フランスパンで有名なビゴの店、ホームベーカリーで作られている!?
ココがキニナル!
川崎市宮前区のビゴの店鷺沼店を取材してください。本当にホームベーカリーでパンを焼いてるんでしょうか?キニナル。(にゃんさんのキニナル)
はまれぽ調査結果!
ビゴの店鷺沼店にはホームベーカリーで焼いたパンは売っていなかった!ただオーナーの藤森さんはホームベーカリーで焼くパンのレシピ本を出版していた。
ライター:吉澤 由美子
東急田園都市線の「鷺沼」駅を降りて3分ほど歩いた場所に「ビゴの店 鷺沼店」がある。フランスパンの世界では名門として知られたお店だ。
このお店でホームベーカリーで焼いたパンを売っているという話は聞いたことがないけれど、世の中は広い。まさかということが往々にしてある。
鷺沼駅から246に抜ける道沿いにあるビゴの店鷺沼店
かなり前だが、箱根にあるクラシックホテルのバーでフローズンカクテルを頼んだ時、カウンターの内側でショリショリ音がしてきて「家庭用のかき氷機を使っていたりして」と覗き込んだら、バーテンダーがペンギン型のかき氷機でクラッシュアイスを作っていてのけぞったことがあった。
この有名店でホームベーカリーで焼いたパンを売っているとは思えないけれど、とにかく聞いてみよう。
「ビゴの店」の名前の由来は?
「ビゴの店」の「ビゴ」は、日本にフランスパンを根付かせたフィリップ・ビゴさんの名前を冠したもの。
お店の入口横に、大きなビゴさんの写真が飾ってある
「フランスパンの神様」と呼ばれるレイモン・カルヴェル教授(フランス国立製粉学校)の推薦を受け、1965(昭和40)年に東京・晴海で開かれた見本市でフランスパンを焼く職人として日本にやってきたビゴさん。
見本市が終わった後、本格的なフランスパンを販売したいと考えていた「DONQ(ドンク)」がビゴさんを迎え、1966(昭和41)年、ドンク青山店でフランスパンの販売をはじめた。
トリコロールにパリの地図を配したデザインの紙袋とビゴさんが焼くパリパリで薄い皮にモッチリした中身のバゲット。ドンク青山店のフランスパンはたちまち評判になった。
1972(昭和47)年にビゴさんは独立し、兵庫・芦屋に「ビゴの店」を構え、現在は阪神地区を中心に十数店の店舗を展開している。
ビゴさんはパン職人として、そして菓子職人として一流であるだけでなく、ドンク時代から現在に至るまで、職人を育て、フランスの食文化を日本に紹介し続けている。
そのビゴさんに師事し、のれん分けを許されたのが「ビゴの店鷺沼店」のオーナーシェフ藤森二郎さん。
藤森シェフ
藤森さんは東京にあるビゴさんのお店、プランタン銀座の『ドゥース・フランス』の運営も任されている。ビゴさんの信頼厚いシェフなのだ。
お菓子作りにはまった高校時代
「ビゴの店鷺沼店」に入ると、焼き立てのパンのいい香りに包まれる。中央の棚にフランスパン、奥のカウンターにはブリオッシュやクロワッサン、ケーキやお菓子が並んでいる。
中央にはフランスパン。カウンター横にキッシュなどが並ぶ
2階には、焼き立てパンとコーヒーが楽しめるカフェがある。大きな窓から明るい光が差し込んでいる店内で、オーナーシェフの藤森さんにお話を伺った。
明るいカフェ
藤森さんは1956(昭和31)年、東京の目黒に生まれた。
「最初はお菓子の職人を目指していたんですよ」と藤森さん。
お店には美味しそうな焼き菓子もあった
高校時代にバンクーバーにホームステイした時、お菓子作りにはまった藤森さん。
眺めているだけでワクワクするケーキ
大学に入るころにはお菓子作りから離れていたが、就職活動を始める時に会社勤めではない仕事をと考えて、お菓子作りへの思いが再燃した。
取材した日はバレンタインデー直前。チョコレート菓子がたくさんあった
明治学院大学法学部卒業後、横浜で洋菓子職人として修行を積んだ。その頃、たまたま見たNHKの『きょうの料理』にビゴさんが出ていて、その技に魅了された。
「それで弟子にしてもらいに神戸に行った。入門を許してもらえるまで2~3日かかったかな。それ以来、ムッシュ(ビゴさん)とは30年以上の付き合いです」
ビゴの店鷺沼店を開くことになり、藤森さんはビゴさんからパン作りに使う天然酵母(自然発酵種)を受け継いだ。
一般的に、パンを発酵させるためにはドライか生のイーストか天然酵母を使う。科学的に培養されたイーストは手軽で短時間にパンを作ることができるが、昔ながらの方法で天然酵母を使ってじっくり発酵させたパンの味わい深さは格別。
作る人の個性や技術によって味や風味がかなり異なってくるため、自家製の天然酵母は老舗ウナギ屋のタレのように大切な存在であり、使いながら引き継いで大事に守るべきもの。
後年、阪神大震災で被害を受けたビゴさんの店の天然酵母が死んでしまった時、藤森さんが受け継いで守ってきた天然酵母を神戸に持って行った。師弟の絆が天然酵母でつながったことになんだかぐっとくる。
天然酵母を使った「パン・オ・ルヴァン」は370円。深い味わいで食べ応えがある