本郷町の住人はどう思っている？

山手警察署の交差点
　

本郷町のあたり

商店街の中ほどの商店の店主Fさんに伺うと「40年ほど前ですが、私が高校生のころ、阪東橋の地下鉄の駅のホーム内で『本牧まで通ります』と書かれた看板を見たことがあります。そのころにも地下鉄の計画があったようです」と答えてくれた。
　

昔ながらのおもちゃ屋さんがある

Fさんが自分より年配として、医療関連のお店を構えるYさんを紹介してくれた。
Yさんに話を伺うと「昔から地下鉄が元町駅から本牧と根岸を結ぶ計画はあります。しかしなぜか進みません。もし新山下の海岸沿いを通り本牧に出られると、私たちのところを外れて通るため困ります」

「約20年前の話では『地下鉄が本郷町の上を通ると、私たちは立ち退かなければならないのか？』と地元で問題になりました。当時の地下鉄工事の技術は未熟で、掘る深度が浅いため地上にも影響を与えると考えたからのようです。例えば弘明寺の地下鉄の駅の地上あたりは変な状態になっているでしょ。それを不安に思ったようです」
　

本郷町の人たちは地下鉄工事の深度が反対の理由だったという

「その後バブルがはじけて業者が金銭的に厳しくなったせいか、計画はなくなってしまいました。しかし、そのルート上に当たる数十人という一部の人たちが反対していただけで、この500店舗からなる本郷町商店街の全員が反対していたわけではありません」と答えてくれた。

最後に前出のコメントで名前の挙がった、上野町に事務所を構える、伊波洋之助（いなみ・ようのすけ）前市議に当時のお話を伺った。
　

伊波洋之助事務所

「2000（平成12）年ですが、運輸政策審議会答申第18号『東京圏における高速鉄道を中心とする交通網の整備に関する基本計画について』に基づき、答申路線が決められました」

「鶴見を起点として、日吉～中山～二俣川～東戸塚～上大岡～根岸～元町の区間が環状線として結ばれますが、その根岸～元町区間に、みなとみらい線の元町・中華街駅から延びる形で本牧駅が出来る予定でした」
　

運輸政策審議会の答申内容について書かれた書類
　

みなとみらい線の元町・中華街駅
　

根岸～元町の区間が結ばれる予定の横浜環状鉄道

「横浜環状鉄道が実現しづらい要因のひとつは、山手線などの環状線は20km程度ですが、すべてを結ぶと40kmという長い路線になり、大掛かりな計画であることが挙げられます」

「また根岸線の石川町駅とみなとみらい線の元町・中華街駅が少ししか離れていないため、さらに本牧駅を作ることは輻輳（ふくそう：寄り集まること）するとみられているため、採算ベースに乗りづらいと考えられたことです。現在は中山～二俣川間（横浜市営地下鉄4号線・グリーンラインの延伸の可能性あり）に力を入れているため、根岸～元町中華街間は最後になるかもしれません」
　

石川町駅（赤円）と元町・中華街駅（青円）の距離が近いため、本牧駅をつくることは輻輳とみられてしまう
　

根岸～元町中華街間（青い矢印）よりも中山～二俣川間（赤い矢印）が優先的に行われている

「当時は『本牧に地下鉄を通す会』を、商店街の人たちが中心になって発足しました。会合の際には約150名の会員が集まられていました。しかしその会員の方たちから『商店街の下を掘られたら困る』と、反対意見が出ました。その反対がなければ一気に来た可能性があります」と答えてくれた。
　

本牧に地下鉄を通す会は町内会会長などで構成されていた
　

当時の高秀秀信（たかひで・ひでのぶ）横浜市長より「本牧に地下鉄を通す会」宛に送られた回答

要約すると「運輸政策審議会答申第18号において根岸～元町を一部区間とする横浜環状鉄道に関して整備効果が評価されたのは、本市の都市づくりに大きく寄与するものです。整備には長い年月を要しますが、市民の皆様が快適な公共交通サービスを受けられるように推進していきます」と書かれている。

筆者がキニナっていた、マイカル本牧は地下鉄の駅が出来なかったせいで不振になったのでは？　ということに関して伺うと「それは違います。マイカル本牧はテナントを募集する際の売り文句として、地下鉄が来ることをアピールしていただけです」と答えてくれた。

また根岸線が山手駅の代わりにもう少し本牧寄りに駅を作れなかったのか？　ということに関して伺うと「本牧につくる場合はカーブがきつくなるので難しかったのではないでしょうか？」と答えてくれた。

「また本牧の住人にとって、元町などに行くためには山を越えないといけません。そのため車を使う方が便利になります。しかし路上に駐車していると駐車違反にされてしまうため、私は村上健司元県議会議員の応援を得て、それを緩和させる政策を行いました。神奈川県公安委員会に陳情を出して、午前11時から午後3時までは駐車禁止解除を実現したのです」と答えてくれた。
　

午後3時を過ぎると路上駐車の取り締まりが始まる

お別れの際、伊波前市議は「今でも私たちは鉄道を通すという、強い気持ちは持っています」と強調した。
本牧の場合にも地下鉄が街を良くするか疑問の声があったようだが、本郷町の人たちの中でも賛成派と反対派に分かれていたようだ。