家系総本山「吉村家」創業者、吉村実氏にインタビュー。今の家系ラーメン業界について何を思う?
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家系ラーメンの生みの親、吉村実氏にインタビュー。「家系ラーメンとは」「直系店舗・人を育てること」「吉村家の今後」についてうかがう。
ライター:はまれぽ編集部
ーーー吉村氏にとって酒井製麺さんの存在は
「酒井製麺さんは、私の命の恩人。酒井さんがいなかったらここまで伸びなかった。ここまで大きくなったのは、酒井さんを掴んだから。僕の(素人の)作ったスープと酒井さんの麺がぴったし合ったんだな。僕が修行していた所の社長が酒井さんを裏切って、自家製麺を始めた。それでそこを飛び出して、僕は自分でラーメン屋さんを始めた。それで僕が最初に(酒井製麺さんの麺に)戻ったから、酒井さんもそれで弾みがついた」
「酒井さんの麺はやっぱり美味しい。使いたいって言っても簡単に使えない。あの人は義理堅いから、近所で使っている方がいると入れさせないんだよ。僕から言わせれば、酒井さんはそこが違うね。僕も酒井製麺さんと同じだから。酒井さんとはそういう関係」
ーーー店前に掲げてある「お客様は我が味の師なり」とは
「僕ほら、脱サラでしょ?味が全く分からなかった。ラーメンが分からなかった。女房がラーメン好きだったんで、それで勉強させてもらったんだけど。結局ね、(昔は)南部市場の前にあったから、寿司屋さんとか居酒屋さんの店主が『これはこうじゃねぇの』ってアドバイスしてくれたんだよ。普通はそんなこと教えない。だからそれは僕の人徳だと思ってる」
「人間、死ぬまで勝負だからな。今がいいからって有頂天になってたらダメだ」
ーーー「今がいいな」と思ったことは?
「ねぇな。苦しいことばっかりだな。今は人がいないから頭いてぇな、ラーメン業界は特に。だから(従業員の給料を)一律5万円上げたじゃん。悪くはないと思うけど、今もっといいところがあるからな。でも、学歴ないやつとか過去にいろいろあった人間とかはなかなか難しい。そういう人間も立ち直れるやつは立ち直るし、そうならないやつもいる」
ーーー直系を外れたラーメン屋さんが4店舗ありますが・・・
「横浜市K区の店はイジメ。僕そういうの嫌いだから。『とにかくまじめにやりなさい』と言い続けた。怖い顔してるんだから、優しくしたら逆に(ギャップがあって)いいよって言ったんだ。言った時は聞くけど、1~2日経つと忘れちゃう、残念だけど。僕のところに20年いたけど、奥さんもキツくて、2人でギャーギャー騒いでいる。店の雰囲気も悪くなるし、吉村家と同じくらい売っていたから、城が建つんじゃねぇかと思ってたけど。お兄ちゃんたち(従業員)が逃げちゃったから、それ聞いたときに『あぁ、もうだめだ、やめよう』と思った」
「千葉県K市の店は金儲けに走った。金儲けに入ると人は変わる。10年間、K市で1位だったけど最近は名前も出ない。あそこもね、移転するまで僕が行ってたんだけどね。金は追っちゃダメ、追われねぇと。僕は金儲けやらない、教えてもロイヤリティは一切とらない。お金は今日3000円くらいの夜飯が食えればいい。そんなもんでいい」
「神奈川県F市の店は『5000万円貯まったから辞める』と。また違うところでラーメン屋さんやっているけどね。ガラを炊いて捨てるって作業だけでも体力がないとできないし、ゴミ代も出るし、限界もあったんじゃないですか」
「横浜市K区の店は女性絡み。パワーのある子だから、すんごいモテるんだよあれは。0時ごろに終わったらすぐ飲み屋に行っちゃう。でも、ここは奥さんがしっかりしている」
「教えた時はみんな一緒に教えていたけど、皆さん変わるでしょ。だから僕は、それ以上にいつも一番になってないとダメなの。だいたい女に溺れちゃう。若い衆にも示しがつかないよ。そんなにいい女がいるんかね?私にはちょっと分からない」
家系ラーメン店経営者として立派に運営・成功した免許皆伝店(直系)だけに掲示されている
ーーー今後、吉村氏が直接指導することもあるのか
「僕が直接教えたのは今の直系の方だけ。仕事の面白い人間と、仕事習う人間は環境が違う。ダメなラーメン屋さんは、畳むか俺のところに修行し直しにこい。僕、ウェルカムしてあげるから。最後の社会に対してのご奉公だよ。無料とは言わないけれど。僕はそれを言いたくて今日は来たんだよ」
「朝仕込みを見れば吉村家はだいたい分かっちゃう。みんなスパイを送り込んでくるんだよ(笑)。でも新しく入った従業員を朝入れないから。それで教われないって分かると、だいたい3日くらいで辞めてくね。だから、金はあるけど本気で学びたいって奴からは金をとるよ。いい味を僕が自ら教えるんだし、店を見たりするんだから。醤油ひとつでも、その違いが分かるように教えないといけない。まず、吉村家の醤油を舐めることなんて普通はできないから。すべてが正しいとは思わないけど、45年間トップを走り続けてきた人の話だから聞くのも一理あるんじゃないかと思うんだよ」
何を持って「家系」と呼ぶか、定義があるわけではない。しかし、吉村氏の言葉一つひとつからラーメンに対する本気度や愛情がひしひしと感じる。吉村氏自身が今日まで、常に最前線で『家系』を守り続けていることは明らかだ。
「こうやって喋ることは滅多にないな」
これは失礼かな・・・と思うような質問にも、嫌な顔をせず「自分の得にならないこと言ってもしょうがないのにな!」とユーモアも交えながら話をしてくれた吉村氏。メディアには登場しないイメージがあったけれど、全くそんな雰囲気を感じさせない。
30年ほど前にラーメン評論家、石神秀幸(いしがみ・ひでゆき)氏主催のラーメン屋店主の対談をした際、店内に流れていたBGMで話が聞き取りづらかったのか、吉村氏が言っていないことまで吉村氏の発言として雑誌に掲載された過去があるという。過激な発言は全て吉村氏の発言として書かれ、「記事見たら出なきゃ良かったって思った(笑)」と思ったのだとか。
「評論家なんかね、あんなの提灯野郎だから。だったら自分でやってみろよって。そうじゃねぇか?偉そうにラーメン屋さんを見下したみたいな喋り方をして。でも今の20~30代のお兄ちゃんたちは、評論家の意見を聞くわけよ。ただ俺は年の功だし、経験がある。俺たち(の年代)はもっと知ってるから」と吉村氏。
裏表がなく、とても潔い。吉村氏が現役の職人であり、成功した経営者ということを改めて実感する。
後編では、吉村氏が美味しいと思うラーメン店や「吉村家」移転の噂、60歳になるまでお酒を飲まなかったという吉村氏のパーソナルな部分をお届けしたい。
ーつづくー
吉村家
住所/横浜市西区南幸2-12-6
電話/045-322-9988
営業時間/午前11時~午後10時
定休日/毎週月曜日(祝日の場合は翌日)
http://ieke1.com/index.html
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※情報は取材当時のものです