船も便数も売り上げも減った横須賀の「東京湾フェリー」、本当に大丈夫なの?
ココがキニナル!
久里浜と金谷を結ぶ東京湾フェリーの状況。1隻は代替新造ではなく廃船し、3隻体制から今では2隻体制に追い込まれています。遠い将来にはこの区間も橋で結ぶ計画もあります(よこはまいちばんさん)
はまれぽ調査結果!
東京湾アクアラインの開通と東日本大震災の影響で利用者は最盛期の3分の1に。現状、増船・増便や、橋がかかる可能性も低い
ライター:やまだ ひさえ
横須賀市の久里浜港と千葉県富津市の金谷港を約30分で結んでいる東京湾フェリー。
久里浜港に停泊中の東京湾フェリー
地元の小・中学生は、学校時代に東京湾フェリーを利用して千葉県への遠足があるので、慣れ親しんだ交通機関だが、本当に利用者は減っているのだろうか。
久里浜港の東京湾フェリーターミナル
東京湾フェリーは、観光バスや大型トラックも乗船が可能な貨客フェリーだ。取材日が平日だったとはいえ、閑散としている、という感じをぬぐえない。
取材時、大型車両の利用はなかった
乗客の数もまばらだ
同フェリーの現状はどうなっているのか。横須賀市久里浜にある東京湾フェリー株式会社の本社で、総務部長の山本道明(やまもと・みちあき)さんにお話を伺った。
東京湾フェリー株式会社本社
東京湾フェリーは、京浜工業地帯で生産された物資や、千葉県下で栽培された農作物を運搬する車を海上輸送することを目的に1957(昭和32)年9月に設立。1960(昭和35)年5月に運航を開始したカーフェリーだ。
車輸送を目的に就航した(『ふるさと横須賀』より)
道路事情が現在より悪かった昭和30~40年代とはいえ、東京都の西部方面からだと陸路で千葉県下に向かうより、第三京浜を経由し東京湾フェリーを利用したほうが時間短縮になったことは確かだ。
「当時は都内ナンバーの乗用車やトラックも多く利用していただいていた」と山本さん。
物資輸送の重要な位置を担っていた
「現在の利用車台数は、最盛期の3分の1。収益にいたっては割引などがあるためそれ以下になっています」と山本さん。減収の理由を伺ってみた。
東京湾アクアラインと東日本大震災の影響
「利用者減の一番の理由は、東京湾アクアラインの開通です」と山本さん。
東京湾アクアライン(フリー画像)
1997(平成9)年12月に開通した東京湾アクアラインは東京湾を横断し、神奈川県川崎市と千葉県木更津市を結ぶ15.1㎞に及ぶ高速道路だ。
川崎側に約9.5㎞の東京湾アクアトンネル、木更津側には約4.4㎞のアクアブリッジがあり、その間にあるパーキングエリア「海ほたる」は、観光名所としても人気を呼んでいる。
観光客に人気の「海ほたる」(同)
開通にあたり東京湾フェリーとしても手をこまねいていたわけではなく、調査や運航ダイヤの見直しなどを行っていた。
「当初、乗用車の運行料金は5050円と聞いていたのが、いざ開通してみると4050円。スタートから予想が狂いました」と山本さん。その後、5回の値下げあり2017(平成29)年4月現在は800円にまで下がっている。
対する東京湾フェリーは、車の場合は片道最低2360円から、それに大人片道720円となっていて、その差は大きい。
アクアラインの利用料金と大きく差が開いている
しかし、「利用が減った原因は料金だけはありません」と山本さん。利用できる時間もネックになっているという。
フェリーには運航時間が決まっている
フェリーの始発は、久里浜港、金谷港ともに午前6時20分。午後8時前には最終を迎える。また、台風や暴風など悪天候の影響で思いがけない運休をすることもある。
一方、東京湾アクアラインは24時間365日、時間に関係なくいつでも走行可能だし、天候に大きく左右されることも少ない。
時間、天候による制約が少ない(同)
東京湾アクアラインに続いてフェリー離れに拍車をかけたのが2011(平成23)年3月11日に起こった東日本大震災だ。
仙台市の東方沖70㎞の海底を震源地とする未曽有(みぞう)の大災害は、日本における観測史上最大のマグニチュード9.0を記録。東北地方から関東地方までの太平洋沿岸が津波の被害に見舞われた。
巨大津波による被害が甚大だった(同)
何日にもわたった余震。再び津波に襲われるかもしれないという恐怖。加えて同災害時に起こった東京電力福島第一原子力発電所の事故による放射能汚染への心配は、旅行や観光を自粛する動きにつながった。
福島原発事故による放射能汚染が問題になった(Wikipediaより)
東京湾フェリーが就航している横須賀港のある神奈川県内も金谷港のある千葉県内も有名な観光地がたくさんあるが、地震の影響に加え放射能汚染や液状化現象の心配が懸念された地域でもある。
地震発生と同時に修学旅行や遠足といった学校関連の団体客やバスツアーのキャンセルが続出した。
キャンセルは大震災の年の夏まで続いた(フリー画像)
東京湾アクアラインの開通と東日本大震災。この2つが重なったことが、東京湾フェリー利用者減の大きな要因だ。