【横浜の名建築】日本を代表する威厳 神奈川県庁本庁舎
ココがキニナル!
横浜にある数多くの名建築を詳しくレポートするこのシリーズ。第7回は、神奈川県庁本庁舎。重厚にしてモダン、どこか和の趣のあるこの建物は、内部にも日本の伝統的な美しさを備えていた。
ライター:吉澤 由美子
日本大通りに面して、その威容を誇る神奈川県庁本庁舎。
上部にそびえる『キングの塔』で親しまれているこの建物は、1928(昭和3)年に創建された。
西欧古典様式をそなえながら、随所に日本的な意匠を持つこの建物は、歴史的建造物として、1996年に登録有形文化財(建造物)に登録されている。
正面には大きなイチョウ。6階の展示室にある創建当時の写真には、まだ幼木のイチョウ並木が写っている
今回、こちらの建物を案内してくださったのは、神奈川県総務局施設財産部庁舎管理課の課長、湯朝淳さん。
本庁舎の意匠や、それぞれの部屋がどう使われてきたかについて詳細なお話をしてくださった。
「この歴史ある建物は県民のみなさんの財産ですから」とおっしゃる腰の低い湯朝さんは、どうしても写真NGとのことで残念。
日本の表玄関、横浜を代表する建築物
飛行機での旅が一般化するまで、日本の表玄関といえば横浜港であった。
当時、神奈川県庁舎は海外からの賓客を迎えて歓迎の儀式や儀礼などを行う場としても使われたため、関東大震災で焼失した県庁舎を再建するにあたって、表玄関にふさわしい威厳を持ち、日本の伝統的な意匠を持った重厚な建物が求められることとなった。
正面玄関の裏には、矢印のモチーフが使われている
そこで、「横浜港の船から庁舎が見えること」というのも重要な条件のひとつとされて県庁舎のデザインは公募が行われた。
この公募で選ばれたのが、若干26歳の小尾嘉郎(おびかろう)の案。
応募に際し「日本的な塔を」と悩んでいた小尾嘉郎に、五重塔を提言したのは彼の父親だったと伝わっている。
帝冠形式と呼ばれる、洋風の建築物に和の趣を持つ塔屋を重ねたこの形は、神奈川県庁本庁舎が先駆けとなり、以降の公共建築デザイン界を席巻した。
実際の設計や意匠は、公募の審査委員長を勤めていた佐野利器(さのとしかた)が中心となって進んだ。
耐震構造学で著名な佐野利器は、壮重な日本趣味を強調した建築を理想としており、県庁舎はその趣味が濃厚に反映されたものとなった。
装飾など一部改修してあるところもあるが、できるだけ本来のままの姿を生かした改修をしており、飾りの模様などは創建当時のものがそのまま残っていて、往時の横浜の華やかさを彷彿とさせる。
シンプルなライト様式ときらびやかな和の意匠
外観は、旧帝国ホテルを設計したフランク・ロイド・ライトの影響をうかがわせる。
大谷石の第1層、スクラッチタイル(ひっかき傷をつけたタイル)の第2層、塔屋の第3層という3層構造で、テラコッタ(素焼き)の屋根飾りを持ち、幾何学的装飾が繰り返されるあたりはライト様式だ。
外壁のスクラッチタイルは屋上から塔の外壁に貼られたものを間近に観察できる
テラコッタの屋根飾りは安全上の問題で取り外され、青銅製のものに替えられている。
取り外された六葉のテラコッタ屋根飾りは屋上に展示されている
大きく目立つ塔屋は、ピラミッド状となっている屋根の傾斜が急で、軒が出ている日本独特の設計。
仏塔にあるような相輪が先端に飾られていたが、こちらも安全上の問題があるため現在は外されている。
屋上から見た塔は独立した建物のようだ
内部に入ると、全体の造りはシンプルなアールデコ調ながら、和の要素がさまざまな場所に取り入れられている。
大理石の柱の先に、アールデコ調のライトと、和を感じる雲のような梁や丸い金属飾り
天井のシャンデリアは、神奈川県の木である「イチョウ」が小さなモチーフで入っている。
つる草の真ん中にあるのがイチョウの葉
同じシャンデリアでも取り付けられた天井のデザインが変えてある