有隣堂が「10色のブックカバー」にこだわる理由とは?
ココがキニナル!
エコバッグの普及の時代に有隣堂が「10色のブックカバー」にこだわる理由がキニナル(スさん)/有隣堂では大きい本にカバーをかけてくれます。これは有隣堂ならではのこだわりなんでしょうか?(ハムエッグさん)
はまれぽ調査結果!
営業戦略であると同時に、レジでの会話を通してお客様とのコミュニケーションを演出する狙いも。大きな本にもかけるのは、純粋に書籍の保護のため。
ライター:松崎 辰彦
有隣堂の文庫本にはカラーカバーがついている
「カバーをおつけしますか?」──
書籍を買うと、書店のレジでこう聞かれることが多い。この言葉に「ハイ」と応えると、有隣堂では文庫の場合、「何色になさいますか?」とさらに訊ねられる。
ダークブルー・ライトブルー・グリーン・イエロー・オレンジ・ピンク・ワインレッド・アイボリー・グレー・ブラックの10色の中から指定できて、たとえば「オレンジ」と伝えると、店員さんが手際よくオレンジのカバーをかけてくれる。
有隣堂の文庫カラーカバーは多くの人に認知されている
(画像提供:有隣堂)
このサービスに関して、初めて有隣堂で本を買った客の中には、ときにかなり驚く人もいるようである。買った本にカバーをかけてくれるサービスは他店にもあるが、カラーのカバーで色を自分で選択できるのは、ほかに例がないようだ。
こうした有隣堂の文庫カラーカバーであるが、投稿者も書いているように、エコの時代にブックカバーなんてといぶかる向きもあるかもしれない。
「エコに逆行、ですか? いいえ、そうではありません。カバーを掛けることで本を守ることができますし、そちらの方がむしろエコであると私どもは考えております」
そう明言するのは有隣堂店売事業部の飯沼清隆さん。伊勢佐木町にある有隣堂本店でお話を伺った。
伊勢佐木町にある有隣堂本店
飯沼清隆さん
「このサービスは1977(昭和52)年10月の読書週間から始まりました。当時は単行本の売り上げが主流だったのですが、そうした状況の中で文庫本を普及させることを考えたときに出されたアイデアでした」
当初は純粋な営業戦略として発案された文庫カラーカバーだったが、現在ではもう一つ、大切な存在理由がある。
「お客様との会話のきっかけになれば、と。店とお客様のコミュニケーションの糸口になればということがあります」
“カバーをおつけしますか? 何色になさいますか?”という言葉をかけることで、「いらっしゃいませ、ありがとうございました」だけでは通じないものを、伝達しようとしているようである。
10色ある文庫カラーカバー
誕生当時はダークブルー・ライトブルー・グリーン・イエロー・オレンジ・ピンク・ワインレッドの7色だったものが、顧客からの「モノトーンもほしい」という声に応じてアイボリー・グレー・ブラックを加えたという文庫カラーカバー。ちょっとしたサービスと言えるが、それでも文庫本すべてに用意するとなれば、費用等もそれなりにかかるはずである。
どのカバーに人気があるか──と調べると、人気ベスト5はブラック・ダークブルー・グリーン・ライトブルー・ワインレッドの順番だとか(2009〈平成21〉年~2010〈平成22〉年)。
全部で10色の文庫カラーカバー
ここで伺ったのが、カバーの発注量。色ごとに分類していただいた。
半年分の枚数である。
ブラック | 206,500枚 |
ライトブルー | 201,300枚 |
グリーン | 195,900枚 |
ダークブルー | 182,350枚 |
ワイン | 167,800枚 |
ピンク | 137,000枚 |
オレンジ | 136,197枚 |
グレー | 136,650枚 |
アイボリー | 104,000枚 |
レモン | 87,779枚 |
どの色を見ても相当数、使用されていることがわかる。
それぞれの楽しみ方がある
それでは肝心の顧客の感想はどうなのだろう。
「何冊か買われるときに、一冊ずつどの色にするかを楽しんで選ばれる方が多いです」と飯沼さん。さらには「本を10冊買われるときに、すべての色をご指定されるお客様がおられます」と、なかなか熱心なファンもいるようだ。
「いつも同じ色を選ばれる方、季節で違う色を選ばれる方、ご主人のものとお子様のものとご自分のもので色分けされる方など、お客様それぞれの楽しみ方があるようにお見受けします」
読者にはおなじみの有隣堂の文庫カラーカバー
当然ながら“文庫だけでなくハードカバー用のカラーカバーはないの?”という声もあるが、単行本は大きさが一定でなく、そしてやはり費用面での負担を考えると、実現は難しいとのことだった(もちろん投稿者も記しているように、通常の大きさの単行本にも、有隣堂独自の落ち着いた色調のブックカバーが用意されており、また大型本にも、希望すればカバーをつけてもらえる。これはこだわりというよりも、あくまで本の保護であり、純粋にお客様へのサービスということのようである)。