横浜港「除夜の汽笛」の正体は?
ココがキニナル!
除夜の汽笛はどこまで聞こえる?いつから?誰が始めた?何隻?以下敬称略、f3 、mania、みつ、だい、Yokoyoko、ヌッキー、yakisabazushi、fire_ji、はんちゃん、ぺぴちゃん)
はまれぽ調査結果!
汽笛を鳴らす風習は恐らく 明治時代から。昔のヨーロッパの船乗りが発祥と言われ横浜港の船の汽笛の届く距離は半径10︎km付近がボーダーライン。
ライター:細野 誠治
横浜の音。 1/365の音
まさに横浜の年越しの象徴。汽笛の音。
ダメなハマっ子としては、子どものころから汽笛の音を聞きながら年賀状をしたためていたものです。
そして。
港町に住まう者も、そうでない人も船の汽笛を耳にしたら、ふと思うはず。
あの汽笛の音は、どこまで届くのだろう?
(筆者は生まれも育ちも、現在の住まいも港北区。汽笛の音は、ちゃんと聞こえる)
一年で一度きりの、横浜の音
実に横浜っぽい キニナルではないでしょうか?
大晦日の汽笛に関するキニナルは、 さまざまに寄せられている。今回は容量が許す限り、疑問点を解いていこう。
皆さまのお相手は、細野誠治です。
まずは背景から。
なぜ大晦日に、港に停泊中の船が、除夜の鐘のように汽笛を鳴らすのだろうか? 決まりや、どこかと約束ごとが交わされているのだろうか?
「横浜市港湾局」に問い合わせてみる・・・
すると「港湾局の方で“汽笛を鳴らしなさい”といった通達などは、一切出してはいない」との回答。
毎年、横浜港に停泊している船が自主的 に行っているのだと分かった。
(筆者は子どものころ、親に「氷川丸の音だ」と教えられてきた。実際は船の大小にかかわらず、横浜港に停泊する、さまざまな船が行うそうだ)
ほかに「かなり古くから行われている」との情報を得ることができた。
取り決めも打ち合わせもなく毎年、数隻の船が。ボートや小さなものまで加えれば数十という数の船たちが一斉に、ときの声を上げる。
どうも古くからの習わしのようだ。では「みなと」の歴史について詳しい方に、さらに聞いてみよう。誰が、いつどこで始めたの?
みなとみらい21地区、日本丸に隣接する「横浜みなと博物館」へ
複数の関係者に話を伝え、ようやく一人だけ具体的な話を知る方に出会えた。
あくまで「聞いた話ですが」と断られたものの、かつて船乗りだったという方(お写真やお名前などはNG )に歴史を教えていただいた 。
「昔のヨーロッパの習わしだと聞いています。昔、船では30分ごとに1回、ベルを鳴らしたんです。1時間に2回、4時間で計8回鳴らします。船では4時間ごとにシフトが代わりますから。最大でベルは8回鳴るんです。それで大晦日の時、当番だった船乗りが景気付けの意味でか、倍の16回、ベルを鳴らしたんだそうです」
始まりはベルだった?
「やがてベルが蒸気船になって、汽笛になったんですね。この習わしが明治時代に日本にも入ってきて、以来、続いていると聞きました」
かなり古くから続く、船での習わし(蒸気機関船の登場よりも昔だ)。
今回、なぜ鳴らすのかを追い、唯一関係者から聞けたナマの回答。理由は諸説あるのかも知れない。そして今となっては、真相は分からない。
海の先人たちの習わしが今も続いている
おおよそではあるが、背景や歴史は分かった。
次は実際の現場に立ってみよう。そして大晦日に汽笛を鳴らす方は、一体どんな方なのだろう。
行こう。横浜の宝物のひとつ、重要文化財の氷川丸へ
今回、取材申請をしたところ特別に許可がもらえた。しかも毎年、大晦日に氷川丸の汽笛を鳴らす船長自らがインタビューに答えていただけることに。
普段は立ち入ることが叶わない通路を通って船内の事務所へ(ライターの特権)。
金谷範夫(かなや・のりお)氷川丸船長に伺う
20歳のときから海の仕事に就き、2016(平成28)年で46年目。14年前から氷川丸の船長に就任され、以降毎年、金谷船長が大晦日の汽笛を鳴らしている。
日付の変わる、ちょうど午前0時。
年越しを山下公園で迎える観客を見つめながら、装置のボタンを押しているそうだ。
今年も金谷船長の鳴らす汽笛が、横浜に響く
「昔は今と違って、もっとたくさんの船が停泊していたので、それはにぎやかでね・・・」
船には停泊料がかかる。近ごろは予算の削減なのか、大晦日に航行する船が増えたという。
「それでも大晦日は、24時になると汽笛を鳴らすんですよ」と金谷船長。
真夜中の海を走る船さえも、誰に聞かせるでもなく汽笛を鳴らす。どこかの陸を目指す。
大晦日の汽笛と船は、切っても切れないものなのか
「そろそろ(汽笛を)鳴らす場所にご案内しましょう」と、金谷船長に促されて船内を進む。
現在、氷川丸は走らない。文化遺産として整備され、汽笛(装置=ボタン)は操舵室ではなく事務所と、Bデッキ左舷後方に取り付けられている。
山下公園側から見ると、写真右・中央辺りの窓近くに設置されている
エントランスロビー後方のドア(立ち入り禁止)の向こう側。壁に装置が下げられている。
このボタンを押すと汽笛が鳴る仕組み
毎年、この窓から外を見ながら汽笛を鳴らすそうだ
汽笛。
大晦日の夜の、横浜の音。後世に伝えて残すべき音。
今からちょうど20年前の1996(平成8)年、当時の環境庁(現・環境省)が
「横浜港新年を迎える船の汽笛」として「日本の音風景百選」のひとつに認定。氷川丸は代表をして、表彰を受けた。
氷川丸の船内・一等喫煙室前に賞状が飾られています
金谷船長には貴重な話を伺い、また写真も収めることができた。お礼をして船を後に。
ただ一点、どうしても分からなかったのは「汽笛はどこまで届くのか?」だ。
最後の謎を探るためにも汽笛が、どのくらいの音量なのかを調べてみる。
氷川丸の正午の汽笛の音を簡易的な騒音計アプリで計測 。結果は91デシベル
さらに掘る。
現行船舶の汽笛の音量には規則がある。国土交通省(旧運輸省)が定めている海上衝突予防法・施行規則の第18条によれば・・・
<全長200メートル以上の船>
70ヘルツ以上200ヘルツ以下、143デシベル以上
<全長75メートル以上200メートル以下の船>
130ヘルツ以上350ヘルツ以下、138デシベル以上
<全長75メートル以下の船>
250ヘルツ以上700ヘルツ以下、120デシベル以上
・・・と、船の大きさによって汽笛の音量は決められている。
大型タンカーや、大さん橋に停泊する客船などは文句なしに143デシベル以上
この数値(143デシベル)、一体どこまで聞こえるのだろうか?
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