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横浜に古くから伝わる昔話を教えて!

ココがキニナル!

小学2年生の息子の国語の教科書で、「自分たちの住む所の昔話を読んでみよう。」という項目があり、神奈川県だと『金太郎』があるのですが、横浜にも昔話ってあるんですか?(ぐうたら主婦さんのキニナル)

はまれぽ調査結果!

「横浜村」に限定すれば『舟のり地蔵』がほぼ唯一の昔話か。明治以降に広げると、横浜には数十話におよぶ昔話がある。

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ライター:松崎 辰彦

横浜にも浦島太郎の物語があった



横浜市PTA連絡協議会発行の『横浜の民話』には横浜各地の昔話47話が収録されており、荻坂昇(はぎさかのぼる)『神奈川の民話(第4集) よこはまの民話』には20話近くの昔話がある。ここから推定すると、総数は不明でも、現在の横浜市全体には数十話に及ぶ昔話があると考えられる。
 


『横浜の民話』(復刻版)(編集発行/横浜市PTA連絡協議会)


横浜村から横浜市となり、“横浜の昔話”も大いに拡大した。市内各地にさまざまな物語が語り伝えられている。
印南さんいわく、「横浜の民話はいろいろ伝わっていますが、多くは生麦の話だったり、根岸の話だったり、神奈川の話だったりします。とくに神奈川に伝わる浦島太郎の話は有名です」とのこと。

日本人なら誰でも知っているであろう浦島太郎の物語。横浜にも、その伝説は残されている。



『浦島太郎』(神奈川区)

遠い昔、相模国三浦を治めていた水の江浦島太夫は、息子の太郎とともに、丹後国与謝郡へ移った。太郎は丹後で毎日のように釣をしていた。
ある日、海で釣り糸を垂らしていた太郎は、手応えを感じて釣り上げたところ、魚ではなく亀がかかっていた。五色の色をつけた不思議な亀であった。
その亀を舟に置いたまま眠った太郎は「もうし、太郎様、太郎様」という声に起こされた。目を覚ますと舟の上に美しい娘が立っていた。
「お前は誰じゃ。海の中に人はいないはず」驚く太郎。
「私はいま太郎様が釣り上げた亀が生まれ変わったものです。私は龍宮の乙姫ですが、太郎様を龍宮城にお連れしたく思います」
「龍宮じゃと? それは珍しいところ。どのようにいくのじゃ」
「私がお連れいたします」
 


神奈川区にある亀の形をした車止め


こうして連れて行かれた龍宮城で、太郎は楽しく遊び暮らしたが、寝る前に必ず霊薬を飲まされた。
そうしているうちに3年が過ぎて、太郎も地上に帰りたくなった。乙姫にそのことをいうと、玉手箱を渡され、決して開けてはならないといわれた。
地上に帰った太郎だが、すでに300年が経過していて、父母も死んだ後だった。あの霊薬は不老長寿の薬だったかと知った太郎は思わず玉手箱を開けてしまい、一筋の煙が出て、年老いてしまった。その後、老いた太郎は、武蔵の国の白幡の峰を訪れ、亡くなったと言われている。
白幡の峰は、現在の横浜の浦島丘であるともいわれている。
 


神奈川区にある市登録文化財に指定されている浦島父子の供養塔

浦島太郎の話は全国にあるが、横浜にも神奈川区に「浦島丘」という地名が存在するように、浦島太郎が海で亀に遭遇し、龍宮城に導かれる話が伝わっている。

笠井さんによると、横浜の昔話は動物が出てくるものが多いという。とくにタヌキはよく現れるようだ。その一例を挙げておこう。


『タヌキ寺』(港南区)

港南区の東樹院という寺の話。木枯らしの吹くある日、真夜中に「こんばんは」という女の声が聴こえた。住職が戸を開けると、美しい娘がいて「夜道に迷い、難渋しております。どうぞ一夜の宿をお願いいたします」と住職に頼んできた。不審に思いつつも、人情家の住職は娘を招き入れ、熱い粥と、布団を出していたわった。翌日、娘は礼を述べてどこかへと去った。
2日後、再び娘がきて「先日のお礼でございます」と茶釜と、柿本人麻呂の像と、「花鳥風月」の四文字を書き残して去った。
数日後、若い娘が犬にかみ殺される事件が起きて、娘の遺体が寺に運び込まれた。むしろを取って見ると、そこにいたのは娘の着物を着たタヌキだった。
 


自然豊かな港南区。こうした環境でタヌキの民話も作られたか


ほかにも緑区には『古屋の漏(も)り』という、老夫婦が何よりも怖いと話す“古屋の漏り”(家の雨漏り)を、オオカミとイノシシが化け物と勘違いする話が伝っている。かつては人と動物の距離が、今よりもはるかに近かったことが想像できる。



飛んでも杭だ……強情な男の話



動物の話のような、あきらかに人間が想像力で作り出したとおぼしき話とは別に、先に挙げた『舟のり地蔵』のような歴史的事実だったのでは、と思わせる話もある。次の『とんでもくい』も、そんな話の一つである。

『とんでもくい』(鶴見区)

鶴見の潮田がまだ一面のアシの原っぱだったころ、二人の男がそこを通りがかった。ここらで飯にしよう、と並んで座った二人は、沖を眺めていたが、そのうち一人がアシの原の中にポツンポツンと黒いものを見つけた。
「あの黒い杭(くい)はなんだろう。ずいぶんおかしな所に杭を打ったな」
「いや、あれはカラスだろう。杭ではないよ」
「カラスだったら動くだろうが、あれはびくっとも動かない。あれはやっぱり杭だよ」
二人は杭だ、カラスだと口論したがラチがあかない。とうとう一人が
「見てろ、そら」
と持っていた握り飯を投げつけた。するとバタバタ舞い上がって、一斉に海の方向に飛んで行った。
「ほら、やっぱりカラスだったろう」
「いや、飛んでも杭だ」
この時以来、この潮田の付近では、強情な人間を指して「とんでもくい」というようになったという。
 


鶴見区潮田にある潮田神社


ほかにも瀬谷区には、「戸口で毎晩不審な音がするので警戒していたら、獣が出現し、銃で撃ったところムジナが倒れていた」という江戸時代末期の昔話がある。こうした話は完全に史実ではなくても、それに近いことがあったのではないだろうか。



人から人に語り継がれる昔話



悟空研究所では、こうした昔話を集めて、子どもたちに提示し、子どもたちがそれを演じるという活動をしている。
「子どもたちはおもしろいといってやっています」と理事長の印南さんはいう。
 


舞台装置も自分たちの手作り(画像提供:悟空研究所)
 

演じるのも自分たち(画像提供:悟空研究所)


「横浜の民話も、元の正しい話を知っていれば、結末など自由に変えていいんだよと子どもたちにはいっています。昔話にくわしいのは大学の先生なんかではなく、地元のおじいちゃんやおばあちゃんです」と笠井さん。
あくまで人から人に語り継がれる昔話。そこにはインターネットもメールも、テレビゲームも入り込めない世界がある。



取材を終えて



かつては囲炉裏端でおじいちゃん、おばあちゃんから訥々(とつとつ)とした口調で聞かされた昔話も、今は活字を通して知る機会の方が多くなった。時代が変わり、生活環境が変わることで、土地に伝わる物語も、その伝承の機会が危うくなっている。

「横浜の昔話」というテーマで取材を進めたが、その行き着くところは郷土愛であり、さまざまな人間への深い愛情、さらには見えない神仏に対する畏敬であることを感じた。子どもたちのみならず大人も、というより大人であるがゆえに、ときに童心にかえって土の香りのする物語に心を遊ばせる必要が、あるとはいえないだろうか。
 


荻坂昇『神奈川の民話(第4集) よこはまの民話』(発行/むさしの児童文化の会)



─終わり─


<取材協力>
 NPO法人悟空研究所
 http://www.goqu.jp/about_us.html

参考文献
 荻坂昇『神奈川の民話集(第4集) よこはまの民話』(発行/むさしの児童文化の会)
 『横浜の民話』(復刻版)(編集発行/横浜市PTA連絡協議会)
 他

※本文中に紹介した昔話は、上記の二書から引用・編集させていただきました。
 

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  • よこはまの民話の本はうちにもありました。(*^.^*)

  • 東樹院『タヌキ寺』のタヌキは確か絵が上手だったという話のような…。

  • 民話よりも都市伝説のほうが多そうだよね~横浜は。

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