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【横浜の名建築】神奈川県立図書館・音楽堂

ココがキニナル!

横浜にある数多くの名建築を詳しくレポートするこのシリーズ。第21回は、『神奈川県立図書館・音楽堂』モダニズム建築の第一人者が設計し、一流の腕を持つ職人たちが丁寧な仕事で仕上げた近代建築の傑作だった。

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ライター:吉澤 由美子

紅葉坂の頂上に、神奈川県立図書館と音楽堂がある。1954(昭和29)年に開館したこの建物は、第二次大戦後のモダニズム建築を牽引した前川國男(まえかわくにお)の設計によるもの。
 


ファサード(建物の前面/正面)の穴あきブロックと暖かみのあるパネルが印象的


四季や時間によって変化する太陽の光を読書に適した量でうまく取り入れる工夫や、東洋一と評価された音響という、図書館や音楽堂に求められる機能を美しいデザインで実現させた近代建築の傑作だ。



窮乏時代にこそ文化を 県知事の英断が生んだ音楽堂が併設された図書館



第二次世界大戦が終結して数年が経った頃まで、神奈川県には県立図書館がなく、横浜市図書館がその機能を代行していたため、1950年の図書館法公布を受け、神奈川県立図書館設立への要望が高まっていった。

そこで神奈川県は、1952年のサンフランシスコ講和条約の発効記念事業として県立図書館設立を企画。当時の神奈川県知事・内山岩太郎は戦後の文化復興に尽力した人物で、大戦後の窮乏時代に「こういう時代にこそ、大衆が落ち着いて音楽を楽しみ、明日への力を養う場所が最も必要である」と、図書館に音楽堂を併設する構想を打ち出す。
 


夜になると、室内から光が穴あきブロックを通じて漏れてくる

 
音楽堂併設図書館という構想は各方面から支持され、その設計は指名された5人の建築家によるコンペにより決まった。そこで選ばれたのが前川國男の主宰する事務所が提出した案。

前川國男は、東京帝国大学工学部建築学科を卒業したその夜に出発し、船やシベリア鉄道を経由してパリに渡り、近代建築の巨匠ル・コルビジェの元で学んだ建築家。

帰国後は、アントニン・レーモンドの日本事務所に入り、1935年に独立して事務所を設立した。
 


入口の黄、壁面の赤と緑、窓枠の黒。ル・コルビジェを思わせる色合い

 
第二次世界大戦前から戦中かけては国威を示すための古典主義や帝冠様式の建築が主流だったため、モダンな近代建築はなかなか認められなかった。そんな時代を経て、前川國男の近代建築は戦後一気に花開く。神奈川県立図書館と音楽堂は、前川國男の事務所にとって、はじめての公共建築設計だった。

建築されて40年になろうという1993年に紅葉ヶ丘文化施設群の再整備計画「かながわ文化施設21世紀構想」が持ち上がり、図書館と音楽堂は解体の危機に陥ったが、建築界を中心にして音楽家や市民などから保存運動が起こる。その後、バブル崩壊の影響も加わって構想は頓挫。この類稀な建物は現在に残ることとなった。
 


9年前に枯れかかったシンボルツリーの楠も、市民の声をきっかけに見事復活

 
神奈川県立図書館と音楽堂は、1999年にはDOCOMOMO(ドコモモ 近代建築の記録・保存のために設立した国際的組織)より『日本の近代建築20選』に選ばれるなど高い評価を得ている。



計算されつくした光が届く図書館室内



2つの建物は正面に音楽堂、左手に図書館というL字型の構成になっている。2つの棟はゆるやかな斜面に建てられていて、音楽堂の2階が渡り廊下で図書館の1階につながる。

図書館の壁面にある穴の空いた陶器のブロックは、音楽堂の深い庇の上にも並んでいる。
 


図書館の外壁を囲う、創建当時の穴あきブロック


30年ほど前、音楽堂と図書館をつなぐ部分の隙間が広がり、音楽堂の穴あきブロックが一部崩落したことがあった。

事故でもあったらと慌ててブロックを外すと、設計した前川國男が怒鳴りこんできたという。

電気系統を中心に建物の整備や管理を担当する伊藤さんは前川國男を「オヤジ」と呼び、その頃のことをいきいきと語ってくださった。
 


退職した後、委嘱で再び戻ってきた伊藤さん

 
「オヤジは烈火のごとく怒って、元に戻せと決して引かなかった」

すでに陶器の型がなくなってしまっていたので、新たに作り直して補修を行うことになったという。

 


新旧のブロックは、質感や個性などがかなり違う

 
最近、図書館の穴あきブロックもヒビや欠けが出てきているので、改修で来年3月には新しくする予定とのこと。

外壁に貼られたパネルは暖かみのある色合い。これは、壁の留め具にかけてあり、職人が目地材を手作業でひも状に伸ばしたものを入れて固定してある。

創建され50年以上が過ぎているにもかかわらず割れもヒビもなく、汚れも目立たない。
 


音楽堂上階のパネル。パネル自体を間近で見るなら図書館入口がおすすめ


基礎や柱に使われたコンクリートも職人の手捏ね。コンクリートミキサーに比べ、手捏ねは水の量が少ない。加えて、中に入れる砂利も破砕されたものではなく、丸い川砂利を使っていることもあり、強度が上がり劣化も少ない。