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昭和40年代まで横浜駅西口付近で定期的に鳴り響いていた鐘の音の正体は? アノ施設に突撃!

ココがキニナル!

昭和40年代まで、横浜西口あたりで午前10時と正午に鐘の音が鳴り響いていました。午後10時には寂しいメロディーの鐘が。はるか昔の話ですが、その鐘のことを調べていただけませんか?(NRMさんのキニナル)

はまれぽ調査結果!

時間帯など投稿内容と食い違う部分もあるが、天理教神奈川教務支庁内で行われていた、おつとめの鳴り物の鉦の音と思われる。

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ライター:小方 サダオ

西口駅前に住む住人に伺う



そこで駅前の様子を1日中把握していた可能性の高い、駅の近くに長年住んできた地元の住民に話を伺うことにした。

まずは鶴屋町に創業1863(文久3)年よりお店を構える老舗「田中屋」の女将さんに伺うと「当時は高いビルも少なかったため本覚寺の鐘の音がよく響いていました」とのこと。
 


神奈川区高島台に鎮座する本覚寺
 

本覚寺の境内


しかし住職に伺うと「鐘は夕方に鳴らすだけです」と答えてくれた。

また、当然ながらお寺の鐘の音がメロディに聞こえる人はいないだろう。
 


本覚寺の鐘
 

鐘は夕方にだけ鳴らすという


次に同じく鶴屋町に長く住む、Sさんにお話を伺うと「メロディといえば、夜トランペットを外で吹いてる人がいたくらいかな。でも天理教が太鼓を鳴らしてたのは憶えているけれどね。今はビルになったけれど、昔は2階建ての建物だったから中の音が聞こえたんだよ」と答えてくれた。

天理ビルといえば、横浜駅前に建つ高層ビルとして知る人は多いことだろう。
 


横浜駅前の横浜天理ビル
 

天理教神奈川教務支庁 入口


早速横浜天理ビルに赴いた。
「天理教神奈川教務支庁」は、27階建ての高層ビル内の12階にあった。

信者の池見さんに“太鼓の音”に関して伺うと「それは決まった時間に行われる“おつとめ”の鳴り物の音のことかもしれません」とのこと。

そこで同じ階にある参拝所を見せてもらうと、太鼓や鉦(しょう)などが並んでいた。
 


おつとめで使う鳴り物


そのおつとめには、太鼓や鉦を含めた複数の鳴り物が用いられる、とのこと。

そこで詳しいお話をご存じの方に関して伺うと、当時この場所にいらっしゃった信者を紹介していただいた。

高橋さんにお話を伺う。
「私は1961(昭和36)年より15年間『天理教神奈川教務支庁』にいました」
 


当時の天理教神奈川教務支庁(青い矢印『昭和の横浜』横浜市史資料室所蔵)


「おつとめでは、建物の一室にある神殿で、歌に合わせて鳴り物を鳴らし踊りを行います。現在は午前9時半と午後4時に行われていますが、当時の時間は、午前6時と午後6時の朝と夕方で2回。1回15分ほどでした」

「しかし特別な日は時間が異なります。例えば青年会や婦人会、また毎月20日など月例会のおつとめの時間は長く、午前10時から1時間半ほどがかかります。鳴り物、てをどり(=手踊り)などの役割を交代で行い、鉦や太鼓のほかに、笛や小鼓などを加えて演奏しておりました」

「そのころの支庁は2階建てで、窓を閉めて行っていました。しかし以前、約50メートル先までおつとめの音が聞こえることを確認したことがありますので、漏れた音が外を通る通行人に聞こえていたかもしれません。当時は支庁の裏手の部屋におつとめの部屋があったため、正門側の岩崎学園の方ではなく、裏手の電電公社あたりにいた人には聞こえた可能性があります」とのこと。
 


現在の横浜天理ビルの周辺


投稿にあった時間帯について伺うと「午前10時や正午に聞こえた、というのは、特別な日のおつとめのときには時間が合うかもしれません。しかし午後10時という夜に行うことはありませんでした。熱心な信者が夜に練習していた可能性はあるかもしれませんが、そのような人がいたかどうかは分かりません」と答えてくれた。

また投稿の「昭和40年代まで聞こえていた」に関しては「天理教神奈川教務支庁は、天理ビル建設が決まり、1971(昭和46)年に白楽に移転。1972(昭和47)年には今までの支庁の取り壊しが始まり、1973(昭和48)年に天理ビルが完成しました」
 


前方に建っていた相鉄ムービルがなくなり、天理ビルが駅からよく見えた時の写真


「そのため『昭和40年代まで』というのは、天理ビルの建設の時期と重なっています。その後に聞こえなくなったのは、2階建ての建物からビルの中、地上12階で行うようになったため、聞こえなくなったからかもしれません」と答えてくれた。
 


1956(昭和31)年の天理教神奈川教務支庁周辺(明細住宅地図・昭和31年)




月例会を取材



ぜひともおつとめの様子を見たいと思い、池見さんに取材をお願いすると、快諾してくれた。
そこで「4月の月例会」にお邪魔させてもらうこととなった。

開始時間が午前10時ごろ、とのことで、当日お邪魔すると、まずは池見さんに天理教に関してお話を伺った。

神奈川教務支庁の沿革に関しては「1951(昭和26)年に、土地付きの建物を購入したもので、木造の2階建ての建物が数棟建っていました。敷地内には客殿や、住み込みの人達が泊まる宿泊施設や、保育園の神泉愛児園(しんせんあいじえん)がありました」とのこと。
 


旧神奈川教務支庁
 

旧神奈川教務支庁の内部
 

旧神奈川教務支庁裏手にあった愛児園


この場所を選んだ理由に関しては「駅から近かったからだと思います」と答えてくれた。

おつとめでは「みかぐらうた(御神楽歌)」が演奏されるという。

「神楽ということから神道に近いのですか?」と質問すると「宗教が仏教か神道に限られた時代には、一時的に神道の一派として活動を行っていた時がありましたが、教義は全く異なります。おつとめが作られた当時(江戸末期)は『神様の歌=神楽』だったのだと思います」とのこと。
 


奈良県天理市の天理教本部


教義に関して伺うと「天理教は、江戸時代末に立教、戦前には新宗教では国内最大の信者数でした。天理教では『天理王命(てんりおうのみこと)』を祀っています。天理王命は人間を創造しました」

「その目的は人々が『陽気ぐらし』をしている姿を見たい、というものです。そして教祖である中山みき様は、神様の思し召しを伝え、また世界中の人々が仲良く『陽気ぐらし』を実現していくためには何をしたらいいのか、ということを教えてくださいました」
 


神奈川教務支庁内のお社


「そのためには、おつとめが最も大切です。自分が助かるためだけでなく、人が助かることを願いつとめます。互いが『たすけあって』いくことが『陽気ぐらし』の世界なのです」

「奈良県にある本部には東西南北に神殿が配置され、その中央に『ぢば(地場)』と呼ばれる場所があります。天理王命が人間を創造し、また鎮まっている場所です。そこには幅90cm、高さ2メートルほどの『かんろだい(甘露台)』と呼ばれる13段に積まれた六角形の台があります。神のお力がいただける重要な場所です」
 


天理教本部の社殿


「また神様への感謝の気持ちを身の行いで表すことを「ひのきしん(日の寄進)」と言います。清掃活動など、いわゆる奉仕活動(ボランティア)と似てはいますが、ただ助ける『して上げる』ではなく、感謝の気持ちで『させて頂く』のです」

「『ひのきしん』も重要な活動で、信者たちは熱心に取り組んでいます。また日常の活動以外に、災害時には『災害救援ひのきしん隊』が組織されています」とのこと。
 


神奈川教務支庁内の参拝場


今回のおつとめに関して伺うと「仏教ではお経を唱え、神道は祝詞を読み上げる形です。しかし天理教のおつとめは、旋律のついた歌と演奏、さらに身振り手振りがそろって完成形となります。お祈りに旋律がついているものは珍しく、そのため『踊る宗教』と呼ばれることもあります」

「ここでは、朝9時30分と夕方4時に毎日のおつとめをしています。みかぐらうたは全部で6節ありますが、毎日のおつとめでは1~3節をつとめます。今日の月例会のおつとめでは鳴り物は多いほうですが、正式には琴・三味線・胡弓(こきゅう)が加わります」と答えてくれた。



みかぐらうたの演奏(おつとめ)がはじまる



今回は「みかぐらうた」全16曲のうち、10曲(第1節・第2節・第3節・第4節・第5節前半)を演奏する、という。
ここまでで1時間強かかり、全てつとめると2時間弱かかるそうだ。
 


みかぐらうたの台本


時間になり、参拝所に「天理教」と書かれたハッピを着た10数名の信者たちが集まった。

まずは代表者が前に出て「4月の月例会をはじめます」と告げる。つぎに拝殿に向かって、全員で柏手(かしわで)4回のあと「ありがとうございます」と唱えながら一礼をし、再び柏手4回。これを3回繰り返す。
 


拝殿に向かい柏手をする信者たち
 

一礼をする信者たち


つづいて鳴り物、歌(地方・ぢかた)、てをどりの役割の配置につく。地方が合図木を叩き歌い始める。すると、それに合わせて演奏が始まり、一段高くなっている神床の上では歌いながら舞いが始まった。
 


歌いはじめる(神床上左奥)
 

6種類の鳴り物により演奏が始まる
 

てをどりをはじめる信者たち
 

円を描いて舞う踊りも
 

合掌しながら回る


旋律としては、小鼓と笛の音が神道の雅楽のような雰囲気を与えるが、鐘の音の影響か、厳かというより明るい印象が残るものだ。また歌も音程が高めで、明るい高揚感を感じさせる。
踊りは身振り手ぶりを交えながら、合掌などのお祈りのポーズを舞いながら行っているかのようだ。

「みかぐらうた 第4節『よろづよ八首』」の音声はこちら
※音が出ます(2分19秒)