なぜブタさんが?横浜・鴨志田中央のガソリンスタンドの看板ブタ
ココがキニナル!
鴨志田中央の交差点にあるスタンドで、なんと豚ちゃんが飼われています♪^^;何故なんでしょう?(たろーさんのキニナル)
はまれぽ調査結果!
ガソリンスタンドのブタさんは、ご高齢ながらまだ元気な町の人気者だった。そして、看板ブタが飼われている背景には、今の時代にガソリンスタンドが抱えるむずかしい課題が広がっていた
ライター:結城靖博
どうしてここにブタさんが?
金子さんに、ガソリンスタンドでブタを飼うようになった経緯や、ブタさんにまつわるエピソードなどを伺う。
金子さんも大柄で貫禄十分
ブタさんの名前は「マサル」君。御年14歳。ミニブタの寿命は10~15年なので、かなりの高齢だ。しかし今見てきた通り、まだまだ元気。
ガソリンスタンドの店内でさまざまな熱帯魚や爬虫類を飼い、カブトムシの幼虫を育てる生きもの大好きな金子さんだが、マサル君は、奥様の希望で、わざわざ静岡の農場まで足を運び買い求めたそうだ。
そのころはまだ生後2ヶ月、もちろん文字通り小さなミニブタだった。
ところが、自宅マンションでペットとして飼い始めたマサル君、性格がかなりやんちゃで、石膏ボードの壁はかじりまくるわ、引き出しのものは引っ張り出すわ・・・家中が大混乱。ほとほと手を焼かされた結果、3、4ヶ月後、マサル君の住まいはガソリンスタンドに移ることとなった。つまり、最初から店の「看板ブタ」として飼おうという意図があったわけではなかったのだ。
ガソリンスタンドに転居したマサル君は、よほど環境が向いていたのか、やがてみるみるうちに巨大化し、その存在がしだいに近隣に知れ渡ることとなる(ちなみに現在80kg以上とか)。さらにマスコミの取材も頻繁になり、いつしか青葉区・緑区・町田市とかなりの広域なエリアの人気者となっていった。
今では、マサル君に会うために、わざわざ店を訪れる人もいるそうで、そんな人たちに、マサル君とゆっくり交流してもらうべく、小屋の前にはガソリンスタンドとはおよそ関係がない「椅子」まで置かれている。
小屋の前に並べられた椅子
そんな人気者のマサル君は、どんなキャラクターなのだろう。
金子氏曰く、「遊び好きで人懐っこいけど、忠犬ハチ公のように飼い主に忠実ではないね。なんといっても自分にエサをくれる人が絶対だから」。
こんなエピソードも聞かせてくれた。
「常連のお客さんの中に何台も車を持っているお金持ちの人がいて、いつも交差点の向かいのドラッグストアでマサルのためにパンを買ってきてくれるんだ。そうすると、車が違っても必ずその人だとわかって、来る前から起きてその人を出迎えるんだよ。車の音なのか、人のにおいなのか、何かで察知するんだね」
マサル君は、耳も鼻も頭もいいらしい。
さらにマサル君は女性好きでもあるそうだ。
「女性や子どもには優しいんだ。飼い主が小屋の中に入っても威嚇するのに、女性だと怒らないんだから。このあいだは女性の記者さんが取材に来て小屋の中に入ったけど、やっぱり全然平気なの。子どもは、近くの小学生がよく学校で拾ったドングリを持ってきてくれたりするからね」
マサル君はドングリが好物で、「ドングリの食べ過ぎでこんなに太っちゃったのかも」と金子さんは笑う。
ちなみに現在は社員の方々が世話をしている。
「世話と言っても、エサあげてウンチ取るだけだからね。きれい好きで(排泄を)する場所も決まってるし」と金子さん。
「そうは言っても、こんなに大きくなると、飼育していて危険なこともあるのでは」と尋ねると、「甘噛みはするけど、本気では噛まない。でも、威嚇するときは鼻で突いてくる。大きな犬歯もあるからね。イノシシと同じだからすごい力で、世話してる社員の服がビリビリになっちゃったりとか、そんなことはあるよ」
まだまだ元気なマサル君である。
確かにこのでっかい鼻で突かれたら相撲取りでも飛ばされそう
「確かに元気だけど、夏場がちょっと心配で」と金子さんは言う。暑さに弱く、夏はほとんど寝ているそうだ。今年の夏を頑張って乗り切れ!
マサル君が教えてくれた大切なこと
金子さんに
「マサル君との長い付き合いの中で得た一番大きなことは何でしょう?」
そう尋ねると、「マサルがいるおかげで、普通のガソリンスタンドにはない、地域の人たちとの深いつながりが続いている。マサルがみんなに可愛がられ、みんなを笑顔にしている様子を見て、町に愛され町に役立つ生き方の大切さに気付かされたんだ」という答えが返ってきた。
今、世間のガソリンスタンドを取り巻く環境は決して穏やかではない。若者の車離れやセルフ化などで、地域のインフラに欠かせない存在であるはずのガソリンスタンドが、むしろ少しずつ地域との距離を離しつつある。ガソリンスタンドの数も年々減ってきているのが現状だ。
今年で創業49年という、地元に長く根付く金子石油店にしても、置かれた環境は同じ。
それでも、この店では今もセルフ化はせず、若い男性スタッフたちが直接接客している。また給油だけでなく、メンテナンスなど車全体に関わるニーズにも応えている。
さらに最近では、ガソリンスタンドという垣根を越えた取り組みにも挑戦しているそうだ。
そのひとつが、今回お話を伺ったオープンテラスのある飲食店「ウチルカ」。スタンドからすぐそばにある金子さんが経営する店だ。
ここはもともと10年ほど前にハワイアンダイニングとして始めたのだが、近隣の主婦と子どもの利用が多いことから、スタッフを主婦メインにして「ママたちによるママたちのための自治的カフェ」に変え営業しているという。
お店の中にはキッズスペースもある
カウンターの中で働くのはご近所のママたち。メニューにも主婦ならではの工夫が
また、1年ほど前からは「地域おたすけ隊『タスカル』」を立ち上げ、「まちのなんでもお助け隊」の活動も始めた。隊員は全員スタンドの男性スタッフたちだ。
その隊長、金子石油店の若きマネージャー・西村俊二(にしむら・しゅんじ)さんに店内で話を伺った。
さわやかな笑顔の西村さん。その背後、右側に大きな熱帯魚の水槽がある
現在の主な活動は、依頼を受けた庭木の剪定(せんてい)やお宅の屋内外の修繕、大きな家具や重いものの移動、ハチなど害虫駆除といったところ。もちろん、ボランティアではないから作業代はかかるが、かなり低価格設定のようだ。
高齢化が進む今、お年寄りからの依頼が多いかと思ったら、意外とそうでもなく、さまざまな世代、客層から声がかかるという。
人懐っこい笑顔で西村さんは語る。
「世の中、いろんな人がいるんだなと、勉強になります」
そして、「とにかく、やっていて楽しいんですよ。一から始めて大変なことも多いけど、刺激があるし、なによりお客さんに喜んでもらえるのが嬉しくて」と続けた。
今までで特に印象に残っている仕事について尋ねると、「足の不自由なお婆さんの家の物干し竿が大風で台ごと倒れてしまったとき、二度と倒れないように土台から工夫して独自の物干し竿掛けを作ったことですかね」と話してくれた。
「絶対倒れない物干し竿掛け」に挑むスタッフ
西村さんの話から、地域に愛され役立つことの大切さというマサル君の教えが、若いスタッフたちにもしっかり伝わっていることがわかった。
金子石油店での取材を終えた際に、もう一度マサル君に挨拶をしようと小屋に戻る。すると、来たときと同じように、やわらかな春の日差しを浴びて気持ちよさそうに寝ていた。
「おやすみ、マサル君」と声をかけると、一瞬右耳がピクンッと動いた。
丸い後頭部と耳がカワユイ!
お隣りさんに話を聞く
そのあと、すぐ隣りに店を構える作業着・作業用品の専門店「仕事着のごとぎ屋」さんに、周辺取材を試みた。
左が金子石油店、右が「ごとぎ屋」さん
ちょうど代表の髙野将(たかの・まさる)さんがいて、こころよく取材に応じてくれた。
「ごとぎ屋」代表・髙野将さん
髙野さんがここに店を持ったのは3、4年前と比較的最近のこと。けれども、店を開くずっと前から、マサル君の存在は知っていたという。
「学校帰りの子どもたちがマサル君をかまっているにぎやかな声が、しょっちゅう聞こえてきますよ」と髙野さんは言う。
お隣りなので、もちろんよくガソリンを入れに金子石油店を利用するが、髙野さんも給油のほか車のメンテナンスなども任せているそうだ。
「タスカル」は利用したことがないという。でも、「タスカルの作業用によくうちのものを買いに来てくれるので、逆にいいお客さんですよ」と言って笑った。
取材を終えて
たろーさんの疑問、「なぜそこにブタが?」の理由を探っていくと、変化する車社会に直面するガソリンスタンドの状況が見えてきた。車に乗る若者の減少、セルフ店舗形式の増加で客と店員のふれあいが薄まっている状況など。
そんな中、看板ブタの「マサル君」は長きにわたって、ガソリンスタンドと地域住民をつなぐ架け橋の役を担ってきた。
これからも末永く、その任務を続行してくれることを心から願う。
-終わり-
取材協力
有限会社金子石油店
住所:横浜市青葉区鴨志田町564-1
電話:045-962-4121
仕事着のごとぎ屋
住所:横浜市青葉区鴨志田町564-3
電話:045-517-8120