財政難なのに移転!? 新市庁舎を建設する理由とは?
ココがキニナル!
横浜の市庁舎移転問題の状況は?建て替えには数百億円かかるのに、移転候補地は新しい津波の被害想定の浸水地域にあたるそうです。これまでの経緯を知りたいです。(maniaさんほかのキニナル)
はまれぽ調査結果!
根本的な建設見直しを求める反対・否定的意見が多い中、北仲通南地区に31階建て140メートルの高層ビルを新市庁舎として建設する案が検討されている。
ライター:吉田 忍
新市庁舎建設について多くのキニナルをいただいた。いったいどのような計画でどのように進んでいるのだろうか。
横浜市総務局総務部管理課に伺った。
総務部管理課の中川課長(右)と庁舎計画等担当・岩井係長
市庁舎整備計画の経緯
そもそも市庁舎の整備案は、1991(平成3)年に当時の高秀秀信市長が諮問(しもん:有識者などの意見を求めること)を行い、それを受けて1995(平成7)年「横浜市市庁舎整備審議会」からの答申により始まっている。
その後、経済状況などの理由で進展していなかったが、2007(平成19)年、中田宏市長のときに「新市庁舎整備構想素案」が公表された。翌年3月に同素案に基づき横浜アイランドタワーの西側にある「北仲通南地区」の土地を168億円で購入。
この場所は再開発地域であるため、ビルを建てないと所有権が移らないと法律で定められている。また、横浜市はランドマークタワーを頂点に徐々に建物を低くしていくという、美しい街づくりの観点から地区計画を決めているので、高層ビルの建設が義務付けられている。
突然の土地購入に批判も多かったが、当時、これを逃すと市庁舎建設の場所として、最適な場所が無くなる恐れがあると判断されたという。
土地購入時点でこの場所に高層ビルの市庁舎を建設すると決まっていたように思えるが、当時、横浜市は「港町地区(現市庁舎の場所)の再整備の際に使いたい」などと説明している。つまり、現市庁舎の建て替え期間中に仮庁舎として利用し、その後、売却などを行うという考えもあったようだ。
いずれにしても、当時の議会がこの土地取得に賛成し、購入された。
その後、昨年3月、林文子市長が市庁舎整備方針についての審議を市会に依頼。自公民およびみんなの党の4党の議員による特別委員会が設けられた。みんなの党は「異議あり」というチラシを作成するなど見直すべきとしているが、自公民は「北仲通南地区に新市庁舎を建設する」案を推しているようだ。
なぜ新しい市庁舎が必要なのか?
そもそも、なぜ新しい市庁舎が必要なのかというと、「施設や設備の老朽化」「執務室の分散化」「市民対応スペースの不足」「社会状況への対応」「災害対策」などが理由とされている。
「老朽化については、すでに議会棟を含め、62億5000万円を費やし、平成19~21年にかけて耐震工事が行われているが?」と聞いたところ、最も大きな問題は「執務室の分散化」で、現在6200人の職員のうち、4300人が20ヶ所の民間ビルに分散しており、毎年20億円の家賃が支出されていることだという。
現在の分散の様子。白の数字は今後契約予定のもの (横浜市資料)
耐震工事の際に林市長が「あと50年は使える」と発言したことについて質問したら、市庁舎として使うという意味ではなく、ただコンクリートの劣化検査の結果を述べたものだったのだそうだ。
現市庁舎の耐震工事。従来の柱を切り取って、ゴム製のものに変えられている
なお、新市庁舎の計画は以下の通り。
場所:北仲通南地区(中区本町6丁目)
敷地面積:1万3500㎡(現市庁舎はおよそ1万6500㎡)
土地費用:平成20年に168億円で取得済
建物:31階建て140メートルの高層ビル 延床面積14万5000㎡
建設費用:603億円
市民意見募集の結果
2012(平成24)年12月「新市庁舎整備基本構想(案)」が公表された。「北仲通南地区に完全移転」「現在地で建て替え」「現在地と同地区に市役所機能を分割」の3案に絞られ、昨年12月27日から今年1月28日まで市民の意見募集が行われた。しかし、意見提出者数294人のうち95人が、根本的な見直しを求める反対・否定的意見で最も多かった。
反対・否定的意見は、現在の横浜市の財政等を踏まえての根本的見直しを求めるもの。
しかし、横浜市は「平成7年の『横浜市市庁舎整備審議会』答申以降、行政・市会の双方において、新市庁舎を整備するという前提は変わっておらず、24年度の新市庁舎に関する調査特別委員会及び政策・総務・財政委員会においても『北仲通南地区での整備案が最適な案』とする意見が大勢となりました。
こうした経緯を尊重して、新市庁舎整備を根本から見直すような意見を反映することはできないと考えています」と回答している。
「市民の最多数意見を反映できないとはどういうことか? すでに決定しているかのような回答だが?」と質問した。
横浜市の説明は『今回は3案に対する意見の募集だった』とのこと。しかし、説明不足だったことは認め、反映できないという意味は、整備の検討自体をやめるという方向での反映はされないということであり、計画自体が撤回できないところまで進んでいるわけでなく、意見としては重く受け止めているという。
1995(平成7)年当時はまだバブルの頃、そして、2008(平成20)年の土地取得時はリーマンショック前である。現在の財政状況を考慮することが最も大切ではないのかと聞くと、今すぐにやろうというものではなく、あくまでも計画案を進めるとのこと。また、今の案をコスト面など、より精査していくそうだ。精査され、さらに具体的になった案が示され、計画自体も含めて議会などで可否が再度判断される。