【横浜の名建築】曹洞宗大本山 總持寺
ココがキニナル!
建築家の伊東忠太さんの設計した作品の宝庫、總持寺さんを名建築シリーズで取り上げてください。キニナル。(にゃんさんのキニナル)
はまれぽ調査結果!
總持寺の仏殿は荘厳な美しさ。伊東忠太設計の大僧堂内部の雰囲気は衆寮(しゅりょう)で伝わった。百間廊下は、災害への思いを新たにさせる場所
ライター:吉澤 由美子
「横浜の名建築シリーズ」とは、横浜にある数多くの名建築を、歴史的背景やエピソードをもとに紹介していくシリーズである。
今回は横浜市鶴見区にある曹洞宗の大本山、總持寺(そうじじ)をご紹介。「仏殿(大雄宝殿:だいゆうほうでん)」をはじめとする伽藍(がらん:寺院の建物)を構成する16の施設が国登録文化財に登録されている名建築の宝庫だ。
能登国(現在の石川県輪島市)にあった總持寺が現在のこの地に寺基移転したのは1911(明治44)年だから、お寺としては新しい建物が多い。そのため細部まで意匠がきれいに保たれていて、そこに込められた思いがそのまま伝わってくる。
總持寺の大祖堂(だいそどう)
大祖堂は巨大な禅宗様建築(日本の伝統的な寺院建築)である。鉄筋コンクリートだからこそ実現した威容な佇まい。
節分に豆まきが行われる千畳敷の大祖堂内部
今回は、總持寺に数ある名建築から、与謝野晶子が歌に詠んだ仏殿と、投稿にあった建築家・伊東忠太(いとう・ちゅうた)設計の大僧堂を中心にその魅力をご紹介。
約10万坪ある境内。今回紹介する建物(總持寺HP境内マップより)※クリックして拡大
伊東忠太は、明治から昭和にかけて、平安神宮、築地本願寺、湯島聖堂などを設計した大建築家だ。
ご案内いただく總持寺の布教教化部参禅室長の花和浩明(はなわ・こうめい)さんを訊ねて、總持寺の総受付である香積台(こうしゃくだい)に向かう。
反りが印象的な切妻(きりづま)という形状の屋根の香積台
木目の美しい屋根の内側が目に入ってきた。
入口で上部を見上げると屋根を支える中央にある蟇股(かえるまた)
「お寺は本来くつろぎを感じる場所。気軽においでください」と花和さん
与謝野晶子を圧倒した荘厳な仏殿
總持寺の七堂伽藍中心部に配置されている仏殿は、「大雄宝殿」という呼び名を持つ建物。全てケヤキで作られており、屋根は入母屋造、本瓦葺(ほんかわらぶき:屋根のおおい方)。棟梁は伊藤平左衛門と伝わっているそう。
取材した日はあいにくの雨。これは2015(平成27)年の豆まきの時に撮影した仏殿
屋根が二重に見えるが、下は裳階(もこし)という庇(ひさし)。屋根の下には整然と木が組まれた組物が見える。
下から裳階を見上げる
横に回ると花頭窓(かとうまど)が並んでいる。やわらかなアール(曲面)を描いたこの窓は、ろうそくの炎のゆらめきから生まれたデザインで、もともとは火灯窓と呼んでいたが、「火」を嫌って花頭窓という名前になった。
花頭窓が並ぶ
通常、仏殿内部は非公開だが、今回は特別に与謝野晶子がその美しさに感動したという内部を見せていただけることに!
完成間近に仏殿を訪れた与謝野晶子は、黒々とした鏡のような床の荘厳な美しさに打たれて、「胸なりてわれ踏みがたし 氷よりすめる大雄宝殿の床」という和歌を詠んだ。
仏殿と百間(ひゃっけん)廊下の近くにある与謝野晶子の歌碑。これも2015年の撮影
中に入ると、その与謝野晶子の想いがダイレクトに伝わってきた。
厳かで静謐(せいひつ)な空間
床は黒く四角い石(瓦)が斜めに敷き詰められた四半敷(しはんじき)。光を反射してとても美しい。
灯りをつけていただくと、堂内に金色の煌めきが満ちる
須弥壇(しゅみだん:本尊を安置する場所)に祀られる釈迦牟尼如来(しゃかむににょらい)
須弥壇には木彫坐像の釈迦牟尼如来が祀られている。釈迦牟尼如来の右手と左手の印相は、人々の不安をとり除き、あらゆる願いをかなえてくれる慈悲の心を表現しているそう。
須弥壇の前には、導師が礼拝しお経を読むための礼盤(らいばん)があり、天井から金色の天蓋が下がっている。
1木枠で畳の彫刻を施された礼盤。畳の縁のデザインも普通の畳とは違う
上部を見上げると天井の格子と弓なりになった梁が目に入ってきた。
大小の格子が組み合わさった天井
これは、大きな格子の中にさらに小さい格子があり、壁の一番上よりさらに少し高い位置に天井が作られた折上小組格天井(おりあげこぐみごうてんじょう)だ。この天井はとても格の高い建物にのみ使われるもの。總持寺の伝統と歴史をこうしたところにさりげなく感じる。
そして、大きく湾曲した梁は海老虹梁(えびこうりょう)。須弥壇を囲む柱には、動物を模した木鼻(きばな)が付き出ている。「たぶん獏(ばく)だと思います」と花和さん。
屋根を支える柱と裳階(もこし)を支える柱の間をつなぐ海老虹梁
須弥壇と屋根を支える柱をつなぐ梁
梁には、柱で抑えつけられた邪鬼とその下に蟇股(かえるまた)があった。
須弥壇に昇る階段の親柱も見どころのひとつ。親柱の上部が丸い擬宝珠(ぎぼし)ではなく独特の形なのだ。
須弥壇への階段
蓮華の花を逆さに伏せたようなこの形は、逆蓮(ぎゃくれん、さかばす)。逆蓮や四半敷などは禅宗様建築の特徴だそう。
普段は仏殿の中に入ることはできないが、正面にある窓からいつでも内部を見ることができる。
ガラスがはまっていない部分があるので、そこから内部を直接見ることができる
仏殿の次は、いよいよ投稿にあった伊東忠太設計の建物へ。