火葬場の灰から金銀が!? 「残骨灰」を売却する横浜市の苦悩とは
ココがキニナル!
火葬場で遺体を焼いた後に出る「残骨灰」を横浜市は回収して中に混じった金などを業者に売っているとテレビで取り上げられていました。この収益は何に使っているのでしょうか?(bubukaさんのキニナル)
はまれぽ調査結果!
遺骨をすべて回収した後に残る残骨灰の売却益は、市営斎場(火葬場)のトイレや待合室の改良に使用している。横浜市は透明性確保のために売却をはじめたが、長期的な制度とは考えていない
ライター:はまれぽ編集部
横浜市は火葬場の灰を売却して利益を得ているーー。そんなショッキングな話題に関するキニナル投稿が寄せられた。
遺体を燃やした後の灰を売ることは問題にならないの? どうしてそんなものが売れるの? そして、売ったお金は何に使われているのか・・・?
諸々の疑問を抱え、市営斎場を管轄する横浜市健康福祉局の健康安全部環境施設課にお話をうかがうことにした。
市としての見解は?
「遺骨」はすべて骨壺に収容。残った灰の中には・・・
そもそも、遺体の火葬を行う斎場は自治体が運営する公営のものと、民営とに分けられる。横浜市には市営斎場が4ヶ所あり、民営は1ヶ所のみ。1年間に市営斎場が使われる回数は、約3万件に上るという。
4斎場で計44の火葬炉がある(横浜市HPより)
酒井啓彦(さかい・ひろよし)環境施設課長によれば、横浜市では遺骨をすべて骨壺に収める「全骨収容」を行っているため、火葬後に残るのは基本的に灰だけ。これが売却できるというのは、どういうことなのだろう?
「横浜市では、もともとこの残骨灰について、事業者にお金を払って処理を委託していました」と酒井課長。しかし、その委託先の入札の際に、異常に安い金額を提示する事業者が現れたという。
「そんな金額で受託すれば人件費などで損になってしまうはず。調査を行うと、残骨灰の中に含まれる有価金属を抽出して売却するという動きが他自治体で問題になっていることが分かりました」と話し、市にとっても驚きの事実だったそうだ。
火葬後の灰のほかに燃焼炉から舞い上がった粉も含まれる(横浜市資料より)
この灰の中には、遺体の銀歯や金歯由来の金属が、パウダー状になってわずかに含まれている。安い金額で残骨灰を引き取る処理業者の中には、灰からの金属抽出を見込んで引き取っている場合があるようだ。横浜市以外の自治体では、処理を「1円」で引き受ける事業者もいたという。
残骨灰の価値を知った横浜市だが、そこで危ぶまれたのが「残骨灰がどのように処理されているのか把握できない」という透明性の問題だ。
というのも、それまで横浜市では残骨灰の処理について、事業者に「埋葬をしなさい」とは言っていたものの、その証拠などは求めておらず、その善意に任せていた部分があった。
抽出などを禁じることを考えられたが、すべての行程を監視するのも困難で、実態が不透明なまま安く請け負う事業者と契約を結ぶことになってしまう。
残骨灰に関わる透明性を確保するには・・・(写真はフリー画像より)
そこで横浜市がとった対策が、「いっそ金属抽出を前提に契約し、売却すること」。
酒井課長は「対応策を検討する中で、灰に金属が含まれている前提で売り払い契約を行っている自治体があることを知り、横浜市でも残骨灰の売り払いを行うことになりました。陰で金属の抽出が行われるよりも、しっかりと透明性のある契約を結ぶことで、尊厳の確保と法令の遵守を事業者に求めていくことができるという考えです」と話す。
残骨灰の取り扱いについては「遺骨の欠片と分かるもの」は埋葬することや、それ以外の灰も不法投棄しないことなどを事業者に確約させ、定期的に市の職員が同席して透明性の確保に努めている。実際に、遺骨が埋葬される九州まで赴いて、供養の現場を確認したこともあるという。
灰の売却後も、「遺骨」は供養することを事業者に求めている(写真はフリー画像より)
残骨灰の売却に問題はないの?
とはいえ、灰の中には棺や衣服などのほかに、遺体由来のものも含まれている。金属抽出の際には灰を高温で溶かす必要があり、それ以外の灰は「廃棄処理」となる。心情的に、なんともいえない抵抗感があるのは事実だ。
斎場を利用する遺族に対しては、求められれば説明をする場合もあるが、積極的な周知は行っていない。残骨灰は燃焼炉の中にたまっていくため、誰のものかが判別できないことや、斎場で説明することがかえって失礼にあたるという考えのためだという。
斎場利用者の心情も配慮する必要がある
実際に残骨灰の売却が報じられたことで、環境施設課に対して数件の反対意見が寄せられたが、大きな反発には至っていないようだ。
「売却することへの賛否は覚悟していました。ですが、残骨灰からの抽出は現実に行われており、その中でどのように契約の透明性を確保するかというのが、行政としての役割だと考えています」と酒井課長。
他自治体では市民の意見を受けて売却を取りやめたところもあるが、横浜市では年間40トンの残骨灰が発生し、ただでさえ墓地が不足する中で、灰を完全に埋葬処理することは不可能に近い。
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法律上のあいまいさもある。残骨灰の処理を巡っては「廃棄物」とすることが適正かどうかが問題になっている。火葬などの規則を取りまとめた法律「墓地埋設法」にのっとれば、遺体由来の灰は廃棄物とすることができず、すべて供養する必要がある。
だが、自治体によっては「抽出を行うという産業行為を経ているので、残骨灰は産業廃棄物になる」と判断する場合もあるという。
横浜市の場合、抽出後の灰が廃棄物なのかどうかは判断をしていない。ただ、その処理の際には「廃棄物処理法にのっとる」ように事業者に通達しており、不法投棄を禁じる一方で、廃棄物としての処理を認めているのが実情だ。
前述のとおり、横浜市は「全骨収容」を行っているため、遺骨は基本的にすべて墓地に収められることになる。その炉に残った灰にどこまで「遺骨」としての価値観を求めるかは、やはり個人個人の死生観にもかかわることなのかもしれない。
市条例では、「火葬後の焼骨」は遺族が引き取るよう求めている(市HPより)