「ちょんの間」の過去からアートで再生を目指す「黄金町バザール」をレポート!
ココがキニナル!
2008年開催の黄金町バザールですが、最近はあまり話題にも上らない気がする。10年以上続くなら理由や価値があると思う。近況やこれまでの歴史、黄金町の黒歴史も含めレポートして(キッスイノハマッコさん)
はまれぽ調査結果!
初回に10万人訪れた黄金町バザールは、その後来場者規模は縮小しつつも一定の数を維持し、イベントとして定着。また年間を通して地域と取り組むまちづくり活動も、年々多様化・拡散し継続されている
ライター:結城靖博
かつて違法風俗店が蔓延していた街の、アートを通した再生を目指すイベント「黄金町バザール」は、今年2019(令和元)年で12回目を迎えた。
9月20日~11月4日の期間、いつものように京急線日ノ出町駅~黄金町駅間の高架下とその周辺のスタジオや地域で開催中だ。
会場マップ(主催者頒布資料より)
オープニングの9月20日、プレスツアーが催された。まずはその報告から。
今年の黄金町バザールのコンセプトは?
ツアーに先立ち、黄金町バザールディレクター・山野真悟(やまの・しんご)氏から今回の内容について説明があった。
第1回からディレクターを務める山野氏
常にアートと社会の関係を視野に入れ展開してきた黄金町バザールの今年のテーマは「ニュー・メナジェリー」。「メナジェリー」とは、近世ヨーロッパ人が新大陸や新航海ルートの「発見」で初めて出会った動植物を集めた飼育舎のこと(動物園のルーツ)。そこから転訛した「ニュー・メナジェリー」とは、「新しいマネジメントのあり方」なのだそうだ。
異文化を背負うアーティストたち、地域住民、来場者も含むバザールに関わるすべての人たちが「より善いものを選択すること」を目指して、相互のコミュニティを通してアートと社会の関係の再構築を試みること。バザールに通底し続けてきたそのテーマを、今回は一層意識的に捉え、表現するという。
配布資料やホームページも参考にしつつ、思い切り要約したコンセプトは以上の通り。
その後、今回のキュレーター・内海潤也(うつみ・じゅんや)さんと三宅敦大(みやけ・あつひろ)さんに同行して、いよいよ作品解説のツアーへ向かった。
左が内海さん、中央が三宅さん
いざ黄金町バザール2019の展示会場巡りへ!
今年の黄金町バザールにはインドネシア・インド・タイ・台湾・中国・オーストラリア・アメリカ・日本と、8ヶ国15組のアーティストが集う。例年通りアジアからの参加者が目立つ。その多くが主催団体「黄金町エリアマネジメントセンター」の「アーティスト・イン・レジデンス(AIR)」に参加し、この街に長期滞在し制作した作品を、各所で展示している。
キュレーターのお二人は日が暮れるまで付き合ってくれたが、そのすべてに触れるスペース的余裕はないので、展示会場の多様さを伝えることを主眼に作品の一部を紹介しよう。
黄色い旗に先導されて歩くさまは、まさに「ツアー」
京急高架下のかいだん広場には円環(えんかん)のしめ縄が
作者はタイのアヌラック・タンニャパリット。高架下の激しい電車音からインスピレーションを得た近代化と土着信仰の関係性を問う作品だ。
高架下スタジオ内のアカサ・ブックストア(インドネシア)の展示
一見ふつうのカフェのようだが、アジアの本やお茶を通して、ローカルな文化交流が生み出す親密な公共圏の在り方を提示している。
高架脇の建物にも、今年も多くの展示会場がある
たとえばこの建物の中を覗くと、こんな様子だ。
エレナ・ノックス(オーストラリア)の会場
奥の部屋や2階には、さらに作品が溢れる。自己完結型水槽で繁殖不能になったエビをモチーフに持続可能な社会を問うワークショップで生まれた、35名・42作品が展示されている。
この展示も高架脇の別の建物の中の作品
作者は中国の曹澍(ツァオ・シュウ)。日本人の自然観とプログラミングに生じる予期せぬバグとの関係をユーモラスに表現しているという。
高架近くのアパートも会場の一つ
ここ「山本アパート」には日本の常木理早(つねぎ・りさ)と要田伸雄(ようだ・のぶお)のユニット作品を展示。
入り口から見るとこうだが、奥へ進むと・・・
迷路のようになった建物の所々に作品が点在
「中に入ると出て来られないかも」とキュレーターの内海さんがほくそ笑んだ。
高架下にはこんな人口庭園も出現
ニワニワパラダイス(日本)の作品。大阪・新世界出身の彼らは「地元に近い空気を感じるこの場所に、憩いの広場をつくりたい」そうだ。
大岡川に展示されている作品もある
日本の天草ミオ(あまくさ・みお)のこの作品は、AIRに滞在し黄金町で生活する中で想起した「川に少女が流れているイメージ」をもとに描いたという。
高架下とその周辺にはまだまだたくさんの作品があるが、メイン会場から少し離れた最後に訪れた場所を紹介して締めることにしよう。
そこは日ノ出町駅の裏手にあるアパート
東ヶ丘(あずまがおか)アパートと呼ばれるそこは、1990(平成2)年から使用されていない建物で、今回の会期中だけ借りているという。
複数の棟があり、そこに国内外6人のアーティストが作品を展示している。
そのうちの一つがこの作品
日本の山本貴美子(やまもと・きみこ)による陶土の立体。繊細な小品の一つ一つが押し入れの中でひっそり息をしているようだ。
アパートは電気も通じず、隣家の電源を借りているという。こうした会場づくりを通して生まれた地域とのつながりについて、その苦労も含めて若いキュレーターの二人がしみじみと語っていたのが印象的だった。
もう一つ印象的だったのがこの光景
ツアー終了時に撮った東ヶ丘アパート2階の窓からの景色。建物は日ノ出町駅のすぐ裏手で、手を伸ばせば届きそうな距離に駅舎がある。電車の音も確かに聞こえる。だが、そこは奇妙な静寂感に包まれていた。約30年前から時が止まっている都市の中の空洞のように・・・。
高架下に戻ると、ちょうどレセプションが行われていた。
列席者は主催者側の「黄金町エリアマネジメントセンター」竹内一夫(たけうち・かずお)理事長、「初黄(はつおう)・日ノ出町環境浄化推進協議会」中澤秋子(なかざわ・あきこ)副会長、共催者の横浜市から荒木田百合(あらきだ・ゆり)副市長、そして来賓の県警本部生活安全部長と京急電鉄社長。
それぞれの挨拶ののち、恒例の「コールなでしこ」の合唱とともにオープニング・パーティが始まる。
かいだん広場で催された「コールなでしこ」の合唱
ここまで見届けてから筆者は会場を後にし、夜しか鑑賞できない作品を見に行く。
大岡川沿いにある街のシンボル「日ノ出町湧水」にプロジェクションを当て、日常と異なる姿を浮かび上がらせた作品だ。
それは、にぎやかなオープニング・パーティから離れた場所で、孤高の光を放っていた。
作者はアメリカのレイモンド・ホラチェック
ほかにも会期中は、ワークショップ、ガイドツアーなどアートを体感できるプログラムがいろいろ予定されている。詳しくはホームページで調べてみよう。