横浜の西側に生まれた三兄弟

最後は港南区、といきたいところだが、その前に。

ここまで紹介した3区は、先述の通り隣り合った3区だ。
そのためなのか、それぞれの区に送られてきた区名候補には同じものが数多く見受けられる。
　

3区が隣り合っている。緑区の区域は誕生田当時のもの

例えば、旭区で2位になった“港西区”。
これは、緑区で9位（10通）、瀬谷区で5位（16通）を獲得している。
読んで字のごとく、横浜港、あるいは横浜市の西側に位置していることから考えられた候補名なのだろう。

ほかにも、“相模区”と“富士見区”が旭区と瀬谷区の候補に入っている。
富士見区は富士山が見えるからということだろうが、キニナルのは相模区。
これ、歴史に詳しい人なら不思議に思うのではないだろうか。かつての鎌倉郡だった瀬谷区は相模国だったが、旭区は都筑郡で武蔵国だったからだ。
今となってはその理由は分からないのだが、なんとも謎めいている。
　

緑区、旭区、瀬谷区の応募トップ10。同じ候補名がチラホラ

理由が推測しにくい名前でいうと、緑区と瀬谷区に“昭和区”というのもある。
そのほか、ひとつの区で採用された“緑”が旭区の候補にも入っていたというのも興味深いところだ。

区ができる前から親しまれた名前

さて、改めて最後のひとつ、港南区について。
港南区は南区から分割されてつくられた区。南区は中区から分区されたので、港南区は中区の孫に当たると言えるかもしれない。

ほかの3区とは離れていて、市の真ん中やや南寄りといった場所にある。
上大岡と港南台の二つの大きな街を中心に、住宅街の多い区だ。
　

港南台にある団地。ここだけでなく、数多くの団地がある

区内を日野川と笹下川、そのふたつが合流した先は大岡川、さらに平戸永谷川と多くの川が流れ、区民に大切にされている。
毎年5月には区民たちによる清掃活動が行われているそうで、何百人という規模で参加者が集まるそうだ。
　

大岡川。写真は上大岡駅近くのもの

港南区の名前は、区名の応募とその結果がスムーズに運んだケースだ。
271通の応募のうち、110通が“港南区”に集まり、2位の“大岡区”に100通近い差を付けての圧勝だった。

実は、南区時代の1950（昭和25）年に区役所の出張所として港南出張所が作られ、1964（昭和39）年から港南支所と名前を変えて、長い間区民に利用されてきた背景がある。
つまり、港南区ができる前から“港南”という名前が区民に浸透していたのだ。
　

お話を聞いた港南区区政推進課の雨堤（あまづつみ）さん（左）と安井さん

となると、キニナルのはなぜ出張所の名前がそもそも“港南”だったのかというところ。
結論から言ってしまうと、記録が残っておらず分からないのだそうだ。
横浜港の南と言えば南側にはあるが、その線で考えると磯子区や金沢区の方が“港南”の位置にある。

前回の港北区のように、横浜全体を港ととらえてその南か、と考えても栄区（当時は戸塚区の一部）の方が南にある。なんとも不思議なネーミングと言えるだろう。
　

港南区には、県の戦没者慰霊堂もある

ほかの候補としては、“大岡区”や“日野区”、“久良岐区”といった古くからの地名を入れたものや、“湘南”という変わり種までいろいろとあったようだ。

取材を終えて

今回紹介した4区はすべて一般公募で区名が決定されていた。
そのため、「一番多かったのが選ばれたんでしょ？　そんなの記事になるの？」と思っていたが、ふたを開けてみると実はそうじゃなかった。

1位じゃないものが選ばれたり、熾烈な集団応募合戦があったり、別の区で同じ候補が入っていたりと調べてみると意外な発見があったのだ。

最終回となる次回にお届けする泉区、栄区、青葉区、都筑区の4区も一般公募で名前の決まった区。こちらでもきっと発見があるはずだ。引き続き、お楽しみに！


―終わり―