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思い出の金メダル

小松崎銀次(20)

 俺は二位が多い。それは全部名前のせいだと思っている。そう。俺の名前は銀次。金ではなく銀なのだ。これまで悔しい思いをしたことは数知れず。大事な水泳の大会はだいたい二位。いつも幼馴染に表彰台の高い所を奪われた。

 そんな俺に毎回活を入れる人間がいた。母ちゃんだ。残り10メートル。スタンドから「あと一息だあ」とデカい声。思わず審判員が場内アナウンスで警告するほどだった。もう恥ずかしいの、なんのって。同級生にも「お前の母ちゃん、おもろいわあ」と毎回バカにされた。

 だから俺は頼んだ。もう来ないでくれって。来ても声を出さないでくれって。

 そんな俺も一昨年やっと大会で優勝を果たした。だけどその時すでに母ちゃんはこの世にいなかった。享年55。クモ膜下出血。早すぎる死だった。

 その後も大会は続いた。母ちゃんのいない観客席。もう恥をかかなくていいのかと思うとホッとするような、でもどこか寂しかった。負けた証にもらう銀メダルでも、母と歩んだ日々は思い出の金メダルだった。

 だから思う。金じゃなくていい。いつまでも銀でいい。銀でいいから、残り10メートル、その枯れた声で叫び続ける「あと一息だあ」を聞かせて欲しい。

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