【正月特別企画】午年に別れを告げ、羊になって横浜市内の名所を歩く! 明けましておメーでとうございます
ココがキニナル!
2013年の有馬記念で惨敗した白馬が馬車道に舞い戻り、DIY羊を作り動物園、ジンギスカン、年越しそば、初日の出、書き初めと横浜でめでたいことづくし
ライター:永田 ミナミ
12月の雨
2013(平成25)年12月22日、有馬記念で惨敗したあと寒空の馬車道を駆け去っていったまま行方がわからなくなった馬が、長い放浪を経て横浜に戻ってきたという。
そこで水飲み場で張り込んでいると、ある冷たい雨がそぼ降る12月某日、昨年より厚着の馬が水を飲みにやってきた。
昨年より寒いなと呟きブルルと体を震わせて水を飲むのはあの馬にちがいない
馬はひとしきり喉を潤すと、凍てつく灰色の街を眺めた
そして濡れた口をぬぐい「午年ももう終わりか」とつぶやいた
しばらくして馬が立ち去ろうとしたので、近づいて声をかけ、どこへ行くのか聞いてみた。すると「干支が変わるんで、ちょっとね」と言う。「ちょっと、何です?」ときくと「まあ、ついてくればわかるよ」というのでついていってみることにした。
いやあ、それにしても今日はとても寒いね
馬を追跡
やがて馬は馬車道駅に着くと、蹄鉄(ていてつ)を鳴らしながら地下へと降りていった。
この明朝体の案内板、いつ見ても何だかとてもいいよね
横浜駅で降りた馬は東口から地上に出ると、ベイクォーターへやってきた。
お、ここだここだ、と呟く柱には羊のマーク
そう、ユザワヤである。いったい馬は何を考えているのだろう
しばらく店内を歩き回ったあと
このへんかな、とうなずいて、馬はいくつかの商品をレジへと運んだ
よし、オッケー。じゃあ、次は東急ハンズね
「東急ハンズ?」「そうそう」
パカパカと歩きはじめる馬に「いったいどういうことです?」とたずねると、「いやあ、何だかこれって思えるのがなくてね」という。
跑足(だくあし)で進んでいく馬を小走りで追いかけているうちに、あっという間に西口にまわってモアーズに到着。そして7階、アートコーナーに入ると、またいくつかの商品を選んで馬はレジに向かった。
はい、これでオッケー
馬の工作
さて、両前脚に袋をぶら下げ編集部に戻ってきた馬は、机の上に買ったものを広げると、しばらく画像を検索したり考えごとをしたりしていた。
ええと、ここはこんな感じにしたいから
まずはこの鼻筋だな、とぶつぶつ言っていた馬は
やがて「ヒヒン」と短く嘶(いなな)き、買ってきたカッターに手を伸ばした
「よし、荒馬の轡(くつわ)は前からって言うし、恐るることなかれ、とりあえずやってみよう」そう呟いた馬は、工作用紙を4センチ幅で2つ切り取り、片方を顔の輪郭に合わせて輪にすると、手芸用接着剤で貼りつけた。
うん、だいたいイメージ通りかな
その後、切っては貼りを繰り返していくうちに
だんだんかたちが見えてきた
そしてその上から接着剤でベージュのフェルトを貼り
全体を覆ったら、ふもふもした白い生地をぐるりと貼りつけ
うん、こんな感じかな、と馬の中身は何やら納得している様子
しかし目を入れて市販品との合体を試みると、何かが違うと首をかしげ
試行錯誤を繰り返しているうちに「ううん、耳の位置だな」と言い出し
いっそこうやって耳をいい感じの場所につけたくなってきたなと言い出し
最終的に「完全オリジナル羊を」つくってしまった
何やら満足げな馬に「なんで7時間もかけて羊を?」と質問すると「いやあ、羊と言ったらふもふもな質感がいちばん大事だと思うんだけど、市販されてるものではなかなかイメージと合う羊が見つからなくてね。ふもふもしてる羊は基本顔まる出しなんだよ。なかには横向きの羊の腹を食い破って顔を出すみたいなマスクなんかもあってびっくりしちゃった」という答えが返ってきた。
うんうん、いいぞ悪くない
馬の説明によると、干支は1人の精霊であり、毎年干支にちなんだコスチュームに着替えることで干支が変わるのだそうだ。そういえば水木しげる先生が「妖怪というのはどれも同じ精霊で、時代や場所によってさまざまなかたちで姿を現すのである」というようなことを話していたのを読んだことがあるが、干支もそれに似ているようだ。
できあがった羊を抱えた馬は「よし、せっかく今日ずっと一緒だったし、大晦日の夜にちょっと出かけるから、よかったら一緒においでよ」と言って、鼻歌まじりに並足で編集部を出ていった。