市営バスの「○○前でございます」という車内広告アナウンスって効果ある?
ココがキニナル!
市営バスで次の停留所のアナウンスがあった後に「○○前でございます」とか「○○へはこちらが便利です」などの広告が続くことがあります。採用する事業所の基準、広告料や広告効果は?(だいさんのキニナル)
はまれぽ調査結果!
交通局のさだめた広告審査基準によって法人または店舗などのある広告主が掲載可能。料金はバスの本数によって決定、広告主は効果を感じている。
ライター:小方 サダオ
あまり知られていないバスの案内放送の実態とは
まずは「市営バス広告」について、横浜市西区にある、横浜市営バスを管理・運営している横浜市交通局の営業・観光企画課にお話を伺うことに。
西区花咲町にある横浜市交通局の事務所
交通局からは営業・観光企画課長・高鳥さんをはじめとした3名、広告代理店からは市営バスの広告代理店である旭広告社の高田さんという、4名もの対応に少なからず恐縮した。
高田さんは旭広告社に長く勤めていて、バス担当7年目のベテラン。
今回の取材に際して、案内放送に関するわかりやすく解説された資料を用意してくださった。
営業・観光企画課・担当係長の瀬谷さん(左)と営業・観光企画課の池上(いけのうえ)さん
まず市営バスの歴史について伺うと、営業・観光企画課の池上さんは、「市営バスの走り始めた時期は、1928(昭和3)年11月10日と歴史が古いです」と答えてくれた。
それでは「バスの車内案内放送における広告」はいつからかというと、高田さんは、
「30年以上前からあります。広告代理店側がバス会社に出したアイデアがもとになっています。市営バスは公営交通機関です。看板と同じで『この町にはこんな医者いますよ』というバス利用者に紹介する意味合いで、案内放送が始まりました」とのこと。
おなじみの市営バス
つづいて案内の文言については、
「基本的に停留所名をアナウンスした後、広告主の名前を読み上げます。5~10秒の範囲内なので、長いと途中で切れてしまいます。そのため停留所名を言った後に『〇〇前でございます』『〇〇へはこちらが便利です』などのシンプルな表現を提案しています」という。
しかし案内放送は広告の役割だけではない。
「バス停の名称だけだと、似たようなバス停の名前の場合、場所の特定が難しい場合があります。そこでバス停の名称に広告をつけることで、どのバス停かわかりやすくするのに役立ちます」と高田さん。
個々のバス停を正しく判断するための助けとなるのだ。
高田さんの資料による、案内放送の原稿に関する資料
そのため、「○○前」という文言を入れるので、広告主はバス停の近所に店舗を構えていることが条件となる。
「広告主は、当該バス停に付随して、バス停のわかりやすい案内ができる店または会社などの団体に限ります。そのため『○○前です』の表現に適切な距離に店舗を置く広告主の必要があります。この表現はおかしい、とならないよう気を付けています。例えばバス停から10分では"前"にはなりませんよね」と高田さん。
ところで広告を出したいという人が集中するバス停など、すでにバス停にほかの広告主が入っていた場合はどうするのか?
「例外的に『事前放送』というものがあります。申し込みたいバス停にすでに契約が入っていて、その一つ先には入っていないという場合、『○○へはひとつ先のバス停でお降りください』とお伝えしています。2つ手前くらいのバス停までで受け付けています」とのこと。
広告主の種類とその基準とは
現在広告主となっている職種はどんなものが多いのか、と伺うと高田さんは「半分強くらいが歯科医院などの医療機関です。また寺院も多いです」と答えてくれた。
また広告の意匠内容の審査基準に関して営業・観光企画課の池上さんは、
「横浜市交通局の“広告取扱規定”、さらに細かいところで“広告掲出審査基準”に従って可否を判断します。お断りする業種に関しては、一部の風俗営業やたばこ販売関係、医療類似行為や 個人輸入代行業や連鎖販売取引いわゆるネズミ講のような業種になります」とのこと。
横浜市交通局の広告掲出審査基準
筆者の「個人宅でも広告主としてバス停の案内放送になりうるのか」という質問に関して高田さんは、
「個人宅は基本的に採用できません。法人であること、もしくは個人店舗を持つことが条件です」とのこと。
バス関連のマニアックな話も飛び出す
年に一回行われる案内放送の切り替え
つづいて案内放送が更新される時期について聞いた。
「広告の契約期間は1年間です。 次年度以降は毎年継続の確認をし、アナウンス内容の継続に関して確認します。しかし時間は5~10秒の間ですので、内容が長いと途中で切れる可能性があることに注意していただいています」
「案内放送は10営業所ごとに、1年に1回切り替えを行っています。緑営業所・若葉台営業所・港北営業所・鶴見営業所・本牧営業所・滝頭営業所・港南営業所・磯子営業所の8ヶ所は年に1回。浅間町営業所・保土ケ谷営業所は年に2回です」
6月1日、7月1日・・・など、利用者は自分の乗るバスの営業所の切り替え時期を意識して放送を聞いてみると、「あっ、今日からアナウンス内容が変わった!」と楽しめるわけだ。
案内放送の切り替えの時期について
「切り替えの行程については、まず切り替え日の前月10日ごろまでに原稿をまとめます。つぎにアナウンサーによる録音を行い、 音声データの編集作業をパソコンで行います。そして記憶媒体を使って、各営業所のバス全車へのデータ注入するのです」
そしてリフレッシュされた案内放送広告が始まるのだ。
実際に使用されているコンパクトフラッシュ等の記憶媒体
さらに編集作業の機器に関しては、
「昔は音質の良いテープを使っていましたが、最近はデジタル機器を使用することで編集がしやすくなり便利になりました」とのこと。
パソコンによる音声データの編集作業
広告料金はいかほどか?
キニナル放送料金に聞いてみると、答えづらい質問かと思いきや、明快に答えてくれた。
「放送料金はそのバス停に平日に何本のバスが乗り入れるかで料金設定をします。例えば"長者町五丁目の場合、10系統ぶんのバスが乗り入れますが、2系統10本 、32系統 31本・・・とそれぞれを合計し、485本であることから485回アナウンスを放送することになります。そしてC地区
の一日500台未満の金額に相当するため、年間で36万円となります。
広告の料金例に関する資料
バス停への乗り入れ本数によって料金が決まる
案内放送の料金設定について
広告効果のほどは?
短く、聴覚に訴えるだけの広告であるため、効果が気になるところだが、これに関しては高田さんは、
「効果はデータ数値としてまとめていません。しかし長く契約してくれているクライアントもいて、それは効果を実感されているからだと思います。『表札・名刺代わりに自分の店舗の名称をバス停で流す』、そんな意識を広告主は持っているのだと思います」
「また看板と同じで一回広告を出すとやめるのに覚悟がいります。そのため一度始めると長く利用する広告主は多いです。また内容のほうも更新のたびに新しくするより、同じ表現でずーっと続けるほうが憶えてもらいやすく、効果的でしょう。さらにバブル景気の際でも、広告主が増減することもなく、景気に左右されない広告媒体といえるでしょう」とのこと。
データが注入されるハードウェア
またどのくらいの数の広告が入っているのかの質問には
「市内1230ヶ所から1250ヶ所の全バス停のうち、広告が入っているのは300から400の、約3分の1になります」
広告主の数が少ないバス停の傾向としては、
「バス停の前にお店が少ないところです。住宅街はもちろんのこと、繁華街であっても個人のお店の多い路線などは契約が取りづらいです」という。
LEDの掲示板にも広告が表示される
余談としては次のような話が出た。
「変わったアナウンス例に関しては、広告主がウサギのマークを使用した看板を使っていた際、『ウサギさんマークの耳鼻咽喉科はこちらです』というものがありました。
広告料に関しては例えば30年来の広告主には30年前の適正価格を提示しています。理由は、継続の際は当時の価格で受けているため、一度やめて再開した場合は価格が大きく変わっていて驚かれるからです」とのこと。
バリエーション豊かなアナウンス内容に答えてくれるかもしれない。また長く続けている広告主は広告料的にお得なようだ。