食通の文豪「池波正太郎」が愛した横浜の名店を徹底レポート!
ココがキニナル!
グルメだった池波正太郎さんが愛した横浜のお店を調査願います。(brooksさん)、池波正太郎が愛した餃子が、中華街の関帝廟通りにあると聞きました。どんな餃子が待ってるの?(bjさん)
はまれぽ調査結果!
数ある店から今回は中華街「蓬莱閣(ほうらいかく)」の水餃子などと山下町「ホテルニューグランド」のアイス・ティーなどを紹介。どちらも逸品
ライター:篠田 康弘
歴史を積み重ねたアイス・ティーとドライ・マティーニ
続いては『食卓の情景』の中で紹介されている、山下町のホテルニューグランドで味わえる2品を紹介しよう。池波氏は横浜に来た際にはホテルニューグランドに宿泊し、港町のさまざまな場所を歩いて回ったそうだ。
池波氏のエッセイ『食卓の情景』
ホテルニューグランド
ホテルニューグランドは1927年(昭和2年)の開業。横浜の名所として小説、映画、歌などにも数多く登場し、その名は全国に知られている。
本館2階ロビーへと続く階段
本館2階ロビー
本館2階フェニックスルーム
今回はホテルニューグランド広報室支配人の和田聖心(わだ・せいこ)さんにご協力いただき、さまざまなお話を伺わせていただいた。
ホテルニューグランド広報室の和田さん
池波氏が「ほんもの」と認めていたのが、ホテルニューグランドの喫茶室で提供していた「アイス・ティー」である。池波氏が来店した当時の喫茶室はもう残っていないが、現在は本館1階の「コーヒハウス ザ・カフェ」で同じものが味わえるとのことであった。
本館1階「コーヒハウス ザ・カフェ」
店内はゆったりした空間
早速コーヒハウス ザ・カフェにお邪魔して、池波氏が飲んでいたアイス・ティーを飲んでみることにした。
アイス・ティーをサーブしてくれた香月(かつき)さん
ザ・カフェのアイス・ティー(750円)
こちらはレモンスライスを浮かべたもの
非常に香り高く、味わいが濃い。そしてとても口当たりがよく、おいしさが体の中に溶け込んでいくような一杯だった。
エッセイによれば、池波氏はアイスクリームも食していたとのことであったので、こちらも食してみることにした。
アイスクリーム(770円)
シンプルなバニラアイスだが、上品なバニラの甘さと濃厚なミルクの風味が、なめらかな舌触りを通じてしっかりと伝わってくる。最近ではなかなか出会えない、なんとも懐かしい味だった。
和田さんによれば、アイス・ティーもアイスクリームも、開業当時に提供していたものとなにひとつ変わっていないとのことであった。今でも開業当時と同じ調理方法で、開業当時と同じ味付けをし、開業当時と同じようにひとつひとつ手作りで作っているそうだ。ホテルニューグランドを訪れたすべての人が、年代に関係なく楽しんできた、80年以上愛され続けている伝統の味なのだ。
アイス・ティーを味わっていると、和田さんが「ホテルニューグランドには、訪れた作家たちが好んで食べるハヤシライスがあります」と教えてくれたので、こちらも食してみることにした。
ハヤシライス(2100円)
デミグラスソースをライスの上にかけていく
牛肉とマッシュルームがたっぷり入っていて、味付けも非常にしっかりとしているが、食べていて全く重さを感じない。トマトの優しい酸味が食欲をそそる、お腹にやさしい味わいのハヤシライスであった。多分池波氏も、この味を堪能していたことだろう。
ハヤシライスを食した後に、6代目料理長の長谷信明(ながたに・のぶあき)さんからお話を伺うことができたので、おいしさの秘密を聞いてみた。
6代目料理長、長谷信明さん
長谷さんによれば、ベースとなるデミグラスソースは牛すじ、玉ねぎ、ニンジン、トマトなどをじっくり煮込んでから裏ごしし、足りなくなった分をまた作って足していくという作業を何度も繰り返し、4~5日間かけて完成させるとのことであった。
こうしてできたデミグラスソースにホテル発祥のオリジナルナポリタンソース、赤ワインなどを組み合わせ、ホテルニューグランドのハヤシライスを作り上げていくそうだ。
たくさんの手間と時間をかけて作られるハヤシライス
最後に長谷さんに、ホテルニューグランドでの仕事に対する思いを伺ってみたところ「開業当時から変わらない調理方法で、同じ味を手作りし続けているのですが、今でもお客様から『美味しい』と言ってもらえます。年代に関係なく『美味しい』と言ってもらえる、これは本当にすごいことだと思います。これまでに積み重ねてきた歴史を大切にし、いつもお客様に『美味しい』と言ってもらえるように頑張っていきたいです」と答えてくれた。
長谷さんの真摯な受け答えを聞いていると、ホテルニューグランドがこんなにも長く愛さ
れ続けている理由が分かったような気がした。
長谷さん、お忙しい中ありがとうございました。
そしてホテルニューグランドには、池波氏が愛した味がもうひとつある。それはバー「シーガーディアン」のドライ・マティーニだ。シーガーディアンは1991(平成3)年に場所が移動し、店名も「シーガーディアンⅡ(ツー)」に変わったが、カクテルは当時と同じものを提供しているとのことであった。
シーガーディアンⅡ(ツー)の店内
テーブル席
カウンターの奥に並ぶお酒の数々
今回は撮影用に店内を明るくしてもらったが、通常はもっと照明を落とし、BGMにジャズが流れているとのことであった。
シーガーディアンⅡ(ツー)では前述の和田さんと、チーフバーテンダーの太田圭介(おおた・けいすけ)さんからお話を伺った。
チーフバーテンダー、太田圭介さん
太田さんに、池波氏が飲んだドライ・マティーニを作っていただいた。その華麗な手さばきは、まるで芸術作品を見ているようであった。
材料はドライ・ジンとドライ・ベルモット
グラスを用意
水と氷でミキシンググラスを冷やし
水を捨て、ドライ・ジンとドライ・ベルモットを注ぐ
しっかりとステアして
グラスに注ぎ
オリーブを飾り、レモンピールを振りかけてドライ・マティーニ(1200円)が完成
一見何の変哲もないように見えるが、グラスはドライ・マティーニが一番美しく見えるようにカットを入れたものを使い、オリーブの向きは赤い色が見えるほうが正面、刺しているカクテルピンの向きはお客様が右利きなら右、左利きなら左に置くと決められているそうだ。細部にまでこだわっているのだ。
いただいてみると、ドライ・マティーニはとても強いカクテルのはずなのに、飲みにくさを全く感じない。美味しいドリンクを飲んでいるかのようにすいすいと喉を通っていった。
絶品のドライ・マティーニに見とれる筆者
そして今回は、ドライ・マティーニに最適のおつまみも用意してもらった。「アンチョビ・オン・トースト」という、バターを塗ったトーストの上にアンチョビを乗せたものだ。ドライ・マティーニを飲む方には必ずお勧めしているというので、池波氏もおそらく食べていただろう、とのことであった。
アンチョビ・オン・トースト(1550円)
こちらはアンチョビの塩気が効いていて、すっきりとしたドライ・マティーニに非常によく合う。カクテルの味を知り尽くしたシーガーディアンならではの、本当に素晴らしい組み合わせだった。
絶品の一杯と最適のおつまみ、素晴らしい組み合わせだった
池波氏が来店していた当時の思い出を伺ったところ、太田さんが珍しいものを出してきてくれた。それは、開業当時から使われているダイスとカップだった。
開業当時から使われているダイスとカップ
以前はこのダイスとカップを使って「上海ダイス」という遊びをするのが流行しており、多くの著名人がシーガーディアンのカウンターでカップを振ったそうだ。「池波さんも多分このカップを振り、どんな目が出るかを楽しんでいたのでしょう」と太田さんは話していた。
最後に太田さんにも、ホテルニューグランドでの仕事にかける思いを伺ってみた。太田さんは「長年作り続けられてきたスタンダードカクテルをおいしく作れるのが、ニューグランドのバーテンダーだと思います。ブームに振り回されることなく、歴史を大切にして、自分が先輩たちから受け継いできたものを後輩にきちんと引き継いでいきたいです」と話していた。
先の長谷さんの話と非常によく似ている。従業員全員が歴史を大切にし、常に最高のものをお客様に提供しようとするホテルニューグランドの心意気に、池波氏は惚れ込んだのだろう。
太田さん、お忙しい中ありがとうございました
取材を終えて
取材したいずれの店にも共通していることがあった。それは「変わらない」ことだ。社会が変わり、経済が変わり、流行が変わっても、積み上げてきた歴史を大切にし、愛されてきた味を変えることなく提供し続ける。これは本当に一流の店にしかできないことだ。今回は一流の作家が愛した一流の味を取材させてもらい、本当の一流とは何かを学ばせてもらった。こんな素晴らしい機会を与えてもらったことに心から感謝したい。
―終わり―
蓬莱閣
住所:横浜市中区山下町189
電話番号:045-681-5514
営業時間:平日11:00~15:00、17:00~21:00
土日祝日11:00~21:00
定休日:水曜日
ホテルニューグランド
住所:横浜市中区山下町10番地
電話番号:045-681-1841(代表)
営業時間:ザ・カフェ:10:00~21:30(LO21:00)
シーガーディアンⅡ:17:00~23:00(LO22:30)
定休日:ザ・カフェ、シーガーディアンⅡともに無休
ホテルニューグランドHP:http://www.hotel-newgrand.co.jp/
※飲食代のほかに10%のサービス料がかかります
梅さんNO.1さん
2015年02月26日 02時35分
美味しい、接客が気を使わせない、そんな当たり前のことを、マスコミはありがたく迎合しているように思います。作家の方は、ご自分でお勘定をすることは、まれで、書かれるほうは、有名作家のご来店を有難がる、読者は味よりも、その店えいった事だけで満足感を感じています。レポートされている方も、面と向かっているので、このレポートであそこは良くないという記事は今まで、お目にかっかってないですね。いい本を書く人が人間的に素晴らしいかは、別問題です。どうぞ提灯持ちにならないでください。はまれぽが好きな読者より
えむえむ48さん
2015年02月22日 22時37分
池波先生の本にはかつて横浜にあった店でその後場所が移ってしまった店やなくなってしまった店のことも出ています(伊勢佐木町にあったバーなど)。この辺についても「その後」の取材を是非お願いします。
よしあきさんさん
2015年02月22日 18時58分
清風楼のヤキメシ、シウマイも池波先生お気に入りですね。次回は是非取材してください。