ネットでは買えない地元の味、こだわりの逸品「鵠沼魚醤」とは?
ココがキニナル!
藤沢だけで販売されている「鵠沼魚醤」がキニナル。(スさんのキニナル)
はまれぽ調査結果!
片瀬海岸で水揚げされたカタクチイワシを塩漬けし、約1年間熟成した「鵠沼魚醤」は、独特の香りと旨みが自慢の「地元でしか買えない銘品」だった!
ライター:大野 ルミコ
藤沢の食材を使って“地元ならではの味”を生み出したい!
・・・ということで小田急線の片瀬江ノ島駅にやってきた筆者と山岸。実は有限会社NORMAさんからご紹介いただいたお店はここから歩いてすぐのところにある、超! 有名店「iL-CHIANTI BEACHE(イルキャンティ・ビーチェ)」だったのだ。正直、このお店で鵠沼魚醤を使った料理を出しているとは思っていなかったので、言われた時はかなりびっくりした。
久々にやってきた「片瀬江ノ島」駅。平日にもかかわらず多くの観光客が訪れていた
国道134号沿いに立つ「イルキャンティ・ビーチェ」。後ろはすぐ海! のロケーション
存在は知っていたけど、これまで残念ながら訪れる機会のなかったイルキャンティ。海を望むステキな店内で、「鵠沼魚醤」の生産者である有限会社NORMA代表取締役、高橋睦(たかはし・むつみ)さんにお話をお伺いすることができた。
「鵠沼魚醤」生産者の高橋さん。藤沢の豚を使った生ハムの製造にも力を入れている
かつて旅行会社に勤務していた経験を持ち、特にイタリア料理や食材に興味があったという高橋さん。その想いが高じて藤沢市内に飲食店を開店、実は「鵠沼魚醤」はそのお店で出す料理に使いたいと独自に研究・生産を始めたのだという。
最初は自らの店で出す「ほかにはない味」を求めて作り始めたという
「魚醤は、古代ローマ時代にヨーロッパで誕生し、当時は塩の代わりに使われていたともいわれています。日本でも海に面した地域では魚醤を作っているところがありますよね? だったら、ここ藤沢で獲れた魚で同じように魚醤がつくれないかと・・・。最初はそんな個人的な興味から始めたような感じです」と笑う。
原料はイワシと塩のみ! 保存料なども一切使っていない
原料は片瀬漁港で水揚げされたカタクチイワシと塩のみ。まだ肌寒い3月から4月にかけて水揚げされたばかりのイワシを仕入れ、その日のうちにうろこを落とし、塩と一緒に漬け込んでいくという。「鮮度が命なので、獲れたその日に仕込むのが鉄則。すべて一人で作業しているので、どうしても1日にできる量も限られてしまいます」と語る。
仕込み後は時折かき混ぜるだけ。発酵によって独特の旨みが生まれる(鵠沼魚醤FBより)
基本的にその後は時々全体をかき混ぜるだけで、味を調整することはない。高橋さんいわく「イワシの内臓が分解して風味を引き出してくれますから、あとはただ待つだけ」なのだとか。すべて“イワシにお任せ”状態のため、同じように作っても毎回「味が若干違う」という。
澄んだ液色の魚醬にはイワシの旨みが凝縮。香りはアンチョビに近い
こうして完成した鵠沼魚醤は、最初は高橋さんが経営する飲食店でのみ提供されていたが、その後、鵠沼地区の地産品おこしプロジェクトの目に留まり、商品化され、2012(平成24)年10月より藤沢市内での販売を開始。その後、高橋さんは「片手間に魚醤は作れない」と自身の店を閉じ、鵠沼魚醤をはじめ、地元・藤沢の素材を生かした食品の開発・製造に力を注いでいるのだとか。
こうして鵠沼魚醤は地域の新ブランドとして市内の飲食店にも広められ、今では多くの店で魚醬を使った料理が提供されている。今回訪れた「イルキャンティ・ビーチェ」も、この魚醤の味に惹かれ、メニューに取り入れている店のひとつだ。
コース料理や本日のオススメメニューに鵠沼魚醤を使った料理が登場する
この店で鵠沼魚醤を使い始めたのは2年ほど前、2013(平成25)年のこと。シェフの小坂直人(こさか・なおと)さんが、たまたま訪れた藤沢市内の飲食店で鵠沼魚醤を使ったメニューを食べ、その美味しさに「これを使って何か新たなメニューができないか」と考えたのがきっかけだという。
「鵠沼魚醤は料理の“最後の決め手”になるんですよ」と語る小坂さん
また、同じころ、ご自宅ですでに奥様が鵠沼魚醤を購入され、さまざまな料理に取り入れていたことを知り、鵠沼魚醤がどんな料理にも使える万能性があることを実感。「地元ならではの素材を組み合わせて、ここでしか食べられない味を作ろうと思った」という。
鵠沼魚醤を使ったパスタは「おいしい!」と好評の一品だ
「常々、地元の味、湘南の味にこだわった料理を出したいと考えていた」と語る小坂さん。そのため、同じように地元の素材にこだわり、鵠沼魚醤を生み出した生産者の高橋さんに対して「どんな人なのだろう」と興味を持っていたのだとか。
「ところが、最初に高橋さんにお会いした時は、生ハムの生産者さんとして紹介されまして(笑)。話をしているうちに『実は、鵠沼魚醤も作っている』と聞いてビックリ! われわれ、料理人にとって生産者さんとお会いすることは楽しみのひとつでもあるのですが・・・この時は本当にうれしかったですね」
取材中も、鵠沼魚醤を使った新たなレシピの話で盛り上がるお二人
「イルキャンティ・ビーチェ」では、今後、新江ノ島水族館の入場券をセットしたコラボメニューを展開していく予定だという。その特別メニューにも「鵠沼魚醤を使ったメニューを入れようと考えています」というから要チェックだ。
・・・思った以上に大活躍の鵠沼魚醤。そろそろ味がキニナル!!!
これまでの概念が吹き飛んだ・・・「鵠沼魚醤」の美味しさに絶句!
改めてメニューを見せていただくと、鵠沼魚醤を使った料理は、定番メニューではなく、地元の食材や旬の味を楽しむ“本日のオススメメニュー”として提供されているようだ。今回は、この場所、この季節だからこそ味わえる、そんなとっておきの2品をご用意いただいた。
本日のオススメとして「黒板メニュー」にもなっているリングイネは、小田原で獲れたショッコ(カンパチの子ども)と藤沢産のネギを使ったまさに“地元の味”。そこに鵠沼魚醤をプラスすることで、独特の風味と驚きの旨みを楽しむことができるという。
小田原港ショッコと旬のネギ唐辛子のリングイネ(1480円/税別)
味の仕上げに鵠沼魚醤を使い、「ほかとはちょっと違う味」を生み出す
もう一品、本日の魚料理として「駿河湾 金目鯛のソテー 鵠沼魚醤と柑橘類のソース 香草風味」(1700円/税別)も作っていただく。ふっくらと焼き上げた金目鯛に添えるのは、鵠沼魚醤を加えた特製のソースだ。その日の仕入れによって使われる魚も価格も変動するという。
皮はパリッ、身はふっくら。見た目の美しさにも食欲がそそられる!
オレンジオイル、バージンオイルに鵠沼魚醤を加え、さらにイタリアンパセリ、タイム、オレンジの皮で香りをつけたソースは魚料理にピッタリ! 小坂さんいわく「魚醤と柑橘類を組み合わせたソースは、南イタリアでは定番の味」なのだとか。
イタリアンバジルたっぷりのソースにも鵠沼魚醤が使われている
ソースの盛り付けも美しい!!
以前、筆者が友人からお土産でもらった魚醤はニオイが強く、食べると口の中いっぱいに魚のニオイが充満するような感じだったが、今回、いただいた料理は言われなければ「魚醤を使っている」とは気づかないと思う。
ただ、パスタにしてもソテーにしても、醤油とも塩とも違う“風味”がある。特にシンプルな味付けのパスタは、まるで和風だしを加えたかのような味わいなのだ。塩やコショウでは出せない旨みやコクを感じるのに、しつこさや脂っぽさはない・・・とても不思議な美味しさだ。
あまりの美味しさに無言で食べ進めてしまった
小坂さんいわく「鵠沼魚醤は野菜や白身魚、パスタにとてもよく合う」のだとか
小坂さんも「これが鵠沼魚醤の素晴らしいところなんですよ」と語る。「少し塩気が強いので、大量に使うとしょっぱくなってしまいますが、少し料理に加えるだけで驚くほど味が変わる。パスタや魚料理、特に白身魚を使った料理には本当によく合うと思います」
この不思議な味を確認したくて、思わず鵠沼魚醤をそのまま舐めてみちゃいました(笑)
直に舐めても自分が苦手に感じていた強いニオイもなく・・・おいしい!
確かに少し強めの塩気を感じるが、味わいはとてもまろやか。「本当にイワシと塩だけ!?」と思うくらい、旨みが凝縮されていることに驚かされる。生産者の高橋さんいわく「野菜炒めとかに加えると、おいしくてヤミツキになる」そうだが、それも納得の味だ。
「魚醤」というだけでちょっと敬遠気味だった自分が間違っていました。深く反省。
地元の素材を使って、地元で生産、地元の人に愛される味に!
発売以来、飲食店をはじめ地元の方々からの評判も上々、そして買いだめをする人がいるくらい人気も高まってきた「鵠沼魚醤」。高橋さん一人で製造しているなど、大量生産・販売が難しい面もあるとは思うが、今後の展望についてお伺いしてみた。
「今、鵠沼魚醤は藤沢市内で9ヶ所、鎌倉と横浜で1ヶ所ずつの販売店で取り扱っていただいています(ちなみに横浜市内はシルクセンター内の「かながわ屋」にて販売中)が、今後、販売店を拡大しようというつもりはあまりありません」と語る高橋さん。
「地域の特産品は、その地元で買うというのが正しい姿では?」と語る
高橋さんの中には、藤沢で獲れた魚を使って藤沢で作った魚醤だからこそ「地元・藤沢の人に使ってほしい」という想いと、地域おこしの面からも「藤沢に足を運んで購入してほしい」という二つの想いがあるという。そのため「ネット通販で販売するつもりはない」と言い切る。
ラベルに描かれたイラストは片瀬西浜海岸から望む江ノ島。まさに“地元”の風景だ
それでも「2014(平成26)年は5000本を出荷し完売しました。2015(平成27)年は7000本に出荷数を増やしましたが、それもありがたいことに年度内には完売しそうな勢いです。今後はさらに出荷できる本数を増やして、地元の方に喜んでいただける味を提供したい」と、高橋さんの夢は広がる。
「藤沢でしか買えない」特産品としてこれからも人気を集めそうだ
藤沢の素材にこだわり、藤沢で生産し、藤沢で食される――あくまでも「地産地消」にこだわるその姿勢に、高橋さんの藤沢への“地元愛”の強さを垣間見たような気がする
取材を終えて
「鵠沼魚醤を開発するうえで大変だったことは?」という質問に「仕込んでから1年経ってからでないとどんな仕上がりになっているか分からないことですかね」と答えた高橋さん。きっと、今の味にたどり着くまでには、毎年毎年、かなりの試行錯誤を繰り返してきたはずだ。
しかし、どんなに話を伺ってもほとんどそうした苦労話は出てこない。それよりも「鵠沼魚醤はこんな料理にも使える」とか「地元の人に使ってほしい」といった話を熱く語ってくれた。こうして誕生した鵠沼魚醤を“藤沢の味”として愛されるものにしたいという想いが強いのだろう。
イルキャンティ・ビーチェの厨房横でさまざまな調味料と一緒に並ぶ鵠沼魚醤
しかもその想いは決して「鵠沼魚醤をもっと売っていきたい」という利益至上主義なものではなく、地元の味を広めたい、地元を盛り上げたいという藤沢への強い愛着によるもの。もしも“儲ける”ことが目的なら、ネット販売などもっと多くの人が手に入れやすい販売方法を選ぶだろう。
この記事が少しでも高橋さんの一途な「地元を盛り上げたい」という想いをかなえる力になれれば・・・と思う。
―終わり―