草木に覆われる瀬谷区・旭区の「上瀬谷通信施設」跡地の現在。どのような施設だった?
ココがキニナル!
日本に返還された瀬谷通信隊の施設がまだ残っています。検問所等もまだありどのような基地内だったのか気になります。調査宜しくお願い致します。(fire_jiさんのキニナル)
はまれぽ調査結果!
米軍がかつて、北朝鮮やソ連の通信を傍受・暗号解読を行う諜報機関として使用。その後はアンテナも撤去され、現在は緑が広がる広大な敷地に。
ライター:はまれぽ編集部
諸外国の通信を傍受する諜報機関
2015(平成27)年に日本に返還された旧上瀬谷通信施設は、 旧日本海軍の倉庫だった施設を終戦時にアメリカ海軍が接収し、約10億円(当時)の費用を投じて建設した通信基地。アメリカ国防総省の諜報機関(NSA)などの組織が活動していた。諸外国の通信傍受や暗号解読、スパイの訓練などが行われ、戦略上重要な拠点だったという。
跡地は瀬谷区と旭区にまたがる(青点線、Googleマップより)
返還後の跡地の所有は国(45%)と民有地(45%)、そして通路・水路などの市有地に分かれている。建物が残されているのはほとんどが国有地部分だ。
投稿にもあった検問所。現在はゲートとして機能している
検問所の奥には「米軍球場」などの施設があり、瀬谷区の少年野球チームに限り市が国から立ち入り許可を得ることで、暫定使用している。だが、そのほかの建物や国有地などは立ち入ることができない状態だ。
米軍球場の配置図。青枠が検問所跡(横浜市資料に補足)
施設内はこうした球場がいくつか点在するなど、とにかく広い。微弱な電波を傍受するために巨大なアンテナ群が設置されていたことから、跡地も約242ヘクタール(242万平方メートル、横浜スタジアム約92個分)の広大な土地なのだ。その広さはみなとみらい21地区の約1.3倍にあたる。
土地返還前の裁判資料などによれば、100基以上の短波固定アンテナ、10基の回転指向性アンテナなどに加え、横須賀海軍基地と連結する超短波・マイクロ波無線塔2本が林立していたという。
施設周辺には米軍管理下当時の看板も残されている
主要施設と思われる建物は草に覆われた状態
アンテナの基礎部分に見える
この通信施設にあった諜報機関は、長年存在そのものが隠匿されてきた諜報機関であるため、その活動内容などは不明な点も多い。だが、この施設内では北朝鮮やソ連などの電波傍受や暗号解読・分析などが行われていたという。当時、住民にそうした事実が伝えられることはなかった。
緑が伸び放題になっている施設跡
大規模な通信施設だった上瀬谷通信基地だが、1970年代に諜報機関が青森県の三沢基地に移動したことなどで、アンテナなどの設備が随時撤去された。通信施設として使われなくなったことで遊休地も増えていったという。
その後、施設は海軍支援施設として運用されてきたが、2000年代に入って警備担当の海兵隊なども撤退し、返還時には全く無人の状態だったようだ。
さまざまな施設が点在している
基地の機能の変遷から、大規模な通信施設は長らく使われていなかったことがうかがえる。
使われていない建物はカラスの巣窟に
施設がその役目を終え、日本に返還されたのは2015年だが、「通信施設」として使われなくなった段階で、一部の国有地払い下げが行われた。現在も、施設跡地には立ち入り禁止の国有地と隣接して、民有地である畑が広がっているエリアが多い。
民有地は農業専用地区として作付けが行われている
また、相鉄線瀬谷駅から旧施設内への引込線が併設されていた「海軍道路」(横浜市環状4号線)も70年代以降、車での通行が許可されるなど、基地と地域とは返還以前から交流が進んでいたようだ。
軍事道路も今では区民の財産に
愛称として「海軍」の名前が残った
柵の向こうは立ち入り禁止エリアだ
上瀬谷通信施設周辺は、通信の傍受やスパイ活動を行う性質上「電波障害防止制限地域」に指定されていた。通信を安定させるために高さが一定以上の建物を建てることが制限されるほか、周辺住民は電気製品の操作や蛍光灯の使用、自動車のエンジン点火など、厳しい制限を受けた。そのため、施設の周辺では大幅に市街地の開発が遅れることになった。
特にインフラが未整備であることから、都市基盤が脆弱なまま。そうしたことも影響してか、施設が位置する瀬谷区と旭区では人口減少が進み、高齢化率が高まっているという課題もある。
制限は1995(平成7)年に解除されたが、遅れは取り戻せていない
実際に施設跡地の市有地部分に足を踏み入れると、その広大な自然に驚かされる。軍事施設、それも通信傍受を行う機密性の高い施設だったこともあり、その手付かずのままの緑は、首都圏全体で見ても貴重な緑の拠点となっているようだ。
遭難しそうなほどに広い
未利用の広大な土地があるということは、横浜全体の課題解決につながるようなポテンシャルを持っているということでもある。