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【探訪】令和に生きる横浜の銭湯 ―南区永楽町・永楽湯―

【探訪】令和に生きる横浜の銭湯 ―南区永楽町・永楽湯―

ココがキニナル!

横浜にかぎらず日本中いたるところで減少を続ける昔ながらの銭湯。いったい今、横浜市内の銭湯事情はどうなっているのか。令和の時代をどっこい生き抜くキニナル現場を探る。(はまれぽ編集部のキニナル)

はまれぽ調査結果!

南区の永楽湯は、かつて周辺が横浜でもっとも長く続く遊郭だった時代からある老舗店。まわりの様子は変わったものの、やはりちょっと特殊な環境だ。その地域性ゆえに、今なお利用する常連客も少なくない。

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ライター:結城靖博

銭湯の舞台裏を拝見


 
バックヤード。銭湯の舞台裏ともいえる場所は、いったいどんな様子なのだろう。実さんはそこも気安く見せてくれた。

美しいステンドグラスの下の扉を開くと・・・
 


おおっ、なにやらゴチャゴチャしていそう
 

扉の中へ入ると、いきなり猫がお出迎え

 
名前は「チーちゃん」。御年だいたい6~7歳。もともとノラ猫だったが、今は永楽湯に居ついているそうだ。
 


「これがバーナー」と実さんが指さす

 
バーナーすなわち風呂釜、いわば銭湯の心臓部だ。昔は薪で焚いていたが、燃料費や環境の問題もあり、10年ぐらい前からガスを使っている。
 


これは「濾過機」。ほほおっ・・・

 
バックヤードから建屋の裏手に出ると、あったあった!
 


これぞ「ザ・銭湯!」のしるし、煙突

 
「昨年の台風で煙突が倒れたという同業者の話も聞きますが、うちは鉄骨で支えているから大丈夫」と実さん。
 


建屋の2階が実さんたちのお住まい

 
銭湯の舞台裏を拝見すると、どうしてもキニナってくるのが実さんたちの日々の暮らしぶりだ。坪川実さんの普段の時間割は次のごとし。

8時半頃起床→9時頃から脱衣所清掃・温水器洗浄など→10時に不動産屋オープン→正午近くに風呂釜の仕込み→2時間ほどでお湯が沸き、15時から銭湯開店。
開店後3時間は母・静江さんが番台に入り、18時以降は不動産屋を閉めた実さんにバトンタッチ。そして24時の閉店前から浴室の清掃を始め、日付が変わって遅い食事。就寝は1時半か2時だ。
 


洗い場は夜ごと閉店時に清掃する

 
これを毎日続けている。銭湯の休日は毎月6・16・25日。不動産屋の定休日は水曜日。日にちがうまくかみ合わず、まとまった休みはとりにくい。
大学卒業後会社勤めを経て、不動産屋として独立して20年。実家の銭湯のほうはその前から、延べ30年ぐらい関わっているという。

母・静江さんは昭和初頭の生まれだ。もしもお母さんが番台に入れなくなったら? と、ちょっと酷な質問をしてみたが、「そうなったら、不動産屋の営業時間を短縮して、開店時間から自分が番台に入る」ときっぱりと言われた。
 
 
 

周辺の銭湯事情と経営状況


 
実さんは結婚しているが子どもはいない。また、奥さんは銭湯経営には関わっていないそうだ。「うちも自分の代で終わりかと思います」と実さんは言う。やはり後継者問題が大きく立ちはだかっていた。
「でも、うちは独立した建屋だから、まだマシですよ。ビルの中の店は、他の使用者や居住者との関係や莫大な解体費用などで、やめるにもそう簡単にはいかないでしょう」

実は永楽湯の比較的近くに、2つの銭湯がある。
 


大通り公園沿いにある弁天湯

 
弁天湯は永楽湯から徒歩5、6分の距離。ここは集合住宅のビルの1階にある。
 


曙町の風俗街と伊勢佐木町通りの狭間にある利世館(りせいかん)

 
ここも永楽湯から徒歩10分とかからない。見ての通り、この銭湯はほかに店が入る雑居ビルの中だ(2階が利世館)。

「昔はこの界隈には1つの町内に1軒は銭湯があったものです。でも、今は大通り公園の向こうの2つの銭湯以外は、ここから上大岡まで、うちぐらいしか銭湯は残ってないですよ」と実さんは言う。

「業績はここ数年低レベルの横ばいというところ。最近は新たな客層も生まれています。ただ、今年に入って急に景気は悪化している。銭湯にかぎらずどの業界でも言ってますよ。消費税アップのタイミングとはズレてますから、それとは関係ないと思うのですが。不動産業も同じ。うちは賃貸を多く手掛けているのでまだいいのですが、売買中心のところは大変そうです」
 


永楽湯の存続には隣で営む不動産業の支えもあるかも
 

左には銭湯必須のコインランドリーも設置しているが

 
「コインランドリーはチェーン店が増えてきて、そっちに客が流れています」と実さんは言う。永楽湯の近くにも2軒ほどできたそうだ。
 
 
 

永楽湯の客層の変遷


 
「かつては、寿町の日雇いや港湾関係の労働者、それにヤクザ者も多かった」と実さんは昔の客層を回想する。
 


周辺には中央に植え込みがある道路が碁盤の目のように走る

 
「植込みのある道は全部昔遊郭があったところです」と教えてくれた。売防法施行以前は、その関係者の方々も銭湯を利用したのだろう。

では、今の客層はどうかと尋ねると、「女性は外国人、とくに中国の人が多いですね」。
 


大通り公園を越えると、そこは日本有数の風俗街・曙町だ

 
この界隈でお勤めの外国人の女性たちが、どうやら永楽湯をよく訪れるようだ。
「彼女たちは、来ると長い時間脱衣所で仲間同士で語り合い、コミュニティの場所として銭湯を利用しているみたいです」

いっぽう男湯のほうは、最近店を囲むように次々建ち始めたマンションに住む若い人の姿も目立つという。
 


とにかくやたらとマンションだらけ

 
そうは言っても銭湯の客は高齢の方が多いのではないかと訊くと、「高齢者は最近入浴付きのデイサービスを利用しますから」と。なるほど、これもまた時勢ということか。
また、新しいマンションが建ち古い民家やアパートが姿を消し、昔ながらの住人もどんどん減少しているようだ。
 
 
 

集客アップのために取り組んでいること


 
そんな状況下、現在の課題について尋ねてみると、「女性客の取り込み」だという。
「ほんとは男性が増えたほうが経営的には良い。なにしろ女性は長居するので回転率が悪いから。それでも、これからは女性客に期待したいですね」と実さんはちょっと苦笑しながら言う。

というわけで固定客確保のために、最近、自分専用の入浴セットの置場を女湯の脱衣所に作った。
 


なんじゃこれはと思った光景はそういうことだったのか
 

パーマ機の横には安く利用できるマッサージチェアも導入

 
とはいえ、女性には抵抗がありそうな番台からフロント形式への改修は考えていない。
「今さらそんな1000万円以上かかるようなリフォームはできませんよ」

できる範囲で地道な努力を続けていくしかない。そんな覚悟と意志を実さんの言葉の端々から感じた。