逗子にある世界一小さい科学館「理科ハウス」ってどんなとこ?
ココがキニナル!
逗子の池子に「世界一小さい科学館」と看板を出しているところがあります。一見、科学館にはとても見えない小さな建物ですが、中がどうなっているのか気になります(おはようさんさんさん)
はまれぽ調査結果!
「世界一小さい科学館 理科ハウス」は、最新科学を学ぶことができる体感型の科学館。大きい科学館のような派手な展示物はないが、館長さんと学芸員さんの熱のこもった科学トークに引き込まれる。
ライター:福田 優美
作りたかったのは「議論や実験を通して答えを見つける科学館」
「10年間いろいろなことをやってきました。理科ハウスは展示物を入れ替えるペースが早くて、自分たちでも何をしたのか忘れてしまいそうだったので、記録を残す意味も込めて反響のあった展示を中心に、1冊の本にまとめました」
10年間の軌跡を書いた著書『理科ハウス図録(2500円/税込、以下同)』理科ハウスショップで販売中
執筆に集中するため理科ハウスは半年間、閉館。2019(令和元)年5月の再オープンにあたって、対象年齢を小学校3年生から中学生以上に引き上げた。
「10年間を振り返って、私たちが作りたいのは『議論や実験を通して答えを見つけられる場所』だということに、改めて立ち返ったんです。そのためには『なぜ?』という疑問が自分の中で湧き出て議論するための、ある程度の基礎知識が必要なんですよね」
小学生にはハードルが高いと考え、思い切って対象年齢を引き上げたのが功を奏した。以前は触ると危ないからという理由でしまっていた実験道具を、現在は自由に出しておけるようになったのだ。もう1つ、森さんが中学生にこだわる理由がある。
来館した中学生と数学の議論を交わす森さん
「最近、幼少期から科学に触れさせるというのが流行っていますよね。国立科学博物館でも幼児向けの展示が人気です。それも大事だけど、小さい子が多いとどうしても中学生の行く環境ではないと見られてしまう。中学生は科学的議論ができるようになる大事な時期なのに。それで中学生が行きたくなる、中学生が優先される科学館にしたいと考えました」
この日は近隣の中学校の男女グループが、プラネタリウムを目当てに来館していた。特にイベントがない日でも、本を読んだり宿題をしにふらっと寄る子も少なくない。
プラネタリウムの中でクイズ大会。楽しみながら宇宙の知識を覚えられる
理科ハウスは科学者・石原純の資料館でもある
理科ハウスは科学館であると同時に、明治・大正に活躍した科学者で歌人の石原純(いしわら・じゅん)の資料館でもある。アインシュタインの相対性理論を日本に紹介したことで知られ、1922(大正11)年の来日の際には講演の通訳をつとめたこの人物は、森さんの祖父にあたる。
『アインシュタイン日本で相対論を語る』(講談社)より引用
「おじいちゃんが科学者だってことは知っていましたが、人に聞くまでそんなに有名な人だとは全然知りませんでした」
森さんが子どもの頃から、自宅には祖父の本がたくさん並んでいたが、開いたことはなかったという。それがミニコミを書き始めた頃、何気なくページをめくってみると目から鱗が落ちる思いだった。
「どう書けばうまく子どもたちに伝わるのかと悩んでいた頃に、ふと祖父の本を開いて驚きました。まさに私が言いたいこと、したいことがとてもわかりやすく書いてあったんです」
祖父石原純さんの著書は現在も物理学を学ぶ大学生の必読書
それから祖父の本を読み漁った。明治・大正を生きた偉大な科学者の言葉遣いからは、時代を越えても変わらない理科に対する真摯な姿勢を感じた。
「おじいちゃんは、科学教育で重要なのは知識じゃない。実証すること、論理的であることが大事と繰り返しているんですよね」
祖父の本には、知識の詰め込みばかりを重視した当時の学校教育への批判が散見される。「結局、いまもあまり変わっていないけどね」と、森さんは意を同じくするようだ。はからずも、祖父と同じ道を歩む森さん。いまも初心を忘れそうな時には、著書を読み返すという。世界一小さいと銘打つ場所で、まさか歴史上の人物の生の話を聞くとは思っていなかった。科学の話がいつのまにか歴史や文学にまで及んでいた。
最後に気になっていたことを聞いてみた。理科ハウスは本当に「世界一小さい科学館」なのだろうか。
「本当に世界一小さいかどうかはわかりません。でもインパクトあるでしょ(笑)」
森さんのおちゃめな一面が見えた。ちなみに「理科ハウス」はアルファベット表記にすると「LiCa HOUSe」。全て元素記号で成り立っている。
「元素周期表Tシャツ(2160円)」は理科ハウスショップで販売中
理科ハウスは2013(平成25)年にはノーベル物理学賞受賞者の小柴昌俊(こしば・まさとし)が理事長を務める財団法人平成基礎科学財団が主催する小柴昌俊科学教育賞で「優秀賞」を、2018(平成30)年には科学に大きな貢献を果たした個人を評価する科学ジャーナリスト賞「特別賞」を受賞している。後者ではノーベル化学賞を受賞した白川英樹(しらかわ・ひでき)さんが、森さん山浦さんお二人の創意工夫を凝らした展示物と、科学を地域に発信し続けてきた活動を高く評価している。
二人のノーベル賞受賞者が絶賛した理科ハウスの存在と活動
取材を終えて
正直言うと、取材前は理科ハウスの立地やそのサイズ感から、地域密着の地道な活動をしているのかと思っていたが、大間違いだった。二人のノーベル賞受賞者が太鼓判を押す、科学を体験できる科学館だったのだ。
それにしても、大人になって理科や数学をこんなに丁寧に説明してもらえるなんて初めてだ。山浦さんの岩石や気象の話も、森さんの生物分類の話も時間が許せばもっともっと聞きたかった。著者の中で「科学の芽」がニョキッと出たのかもしれない。今度は取材外で遊びに行こうと思う。
―終わり―
取材協力
理科ハウス
住所/逗子市池子2-4-8
電話/046-871-6198
開館時間/13~17時
定休日/火曜日、金曜日、年末年始 ※臨時休館あり
入館料/高校生以下無料
http://licahouse.com/
WEB版「なるほどの森」http://kume.life.coocan.jp/naru/indexj.html