全くふれあえない南区「ふれあいの樹林」とは?
ココがキニナル!
南区の大岡ふれあいの樹林は、なぜか金網で囲まれたうえで「キケン立ち入り禁止」となっていて、まったくふれあえません。もう何年もその状態。むかし事故でもあって閉鎖されたの!?(bausackさん)
はまれぽ調査結果!
園内の山の頂上付近は狭く急な崖になっていて、転落の危険や違法行為が行われるなどの安全面などの理由で閉鎖された。周囲のベンチなどは利用できる
ライター:小方 サダオ
周辺住民
フェンスが施錠されている事情について近所の住民に伺うことにした。
すると、偶然にも公園関係者のある男性と出会い、お話を伺えることになった「この公園は1987(昭和62)年に作られました。この森の頂上付近は公園になっていますが、頂上の周囲に柵はなく急傾斜な崖下になって、危険なため立ち入り禁止にしています」
「また中央部分が少し盛り上がっていることもあり、枯葉や笹の葉などが地面にある場合は特に滑りやすく、崖から落ちる危険性が高いのです。整備のために業者が入ることもありますが、崖の整備の際はロープを利用しないといけないほどで、『急ですね』と驚くほどでした」
ロープを利用しないと整備できない急な崖
公園内で焚火の跡があったという
「さらに周囲の住宅から見えないため、この公園の中で利用者が何をするか分からないところが問題なのです。開園して数年後に、頂上付近で穴を掘って火を焚いたような跡が発見されました。この花壇にも火の付いたたばこが捨てられていることがありますし、もし山火事になり、隣接する住宅づたいに燃え広がったら大変です」
「さらにこの山はある保護鳥がやって来る場所で、それを知る人が、自分の飼っている同種の鳥を鳴かせて呼び込むという『鳴き寄せ』を行っていたことが分かりました。保護鳥を鳴き寄せで捕まえることは密猟になります」
保護鳥の訪れる山だという
「そのような理由で、市のほうで閉鎖するようにしました。限定的に、園内の保全活動を行う業者などが入る際に開けることがあります。私も鍵を持っていて、年に数回パトロールをしています。しかし、開放している公園のベンチは利用ができ、お茶を飲んでいる人も見かけます」と答えてくれた。
入口手前にあったベンチは利用されているようだ
また公園の近くに住む女性に伺うと「私は10年ほど前からここに住んでいます。一度近所の人たちで鍵を開けてもらって中に入ったことがありますが、山の頂上には1メートル四方の平らな場所しかないのです。そのため頂上に柵を作るスペースなどはありません。子どもが不注意に入ったら大変です」と答えてくれた。
頂上付近には大きな木がある
さらに階段の下で立ち話をしていた女性からは、3~4年前に園内で悲惨な事件が起こったことがあったとも聞いた。
住宅地の中にある自然は貴重ではあるが、人目のつかない死角となるため、注意が必要な場所となってしまうのかもしれない。
住宅地内にある山は死角になりやすい
ところで住宅街の中にポツンと残る山であるが、昔からこの山だけがあったのだろうか?
昔の様子を知る人を探すと、旧道沿いにある井上電機店の店員の方が話してくれた。
「以前はあのあたりは一帯が山でした。山の間の道は切通しの道で、谷戸(やと)と呼んでいて、地元の子どもにとっては格好の遊び場でした」
「大岡ふれあいの樹林」のふもとの道は切通しであった
「40年ほど前、磯子区の県立外語短期大学が出来たころから山を切り崩して大規模な住宅開発がはじまりました。しかし一帯が住宅地となったことで問題も生まれました。当時はこのあたりには山が多かったため、大雨が来ても山肌が雨を吸収してくれるので災害はありませんでしたが、今では山だったところが住宅地になっていた、今ある山からふもとに向かって雨水が流れ込んでくるのです」
「以前、大雨で南にあるイトーヨーカドーなどが浸水したこともあります。地元のお年寄りは開発されたことを残念に思う人も多いです」と答えてくれた。
イトーヨーカドー(緑矢印)大岡ふれあいの樹林(青矢印)
弘明寺の前の鎌倉街道は新道で、以前はこの道が大通りだった
さらに「あの山はHさんという、以前お百姓をされていた一家の土地です」と教えてくれた。
そこで公園の山のふもとに家を構える、Hさんに話を伺うことにした。
孫にあたる若い男性に話を伺うと「あの山はうちの土地でしたが、市に売ったため今はどのような状態なのかは分かりません。以前『あの山にマンションを建てたい』という開発業者がしきりに来たことがありました。しかし理由は分かりませんが、祖父はかたくなに断っていました」と答えてくれた。
「大岡ふれあいの樹林」の山はHさん宅の裏山だ
もともとは一面山だったとのことで、この山も開発のせいで削られて急峻な崖になってしまったのかもしれない。
Hさんは、昔の自然豊かであったこの地のことを思い、少しでもその名残をとどめておきたいとの気持ちから、この山を残したかったのではないだろうか。
南部公園緑地事務所に話を伺う
次に南部公園緑地事務所の担当者に「大岡ふれあいの樹林」の現状に関して伺うと「閉鎖されているのは階段から上だけで、ふもとの部分は利用できます。階段の上の山の頂上には平坦な場所がありますが、ベンチなど設備は特にありません」
山の上には特に設備はない
「開園して間もなく、山の側面が険しい崖で、枯葉などで滑った場合の危険性など、安全面で問題になりました。また山の上は人目につかない場所のため、無許可で火を使うなどの違法行為が行われたことが発覚し、近隣の皆様などの希望をもとに市が閉鎖する決定をしました」
「現在は『ふれあいの樹林』ではなく、『三丁目緑地』という名称になり、市の所有する緑地になっています。愛護会の方たちが管理をされていて、市や市の委託職員が定期的に入り、伸びすぎた木の枝を剪定するなど、管理を行っています」
公園には低木や草花が植えられている
「今後は、頂上の周囲を安全確保のためにフェンスで囲むなどの対策を行えば、解放して利用していただくことになるかもしれませんが、近隣からの要望がないため、閉鎖された状態になっています」と答えてくれた。
また「公園に認定する際の立ち入り調査の段階で、職員から問題点の指摘が出なかったか」に関して伺うと「設置要綱の条件にも合致し、当初は開園可能と考えられたものと思われます」と答えてくれた。
それでは「ふれあいの樹林」とはどういう制度なのだろうか。
横浜市環境創造局のホームページによると「1988(昭和63)年ごろから始めた『ふれあいの樹林』は、市街地の小規模な緑地を保全・育成しながら、市民の方々にふれあいの場を提供する制度です。山林所有者の方々にお借りし、『ふれあいの樹林』として指定した緑地は、14カ所(約19.6ヘクタール)です」とある。
開園当初は問題がないと思われたようだ
そしてこの制度の根拠となっているのは「緑の環境をつくり育てる条例」だ。
環境創造局のホームページよると「都市は、好むと好まざるとにかかわらず、反自然的、人工的環境を現出させるものであり、ことに、近時の急激で無秩序な都市化の波は、この傾向をさらに強め、現存する緑の環境を著しく破壊しつつある。ここに、われわれは、緑の環境をつくり育てることにより、横浜を健康的でうるおいと憩いのある住み良い都市とするため、この条例を制定する」とある。
そこでほかの「ふれあいの樹林」はどのような所なのかキニナッたので、好例の場所を探してみた。
すると、比較的広い敷地面積を持つ旭区の「鶴ヶ峰ふれあいの樹林(1.5ヘクタール=1万5000平方メートル)」があったので、現地を訪れた。