忠勇(ちゅうゆう)」へ、いざ。