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日本で初めてシウマイを販売した伊勢佐木町「博雅亭」。以降100年以上続く伝統の味は?

ココがキニナル!

「博雅」のシウマイは横浜高島屋で売っていたが今はない。今どうなってる?(シャケさん)伊勢佐木町から離れた経緯は?(とびちゃんさん)崎陽軒と博雅「シウマイ」と言ったのはどっちが先?(三ッ沢さん)

はまれぽ調査結果!

2009年横浜タカシマヤを離れ、神奈川区神大寺で製造販売されている「シウマイ」は伊勢佐木町「博雅亭」から続く伝統の味を今日に継承している

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ライター:永田 ミナミ

続・博雅史探訪



さて、再び伊勢佐木町に目を移すと「博雅亭」は3代目の利民(リ・ミン)氏の時代の1980(昭和55)年、ご子息が医師となり後継者がいなかったこともあって、再開発を機に閉店した。
 


ちなみに場所はここ。「博雅亭」はマルイが改築拡大される際に取り壊された
 

マルイも1999(平成11)年に閉店したが、現在の建物の有隣堂側に「博雅亭」はあった

 
しかし、以前イセザキ・モール1.2st商店会理事長加藤さんに見せていただいた、1987(昭和52)年1月3日発行の神奈川新聞の新年挨拶広告に掲載されている地図を見ると 「博雅亭」があった場所の裏手に「新博雅亭」を発見。
 


先ほどの地図とは上下が逆転するが、今もある「テーラープリンス」の隣である

 
『OLD but NEW』にある4代目社長の話には「閉店後も、横浜松坂屋(現:カトレヤプラザ)のショップなどで販売」とあるが「新博雅亭」には触れていない。
  


「新博雅亭」とならんでいた「テーラープリンス」で聞いてみた

 
現在親子でテーラーを切り盛りしている川股さんがイセザキ・モールの本店で働きはじめたのは12~13年前だが、そのときはもう「新博雅亭」はなかったという。

ならば新年の挨拶広告をたどればわかるのではと、1986(昭和61)年と1988(昭和63)~1994(平成6)年の元旦~1月5日前後までの神奈川新聞紙面をマイクロフィルムで探してみたが、同様の広告は掲載されていなかった。

そこで図書館から帰る途中、「苅部書店」で聞いてみると「新博雅亭」の存在は覚えているものの記憶は薄いとのことだった。
 


しかし「あのあとこんなのが見つかったよ」と見せてくださったこの1枚の写真(苅部書店提供)
  

これは『神奈川県古書籍商今昔譚』の写真であり「1952(昭和27)年5月3日野毛・博雅亭にて」とあることから「博雅茶郷」で撮影されたものだとわかる。苅部さんによると、店の間口はこの写真にうつっている幅とほぼ同じだったそうだ。

ありし日の「博雅茶郷」の店内の様子を見ることができるとは、立ち寄って本当によかった。さらに伊勢佐木町で長く営業している煙草店「三好野」で聞いてみてはと教えていただき伊勢佐木町へ向かった。

すると「新博雅亭は博雅亭とは関係ない」という意外な話。おそらく直接は関係ない人が開いた店で、そのため行ったこともないしいつ閉店しかも覚えていないという。そういうことなら「新博雅亭」の追跡は終了である。
 
というわけで山下町から伊勢佐木町へと続いた「博雅亭」は、1980(昭和55)年に閉店後、松坂屋で販売していたが2008(平成20)年に販売終了。野毛の「博雅茶郷」から横浜タカシマヤで「ヨコハマ博雅」として販売するようになった流れは、経営者が変わったことを機に「博雅亭」の翌年の2009(平成21)年、退店したということになる。
  


しかし「博雅」は消えたわけではなかった

 
横浜タカシマヤ退店後「博雅茶郷」時代からの生え抜きの職人が工場長となり、2000(平成12)年に保土ケ谷からより高島屋に近いということで移転していた現在の場所で、製造販売とさまざまな場所での弁当のワゴン販売を開始したのである。
 
またそれを機に、機械による大量生産から、創業当初の「手作り」と伝統の「手包み」に戻した。 さらに創業当時には添加物や化学調味料はまだなかったことから「無添加」「純国産」にこだわって製造することとしたのである。そして前工場長から経営を引き継いだポンさんは、2011(平成23)年、現在の株式会社「博雅」を設立した。
 


「また会えた嬉しさ」とは本当の「博雅のシウマイ」に会える嬉しさなのである

 


そして2015年の「博雅」へ



「博雅のシウマイ」の特徴は、なんと言っても皮のなかに詰まった餡の歯ごたえある食感である。ポンさんはその食感は、すべてを細かく刻み練ることができてしまう機械がなかった時代の、手作業による独特の「粗さ」によって最もよく引き出されることに気がついたという。

また、育児を通して無添加食材に関心を持っていたポンさんは、味付けも、創業時の塩と胡椒と酒、無添加の出汁というシンプルなものこそ、無添加以外の何ものでもなく、素材にこだわり手間をかければ素材の旨味を最大限に引き出すことができることもわかった。
 
豚肉は臭みがなくほのかな甘みが魅力の「和豚もちぶた」を使用している。臭みが出ないよう冷凍肉はいっさい使わない。そう、明治時代には冷凍庫なんていう機械も存在しなかったのだ。
 


そして熟練の手さばきできれいに包みあげられたシウマイは
 

きれいに包装されて店頭へ

 
話を聞いているだけでお腹はぐうぐう鳴り、唾液の分泌量は増える一方だったが、歴史や製造法を興味深く聞いていると、一瞬姿を消していたポンさんが戻ってきてにっこり笑い「はい。これ食べてみて」と白い皿を差し出してくれた。神様はいると思った。
 


おお、この香ばしい焼き目は
 

店頭で紹介されていてとてもキニナっていた、あの「焼きシウマイ」ですね
 

しかも上でチーズがとろけているものもあるではないか
 

ひょいぱくと口に飛び込んでくる機械があればいいが、ここは丁寧に手作業で口に運ぶ

 
シウマイの薄い皮に包まれた肉感溢れる餡と歯が出逢ったときのこの弾力は、まるで豚肉と歯がぐっと握手を交わしているかのよう。そのあと餡は歯を受け入れ、それと同時に肉の旨味が口いっぱいに広がるのだった。
 


と思ったら言いたかったことはすべて店内に書かれていた

 
手間暇をかければ塩と胡椒だけでこんなに深い味が出るのか。たしかに科学の力に頼った味は舌よりも先に脳が美味しいと感じているなあと感動していると、そこへ新しい皿が舞い降りた。
 


純白のパンにはさまれた4個の焼きシウマイとレタスというシウマイドッグ
 

このベーキングパウダーを使っていないパンはポンさんが工夫して考案したパンである
 

「もっちり」とはこの食感を表現するためにあった言葉だったのかと思うほど

 
中華まんの生地で作るパオのようでいて、それをさらにしっとり、ふっくら、もっちもちにした美味しいパンだった。

そして、「博雅亭」からさまざまな変遷を経て現在に至る歴史と原点に戻ったシウマイの味を知り、頭もお腹もすっかり満たされて帰途についた。
 


「本当に本当に美味しかったです。ありがとうございました」

 


お土産に酔いしれる



上の写真を見ると、左手にポンさんからいただいたお土産(ひとくちシウマイ/10個入り820円・税込み、海鮮シウマイ/6個入り1000円)がしっかり握られていることが分かる。
 


家に帰ってすぐに袋を開けてみるとこんな感じ。海鮮シウマイの何と大きいことよ

 
「海鮮シウマイ」は伊勢佐木町の「博雅亭」時代にあった商品を復刻したという、ホタテの貝柱が風味の決め手の歴史的メニューである。
 


1日目は温めてビールと白米とともに
 

2日目はポンさんお勧めのわさびとスパークリングワインと白米とともに

 
初日はわさびを買って帰るのを忘れ、我慢できずに食べてしまい、2日目は見よう見まねで「焼きシウマイ」もつくってみた。ちなみに2日とも醤油は使わなかった。「ちょっとつけてもいいですよ」とポンさんは言っていたが、シウマイだけで充分に美味しいし、わさびの刺激は味に絶妙な変化をもたらした。

海老の弾むような食感が肉の食感と混ざり合うと口のなかに風味がふわっと広がる海鮮シウマイの美味しさと食べごたえに興奮しながら、2日とも本当に美味しくて家で1人「おお」とか「わあ」とか言いながらみるみる食べてしまった。

ちなみに2日目はスパークリングワインとともに食しているのは、博雅のパンフレットに「シャンパンとシウマイ」写真が載っていたからであり、予算の都合上シャンパンには手が届かなかったからである。
 


パンフレットを見るとシウマイ以外にも挽肉を生かしたハンバーグなどいろいろある

 


取材を終える前に



博雅亭も崎陽軒もなぜ「シュウマイ」ではなく「シウマイ」と表記するのか、そしてそれはどちらが先なのかについてだが、単純に創業年で言えば崎陽軒の1908(明治41)年よりも博雅亭の1881(明治14)年のほうが早い。ただし博雅亭は中華料理店として創業したのち、「焼売」の販売を開始するのは1899(明治32)年。それでも数字的には博雅亭のほうが早いことになる。

ただ、これは「どちらが先でもう一方がその影響を受けた」という問題ではないのではないかと思われる。

「シュウマイ」あるいは「シューマイ」という表記に見られる「ュ」は「捨て仮名」と呼ばれるが、拗音(ようおん)において「シュウ」という音に「シュウ」という捨て仮名が使用されるようになったのは、正式には1946(昭和21)年11月16日の内閣訓令第8号・内閣告示第33号の「現代かなづかい」においてである。
 


旧仮名遣いで「しう、しふ」と表記した「シュウ」という発音は「しゅう」へ *クリックして拡大
 

ならば明治創業の両者にとって「シウマイ」と表記するのは当然だったのではないか

 
1914(大正3)年に発表された夏目漱石著『こゝろ』を見ても、そもそもまず『こゝろ』であるし
 
「戀(こひ)をしたくはありませんか」
 私は答へなかつた。
「したくない事はないでせう」
「えゝ」


の時代である。

さらに、そういえば香港人の母を持つ友人が広東語を話すことを思い出し、 たずねてみたところ「焼売」の発音は片仮名で表記するなら「スィウマーイ」が最も近いという話だった。そうすると博雅亭の創業者は広東省出身であるから、発音に近い「シウマイ」としたのが、日本語として普及するなかで拗音として変化していったとも考えられる。

そう考えるとどっちが先だったかではなく、当時は「シウマイ」と書くのがふつうだったのではないか。



取材を終えて



さて、言葉の話はこのへんにしておいて、博雅のシウマイである。

山下町の外国人居留地で開業し伊勢佐木町に移った「博雅亭」。そして「博雅亭」から分岐して野毛に生まれた「博雅茶郷」。「博雅茶郷」は横浜タカシマヤ開店と同時に「ヨコハマ博雅」の名前で出店し、「博雅茶郷」を閉じたあとも50年間販売を続けていたが、タカシマヤの「ヨコハマ博雅」の店ももうない。

というわけで伊勢佐木町にも野毛にも横浜駅西口にも「博雅のシウマイ」を売る店はなくなってしまったが、その伝統を受け継いだ「博雅のシウマイ」が、横浜市営地下鉄片倉町駅から徒歩15分ほどの神奈川区神大寺2丁目にある。

現在の場所で2011(平成23)年に開業してから、今日までに販売量が3倍になるほど着実に人気を集めているそのシウマイは、機械や化学の力のない創業当初の手法と味付けによって、さらに創業当時の海鮮シウマイも復活して、ひとつひとつ手作りで包まれ蒸されて店頭にならんでいる。
 


右側いちばん手前の看板に「RESTAURANT & BEER HALL 博雅亭」とある(Yokohama postcard club提供,クリックして拡大

 
116年前と大きく違うところといえばその時間だけのノウハウの蓄積と、ウェブショップで全国どこからでも買えるようになった情報と保存における技術革新くらいではないだろうか。もちろん蓄積したノウハウをもとにさらに美味しいシウマイをつくり出すための工夫や研究も続けている。

とまれかくまれ、目で見たり話で聞いたりして触れる歴史はよくあるが、ここ「博雅」は舌で歴史に触れることができる稀有な店のひとつである。
 


とても美味しうございました。それでは皆さま、ご機嫌うるわしう

 

―終わり―
 

参考文献
『OLD but NEW ~イセザキの未来につなぐ散歩道0』伊勢佐木町1・2丁目地区商店街振興組合「イセザキ歴史書をつくる会」編著/神奈川新聞/2009

博雅のシウマイ
住所/横浜市神奈川区神大寺2-36-6
電話/045-488-3351
営業時間/11:00~17:00
定休日/土日祝
URL/http://www.hakuga.com/
 

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  • >ご子息が医師となり …… 羽衣町2丁目で『鮑(ホウ)耳鼻咽喉科』を開業しており、60年ほど前に通院していました。

  • 神大寺でシュウマイというと、コープを挟んで六角橋側に「横浜シュウマイ本舗」の工場があった。火事で焼けてどこかへいってしまったけど、安いわりにはおいしかったなあちなみに博雅ができたところは、昔お肉屋さんがあったところだったと思うけど、地縁というものあるものだなあ

  • このお店、平日の2時頃行くとお弁当が220円で売っているんだよなぁ。安くて良いから、夕飯にしてる。

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