『ポケモン』開発者、横浜・東戸塚出身の増田順一さんにクリエーターの原体験をインタビュー!
ココがキニナル!
恒例となったピカチュウ大量発生チュウ。1000匹を激写してきてください(山下公園のカモメさん)
はまれぽ調査結果!
「プレーヤーが何を求めているか」という目線でヒット作を生み出す増田さん。東戸塚の原風景がポケモンの世界にも生かされていた
ライター:ミズグチマイ
『ピカチュウ大量発生チュウ』は、毎年夏休みにみなとみらい地区で行われ、ポケモン代表的なキャラクター「ピカチュウ」が1500匹で横浜の街に登場する、ポケモンの世界観とキャラクターの愛らしさを満喫することができるイベント。
2015(平成27)年にはプロジェクションマッピングも行われた
ポケモンブランドの原点・原作であるゲームソフト『ポケットモンスター』シリーズを開発する「株式会社ゲームフリーク」の取締役開発本部長、増田順一(ますだ・じゅんいち)さんは実は横浜出身なのだ。
8月に行われる今年のイベントは別個にお届けするが、今回、はまれぽでは多忙を極める増田さんのお時間を特別に頂いて、ポケモン黎明期から開発に携わる増田さんに、クリエーターとしてのルーツに関するお話を、増田さんの生まれ故郷である東戸塚の街をめぐりながら聞いた。
増田さんの地元・東戸塚でお話を伺います
増田さんって、どんな事をしている人?
東戸塚駅から出発
当日は増田さんが生まれ育った横浜の地をめぐるということもあり、社内資料にしたいと、2017(平成29)年4月にゲームフリークに入社したゲームデザイナーの浅田優希(あさだ・ゆうき)さん・吉田美久(よしだ・みく)さんも同行した。
左から増田さん、吉田さん、浅田さん
ゲームソフトはさまざまな能力を持つスタッフが協力して作り上げる。増田さんはディレクターとして指針を示して作品を作る、映画で言うところの監督のようなポジションを担当されることが多い。
ゲームフリークではゲームの企画を担当する職種を「ゲームデザイナー」と呼んでいる。
ディレクターである増田さんから「こういう作品作るよ」という大枠を伝えられたら、それに沿った遊びやシナリオなどをゲームデザイナーが企画。プログラマー、サウンドデザイナー、グラフィックデザイナーと連携してゲームを作っていく。
ざっくりしているが、こういうイメージだ
普段はディレクターとしての仕事が多い増田さんだが、最新作『ポケットモンスター サン・ムーン』 ではプロデューサーを担当している。
シリーズ最新作 『ポケットモンスター サン・ムーン』
多くのクリエーターをまとめるスゴい人なのだ
ただ、生まれついて監督ポジションだったわけではない。どんな子ども時代を送ったら、そんなスゴいモノづくりをするクリエーターになるのか。そのあたりを解き明かしたい。
いざ、冒険へ ~東戸塚駅から草むらに~
現在49歳の増田さん。就職して一人暮らしをはじめる20歳まで東戸塚に住んでいたという。東戸塚駅の東口を抜けて、迷いなく歩いていく。
駅から徒歩5分で草むらゾーン
「東戸塚は今でも駅から少し歩くとこういう草むらがあって、昔は駅もなくて虫捕りスポットだった。12歳の時に駅ができたのかな。それまではバスで戸塚や横浜に行ってたんだよ。横浜までは1時間かかったね」と増田さんは懐かしげに語った。
草むらに行くと、出会えるんだよね
今は東戸塚駅から横浜駅までは電車で8分で移動することができる。今となっては当たり前の存在だが、駅ができるって凄いことだ。
「フェンス、昔はなかったなー」
線路沿いのフェンスそばで立ち止まって「今は柵で囲われているけど、昔はおおらかな時代だったから無かった気がするなぁ。ちょっと危ないところに入って探索してみたり・・・」と語る。
「『こういうのやっちゃダメ』って教わっても、自分でチャレンジして失敗して学ぶところも多々あったな。人に教わると飽きちゃうタイプだから・・・」といたずらっぽく微笑む増田さん。見た目のクールな印象と違って、ポケモン的にいうと意外と「ゆうかんな せいかく」なのかもしれない。
貨物列車撮影スポット
貨物車が撮影できるというスポットに移動。乗り物がお好きなのだろうか。
「昔から役割の特化した乗り物が好きで、ここで貨物列車の写真をカメラでよく撮影してた。今も新幹線とかN‘EX(成田エクスプレス)とか大好き」
「普段あんまり見ないタイプの列車を撮影できると、新しいコレクションを手にいれた嬉しさがあって、友達に自慢したりね。色違いのポケモンを発見した みたいな面白さだね」と増田さん。
レアものを見つける喜びを当時から知っていた
『ポケットモンスター サン・ムーン』でも「ポケファインダー」というポケモンを撮影できる要素がある。子ども時代からの、撮影へのこだわりが反映された企画なのだろうか。
ポケファインダー。自分だけのベストショットが撮影できるぞ!
「プレーヤーが『撮って人に見せたい』って思ってくれるような絵作りは昔から意識している。自分が遊んだ時に、この画面を『これってすごい 友達に教えたい』って人に見せたくなるかどうかって考えて作っているね」と、ユーザー目線を意識している増田さん。子ども時代の「新しくスゴい写真が取れたから、自慢する」という体験が、ここに繋がる。
ポケモンは「ポケモン交換」や「ポケモン勝負」のように、人とコミュニケーションを取って遊ぶことで面白さが増す仕掛けが多い。「ゲーム画面を自慢したくなる」も、そういった仕掛けのひとつではないだろうか。
ミステリアスなゲートと増田さん
ひっそりと佇む、怪しい鉄門をめざとく発見する増田さん。「こういう風に封鎖された場所を見つけると『何かあるのかな』って入ってみたくなるね」と、少年のように目を輝かせる。
ポケモンのゲーム中にもメインストーリーからちょっと寄り道な存在の、キニナル雰囲気のミステリアスなスポットは登場する。『もりのようかん』や『ストレンジャーハウス』など、懐かしく感じるプレーヤーもいるのではないだろうか。
コワいけど、キニナル冒険スポット
「目的地にまっすぐ繋がるわけではない脇道でも、何があるの? って自分で調べたくなる体験がゲームにも反映されている」のだという。
この道に入ると何があるかな ドキドキする感覚がある。
1作目の『ポケットモンスター 赤・緑』開発時に「柵の向こうを探索するドキドキ感、未知の草むらに入った時の緊張、葉っぱが舞い散る空間、そういった子ども時代の体験は同じ年代の開発スタッフと共有できていて、ゲームを作る時に『こういう体験をゲームに入れたいよね』って話がすぐに通じた」そう。
今は虫捕りをしない環境の子どももいるので、そういった体験の「あるある」が通じないこともありそうだが、開発中、世代や環境による感覚の違いで苦労することはないのだろうか。
セミがいない地域も世界にはある
「アメリカ・シアトルにはそもそもセミがいないので、セミの抜け殻をモチーフにしたポケモン『ヌケニン』のローカライズに苦労することもある。ゲームを通じて身近にない文化を知るのも面白いけれどね」と増田さんは語った。
ポケモンは日本国内の幅広い世代に止まらず、世界展開しているコンテンツなので気にかける視野の広さが半端ない。