逗子にある世界一小さい科学館「理科ハウス」ってどんなとこ?
ココがキニナル!
逗子の池子に「世界一小さい科学館」と看板を出しているところがあります。一見、科学館にはとても見えない小さな建物ですが、中がどうなっているのか気になります(おはようさんさんさん)
はまれぽ調査結果!
「世界一小さい科学館 理科ハウス」は、最新科学を学ぶことができる体感型の科学館。大きい科学館のような派手な展示物はないが、館長さんと学芸員さんの熱のこもった科学トークに引き込まれる。
ライター:福田 優美
解説がおもしろすぎて時間を忘れた
森さんが出してきたのは、食品や雑貨など拍子抜けするほど科学館っぽくないものたち。日常生活の中にあるこれらを使って「動物、植物、菌類、バクテリア(細菌)、アーキア(古細菌)」などに分類する。
生物分類のテープ。ここから化石、地層へと話が広がった
自慢ではないが筆者は超がつくほどのド文系。本気でかかったが、半分以上不正解だった。もちろん回答しただけでは終わらない。森さんはさらにこちらの考えを深掘りしてくる。ひとつ理解が深まると、新たな疑問が浮かぶ。
しかし、簡単には教えてもらえない。「あなたはどう思う?」と質問返しを受けたり、「じゃあこれを見てみよう」と本や資料が出てきたり。もはや森さんの術中である。そうこうしているうちあっというまに1時間が過ぎた。取材を断られたとき、来館者一人一人の滞在を大事にしたいと話していたことを思い出す。
森さんの解説がおもしろくてわかりやすくて、ぐいぐい引き込まれた
「科学館ってパッと観るだけじゃ全然おもしろくないんですよ。じっくり見て触れて、自分で考えて、誰かと対話するからこそ、科学のおもしろさを体感できるんです」
森さんのこの言葉は、まさに理科ハウスの開館理由だったということはあとでわかる。もっと話を続けたいところだったが、あいにく時間が限られていたので、森さんにインタビューをはじめたい。
いっかいの主婦が科学館を開館したわけ
まずは、森さんがどういう経緯で理科ハウスを開館したのか聞いてみたい。
「元は中学校の数学教師をしていました。結婚を機に退職して関東に移り住んでからは、自宅で時々家庭教師をする主婦でした」
主婦から科学館長とは稀有な経歴の持ち主だ。この時点ではまだ科学館をオープンすることは想像ができない。
「時間が余っていたので、子どもたちと楽しく学べないかなぁと思って、上の子が小学5年生の頃から自宅で理科の実験をはじめたんです。1994(平成6)年頃かな。図書館で借りた本を参考にして、身の回りにあるものを使ってやっていました」
実験に使ったのは電子レンジや洗濯糊などどこの家庭にもあるもの
ほんの少しだが話が近づいてきた。専門的な知識や道具がなかったので、自宅にあるもので簡単にできる実験が中心だった。スライムや大きなシャボン玉を作ったり、ペットボトルロケットを飛ばしたりするうち、森さんは実験の楽しさにのめり込んだという。
「子どもが『なんでこうなるの?』って目をキラキラさせるんですよね。その素直な反応がうれしくて。でも正直言うと、子ども以上に私がハマったんですよ」
と当時の様子をうれしそうに振り返る。
実験を繰り返していると子どもが友達を連れてきたり、友達の親から質問を受けたりすることが増えた。多くの人に理科や実験の楽しさを知ってもらいたいという想いで、半年後にはミニコミ誌『なるほどの森』を発行するようになり、図書館や児童館など近所で配布した。
当時1994(平成6)年といえば、インターネットが一般普及しはじめたころ。ネット上のサークルで知り合った人がミニコミをWEB化したところ反響を呼び、マスコミに取り上げられた。WEB版『なるほどの森』は今もネット上で公開している。
WEB版『なるほどの森』
それから少しずつ科学にまつわる仕事を受けるようになった。出版社から著書を出したり、文部科学省が主催する全国の科学館と学校をつなぐ事業に携わったりするうちに、各地の科学館のことを知った。
森さんの著書『科学で遊ぼう なるほどの森』、『作る・見る・調べる わくわく実験室』
「科学館に行って展示を見ると、自分には理解できないものに出会うことがあります。そんなときガイドの人に話を聞きたいと思うのですが、当時はガイドの人が全然いなくてモヤモヤが残るんです。それでわかりやすく解説してくれる人のいる科学館を作りたいと考えるようになって。それで、自分でやってみようと思ったんです」
森さんは科学館の勤務経験もないまま、2006(平成18)年頃には科学館オープンを決意し、その2年後には開館を実行した。まさに「やってみないとわからない」という実験魂がなせる業だ。
「大きな公園の近くで人通りがあることを条件に土地を探していたら、この場所が売りに出されていたので、購入して科学館を建てました」
大掛かりな実験もできる広いグラウンドがある第一運動公園が近くにある
壮大な実験といえば楽しそうだが、失敗したらとんでもない痛手を負っていただろう。森さんは軽やかな口調で話してくれたが、なみなみならぬ覚悟の上だったはずだ。
「個人で科学館を建てる人なんてまずいないから、設計士にイメージを伝えるのに苦労しました。科学館をつくると言っても『はい?』という感じで目が点でしたね」
理科ハウスの建物には、たくさんのこだわりが散りばめられている。その1つがブロック造り。1つ13kgもある重厚なブロックは保温性が高く、夏は涼しく冬は暖かい。そのうえ設計士によると建物は300年保つと言われている。
室内と屋外、ブロックとレンガが使用されている
2008(平成20)年にオープンした理科ハウスは、その後10年間、さまざまな展示物やイベントで来館者を楽しませてきた。特に好評だったイベントの1つが、南極からのライブ授業だ。常連客の1人だった都立中学校の女性教師が、第60次南極地域観測隊に派遣され、現地から生中継で授業をしてくれたのだ。子どもも大人も大興奮だったという。