東京オリンピックで江の島が変わる!? 交通手段の3つの改革とは?【前編】
ココがキニナル!
江の島のオリンピックに向けての取り組みは?/江の島大橋の拡幅工事で車線が増えたそうです/バリアフリー化に地元の人たちが腰を上げました(ハムエッグさん、八景のカズさん、マッサンさん)
はまれぽ調査結果!
江の島では交通手段の向上に自動運転バスの実証実験などが進行中。自動運転バスは、現時点では、江の島での導入は未定だが、今後、導入の可能性もあるかもしれない。
ライター:星野 憲由
自動運転バスの実証実験を体験
自動運転バスの実験とはどういうものだろう。これは、百聞は一見に如かず。実際に自動運転バスに乗車して乗り心地などを体験するべく、実証実験のお披露目会に参加した。
待ち合わせ場所の新江ノ島水族館で待っていると、自動運転バスが近づいてきた。自然にスピードを落としながら、スムーズに歩道に幅寄せしてバス停に停車する。
ピタリと停車した自動運転バス
するとバスの中から、黒岩祐治(くろいわ・ゆうじ)神奈川県知事、宮地正志(みやじ・ただし)藤沢副市長、江ノ島電鉄株式会社楢井進(たるい・すすむ)取締役社長、SBドライブ株式会社佐治友基(さじ・ゆうき)代表取締役社長兼CEOが姿を現した。このプロジェクトの首脳陣だ。
左から、佐治氏、黒岩氏、宮治氏、楢井氏
黒岩知事は試乗した感想として「この一年間でとても進化したことを実感しました。バスの本体だけでなく、信号など外部のインフラが連携してサポートするようになり、より安全性が高まった実感があります。来年の東京五輪時には、自動運転の完成形を実現させてほしいですね」と期待を語った。
黒岩知事の会見終了後、期待に胸を膨らませ筆者もバスに乗車する。車内は、いたって普通と思いきや、運転席の周りには様々なモニターが設置されていた。
運転席の背の部分に2つ、左上に1つモニターがある
運転席後ろにある上のモニターには、行き先が表示され、その下のモニターは画像が4分割されている。右上が進行方向のカメラ画像、左上が左右両側面と背後のカメラ映像、左下が前述の信号協調で目の前の信号を表示し、同時にあと何秒で信号が切り替わるかが表示されている。右下には運行コースが案内されていた。
上写真の運転席後ろの下モニター画像を拡大したもの
そして運転席左上のモニターには、車内の乗客が写し出されている。実は車内の乗客全員をセンサーが管理していて、不自然に動いたりするとセンサーが反応し、アラート音とともにグリーンのマーカーがモニター内のその乗客に表示される。乗客が転んだり、倒れたりという車内トラブルを一瞬で把握するためだ。この映像とアラートは、管理事務所のパソコンと連動し、管理スタッフによる遠隔監視が行われている。管理スタッフの音声はダイレクトに車内へ伝わり、乗客への声かけも行えるのだ。例えば、異常に咳き込んだ乗客がいれば、管理スタッフから体調を確認するなど会話ができるというわけだ。無人運転であっても、人の目で安全が守られているということになる。
運転席横にも運転手用の信号協調のモニターを設置
そうこうしているうちに、驚くほどスムーズにバスは走り出した。運転席に運転手は乗っているものの、ハンドルから手を離した状態で走行している。さすが、自動運転だ。
ハンドルから手を離したまま、バスは動き出す
しかし次の瞬間、イメージが変わった。駐車場をスタートして、一般道に出ようとすると、これがなかなか不器用。ちょこっとフロントを前に出してはストップ、出してはストップと、ガッタンガッタンしてしまい、例えれば、免許取り立ての新人ドライバーのよう。しかし安全第一なのだから、思い切りよく公道に侵入されるよりは、はるかに安心だ。
公道を走り出して、しばらくすると、突然、アクセルを離したような減速をした。周りを見ても信号もバス停もない直線でだ。すると、バスの横を勢いよく追い越す車が現れた。そのスピードに、対象物の距離を感知するセンサーとAIが異常を感じて減速したようだ。車が通り過ぎると、またスムーズにスピードを上げ走行した。一見すると、人の感覚では、危険とは認識しない状況だが、あおり運転のトラブルが叫ばれる昨今、こういった危険も事前に把握できることは優れた技術といえるだろう。
次に「江の島入口」の交差点に近づく。ここは交通量の多い交差点で、この交差点を右折するのは最大の難所だ。対向車が直進してくるかどうかを車内、車外のセンサーを総動員して判断。ただ、ここでも安全第一で運転するため、右折の思い切りが、ちょっと悪いと感じた。人の命を預かっているので当然のことだろう。しかし、ハンドルを切った後は、スムーズに進行した。
じっくり、そして判断が決まるとスムーズに右折
右折後は、江の島大橋を渡って、江の島に入る。すると、次の難関が現れる。信号機のない横断歩道だ。ここは歩行者が横断し、途切れる間がないこともある。横断歩道手前で停車すると、横から追い越そうとするバイクや自転車が駆け抜けていく。そのため、なかなか進むことができない。この状況は、現時点では、まだ自動運転に任せることは難しいようで、人間の判断に委ねる比重が大きいそうだ。自動運転バスが実装される際は、危険なリスクを減らすため、この場所に信号が設置される可能性もあるかもしれない。
信号のない横断歩道は人間の判断が必要
そして、到着地点のバス停に近づくと、バスはゆるやかに減速し停車。停車後は、車椅子利用者が乗車していることを想定し、乗車スタッフにより車椅子を降ろす様子も再現された。欧州産のバスには車椅子利用者やベビーカー利用者が1人で乗降できる装備がついた車両もあるとのことだが、今回の実験車両ではスタッフによる乗降が必要になる。今後、欧州産のバスを採用すれば、完全無人の自動運転も可能になるのだ。
ベビーカーや車椅子利用者は添乗スタッフがサポート
最近の市販車には自動運転機能付きの車があるが、それはあくまでも高速道路専用の機能。それに比べ、公道で自動運転することが、いかにハードルが高いことなのかを実感する体験だった。しかし、機械が自動運転するのを人間が調整サポートする段階に来ているのは事実。この技術の進化は大きく、実用までの時間はあまりかからないだろうとも感じられた。
公道での自動運転が実現すれば、今後、バスドライバー不足の解消、交通事故の削減、高齢者など移動弱者の低減、輸送効率向上、過疎化地域のインフラ整備など、様々な問題を解決する鍵となることが期待できるだろう。
ドライブ中に、こんなバスの後ろ姿を見ることになる日も近い
なお、江の島での自動運転バスの運行は、あくまで実証実験のみの話で、実際に江の島で導入されるかどうかは白紙となっている。
そこで「さがみロボット産業特区」を担当している神奈川県産業労働局産業部産業振興課に具体的な導入計画について尋ねると、「具体的な導入の話が出てきたら、県として必要な支援の有無について検討していきます」との答えが返ってきた。黒岩知事の「東京五輪時には、自動運転の完成形を実現させてほしい」というコメントもあり、どうやら県としては江の島に自動運転バスを導入することには好意的なように感じる。
さらにバスを運営する小田急電鉄も今回の実証実験の企画書に「次世代モビリティを“レガシー”として江の島の魅力につなげる」と書かれた一節まである。
このことから、今後江の島に、自動運転バスが導入される可能性はあるのではないだろうか。
取材を終えて
バスが自動運転されるなんて、SF映画やアニメの世界のことだと思っていたが、もしかすると2020年に、この神奈川県の江の島で運用されるかもしれないと思うと、リアルな未来を感じさせてくれる。それが東京オリンピックと連動して世界にお披露目されるなら、本当に喜ばしいことだ。それと同時に、最近では神奈川県内でもバスの運転手不足で、やむなく閉鎖されたバス路線もあると聞く。バスの自動運転が確立されれば、そういった人手不足問題も解決されるのだろう。夢という点でも、社会問題解決という点でも、待ち遠しい技術開発だ。
さて次回後編では、江の島の参道ともいうべき江の島大橋の車線拡張プロジェクト、江の島のバリアフリープロジェクトについて担当者にお話を伺った。江の島大橋は車線拡張工事なのに担当部署が道路部でなかったり、バリアフリー化はオリンピック以外の大きな理由があったりと意外な発見もあり、それらも合わせて新たな江の島の取り組みをお伝えする。
歴史の薫る江の島が先端の技術で進化する
江の島の交通手段の後編はこちら
-終わり-
取材協力
神奈川県産業労働局産業部産業振興課
電話/045-210-5630
http://www.pref.kanagawa.jp/docs/sr4/prs/r0779976.html
※情報は取材当時のものです
マッサンさん
2019年12月20日 12時26分
公共機関が自動化運転になることはより一層のバリアフリー化が進むという気がします。実証実験によって改善、改良され、より安全性への道筋がなされるのでしょうか。話しは変わりますが、"江の島エスカー"と聞くとワクワクします。初めて来島の方は何だろう?と先づ思うでしょうね。。。