【横浜の名建築】横浜市指定有形文化財 横浜地方気象台
ココがキニナル!
横浜にある数多くの名建築を詳しくレポートするこのシリーズ。第5回は、横浜地方気象台。当時最先端のモダンな外観デザインと、レトロで優しい室内に、気象に関するたくさんの機能が詰まった魅力的な建物だった。
ライター:吉澤 由美子
港の見える丘公園から外人墓地に向かう途中、元町の方に降りる見尻坂という細い道に入ってすぐ、古びた石積みの上に横浜地方気象台がある。
庁舎と石積みのブラフ積み擁壁(ようへき)は横浜市指定有形文化財
この建物は、1927(昭和2年)年に完成したもので、アールデコ調の細部装飾が特徴だ。
旧字を使ったプレート。昔のものは庁舎内に飾られている
アールデコは1910年~1930年頃にヨーロッパやアメリカを席巻したデザインで、直線や幾何学模様の意匠を使った、実用的でモダンな装飾様式。
アールデコの意匠が集約された玄関とその上の塔屋
それまで重厚かつ華美な建築デザイン中心だった横浜の公共建造物の中で、シンプルな横浜地方気象台は当時、斬新でとてもモダンなスタイルと映ったに違いない。
案内してくださったのは、気象庁 横浜地方気象台 総務課の永富信一さん。
穏やかにわかりやすく気象や建物の歴史を教えてくれた
若き技師の設計から生まれた当時最先端のデザインと機能性
横浜地方気象台は、もともと「神奈川県測候所」として、大さん橋近くで観測業務を行っていた。
そこが関東大震災で倒壊。山手の旧米海軍病院跡地だったこの場所に測候所が建てられることとなった。
当時、設計を担当したのは、20代前半という若き技師、繁野繁造。
この異例の大抜擢が、昭和初期のモダニズム(近代主義)を鮮烈に感じさせる建物を生み出した。
ガラスの渡り廊下から左がコンクリート打ち放しの第2庁舎
創建から70年以上が過ぎ、老朽化し手狭になった横浜地方気象台は2007年、建築家・安藤忠雄の設計により、既存の本庁舎改修と耐震補強のほか、敷地内に新たに第2庁舎を増築。
本庁舎の色調や窓の形などを取り入れた第2庁舎は、違和感なくしっくりとなじんでいる。
第2庁舎内も、入口部分から見学できる
山手居留地の特長的な外構 ブラフ積み擁壁
横浜地方気象台でまず見ておきたいのが、敷地外周にある直方体の房州石を長手短手に積んだ、ブラフ積み擁壁。
同じ大きさの石を、小さな正方形と大きな長方形の面で交互に組んでいる
崖の多い山手にはいくつもブラフ積み擁壁が残っているが、こちらはアールのついた全容や規模の大きさからも見逃せない遺構だ。
機能性と居心地のよさ
建物に近付くと、外壁がコンクリートではないことがよくわかる。これは「人造石洗い出し」という技法の壁。
玄関脇の腰部(下の方)には、「洗い出し」のオリジナルが残っている。
外壁の一番下、やや黄味がかった色の部分がオリジナル
創建当時、この外壁は真っ白だった。再生にあたって、あえて歴史的風合いを残したグレーに仕上げられている。