農業生産法人「吉野家ファーム神奈川」の取り組みとは?
ココがキニナル!
牛丼の吉野家が「吉野家ファーム神奈川」という会社を立ち上げ、横浜市内の農家と共同で食材の自社生産を行っているらしいです、キニナル(だいさんのキニナル)
はまれぽ調査結果!
安くて安全な食材の確保はもちろん、耕作放棄地の有効活用や農家の販路開拓、循環型ビジネス、社会貢献など、さまざまなねらいが込められていた
ライター:河野 哲弥
従業員は12人、日本の未来を変える?
今回の投稿を受け、さっそく吉野家ホールディングスに取材を申し込んでみると、「ちょうど今の時期は、タマネギの収穫や田植えなど、1年の中で最も動きがあるシーズンです」とのこと。図らずとも絶好のタイミングで取材が実現することになった。
案内された先にあった同社の看板
流れとしては、「吉野家ファーム神奈川(青葉区・資本金170万円・従業員12人<2014年度>)」の代表取締役、日高敬一(ひだかけいいち)さんに詳しい話を伺い、その後、同社が作付けを行っている農地へ案内していただくことに。
環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)を巡る協議が進む中、今、日本の農業は転換期を迎えようとしている。同社のねらいはどこにあるのか、そもそものきっかけは何だったのか。読者にも身近な吉野家の、神奈川県における取り組みに迫りたいと思う。
時代の先を見据えた、吉野家115年目のチャレンジ
さて、2009(平成21)年に設立された同社だが、そのねらいは「牛丼」のブランド維持にあったようだ。作物の安全性などに厳しい基準を設けるには、目の届く範囲で直接農業を行うことが一番。そのため、自ら農業法人を立ち上げることになった。
プレハブの中では、収穫された野菜類の汚れを取り除く作業が行われていた
日高さんによれば、「仕入れ原価を安くするというねらいも当然ありましたが、農業全体を理解するに際し、自社でノウハウを保有することに大きなメリットを感じたのです」と話す。その後本格的な検討が行われ、最終的に以下3つの目的を掲げることになった。
1. 企業の社会的責任から、耕作放棄地などの有効活用を通じて地域農業を活性化するとともに、食の安全を通じた企業価値の向上を図る
2. 農家と協働で法人を設立し、農業のノウハウを取得する一方、社会活動を通じて地域貢献を行う
3. 生産物は吉野家ホールディングスが買い取り、神奈川の店舗で優先的に使用し、地産地消を促進する
なお、2014年度の段階で、従業員12人のうち2人が地元農家の方。ほか、日高さんを含めた10人のほとんどは、吉野家の店長経験者とのこと。
また、2013(平成25)年より「吉野家ファーム福島」も設立。現在、同じ事業形態としては、この2社のみとなっている。
しかし、理想と現実は、得てして違うもの。まだまだ課題も多いそうだ。その辺の事情を、現場を案内していただきながら、引き続き伺っていくことにしよう。
同じ育て方をしても、同じ結果にならないジレンマ
最初に案内していただいたのは、収穫期を迎えたタマネギの畑。農作業をしているのは障害者施設の皆さんで、同社が取り組む社会活動の一環となっている。
力を入れずに抜けるので、刃物も使わず、安全に作業が行える
収穫されたタマネギは、腐らないよう十分乾燥させる
みずみずしさが香るおいしそうなタマネギに見えるが、中には、吉野家が定めるスペックに満たない物もあるそうだ。いびつな形や直径が8.5cm以下のタマネギは、牛丼には用いられないとのこと。
手のひらの横幅がちょうど8.5cmだった。比較するとなかなか微妙
指導してもらった農家と同じ方法で、同じ品種を育て、同じ土壌を使って栽培しているのに、なぜか同じように育たないという。
「理屈じゃなくて結果がすべて。この辺が自然を相手にする農業の難しさですよね、線路を敷けばその上を走るというものではないのです」と日高さん。
では、こうした規格外品はどうしているのだろう。
「その答えは、別の場所にあります」というので、付いていくことに。
到着したのは、「マルエツ 港北ニュータウン中川駅前店」
店内にある直売店のイメージ(吉野家の資料より)
同社では現在、神奈川県下にある4店舗のスーパーに、こうした販売ブースを設けているとのこと。上記のような規格外品はもとより、提携先の農家が自分で生産した作物を販売することも可能。販路の開拓という意味で、農家の支援策を兼ねている。
ここで気になるのは、正規品のタマネギを使った牛丼は、どこへ行けば食べられるのかということ。これについて日高さんは、「残念ながら現在では、埼玉県にある食品加工工場で、他県産のものと混ぜられています。いずれは、県内の食材は県内で消費することを実現していきたいですね」と話す。