お次は鎌倉の山の看板猫に密着！

　
鎌倉でハイカーに人気の「天園（てんえん）ハイキングコース」。以前ここには「峠の茶屋」と「天園休憩所」の2ヶ所の店があった。しかし「峠の茶屋」は3年前に閉店し、今では「天園休憩所」だけがハイカーにとっての安息の場だ。
そこに、看板猫がいるという噂を聞きつけて、9月初旬に足を運んだ。

天園休憩所はハイキングコースのほぼ中央にある

　

そこは建長寺・瑞泉寺・金沢八景、三方の分岐点近く
　

森の中にひっそりと佇む休憩所

　
果たして人はいるのだろうかと目を凝らすと、いた。奥に人影が。
　

奥へ進むと、この暑いのにおじいさんが焚火をしていた

　
近づいても気がつかない様子なので、とりあえず近くのテーブル席に腰を落ち着ける。ハイキングコース入り口から歩くこと約1時間。足が棒である。

少し落ち着いてから見てみると、いるではないか、看板猫が。
　

おじいさんの背後のベンチに黒白の猫ちゃんがスヤスヤと寝ていた

　
さっそく近づいて何枚か写真を撮るが、おじいさんは一向に焚火から目を離さない。
「さて、いかがしたものか」と思っていると、後ろで元気な女性の声がした。
　

「いらっしゃ～い！」
　

天園休憩所はこの老夫婦二人で営んでいる

　
ご主人の名は小川忠久（おがわ・ただひさ）さん、奥様は洋子（ようこ）さん。
陽気でおしゃべり好きな洋子さんから、看板猫のお話をたくさん伺うことになるのだが、まずは何かいただかなくちゃ。

というわけで、お勧めにしたがい、北海道から直送の大きなトウモロコシ、そして自家製ミョウガの柚子味噌がけ、さらにおでんを注文する。
　

大きくてプリプリの甘～いトウモロコシ（税込300円）
　

新鮮な朝獲れミョウガ（税込300円）
　

そして、このおでんが抜群にうまかった（税込500円）

　
おでんなのに、うどん？　いやいや、これがいいのだ。麺に味がしっかり沁み込み、しかもコシがある。さらに峠を越えて戸塚方面まで買い出しに行くというコンニャクの味が濃くて美味！

おっと、食レポじゃなく猫レポだった。
　

洋子さんは座り込んで代々の看板猫の話をしてくれた

　
実は昔から猫好きのご夫婦はたくさんの猫を飼っていた。一番多いときで7匹いたという。
でも、今はこの黒白猫の空（くう）ちゃん1匹だ。
　

くうちゃんはおじいさんが大好きで、いつもそばにいるそうだ

　
「くうちゃんはここに捨てられていたんです。その日は去年の7月23日。どうしてそんなにはっきり日付を覚えているかというと、ちょうどこの日、急性肺炎で入院していた夫が退院したからです。病院から帰ってきたら、くうちゃんがここにいた。夫は、『天からの授かりものだ』と言ってとても大事にして、だからこんなになついているんでしょうね」

実はくうちゃんは2代目なのだという。その前にやはり空（くう）ちゃんと風（ふう）ちゃんという2匹の看板猫がいて、でも先代のくうちゃんは昨年、ふうちゃんはもっと前に亡くなったという。
　

店の壁には常連のお客さんが撮ってくれた「ふうちゃん」の写真がかけられている

　
くうちゃんの写真は、「まだ死んで日が浅いので思い出すとつらくてかけられない」と洋子さんは言う。
「先代のくうちゃんのことを思い出すと、今でも眠れない」とも。
「抱き上げて『高い高い』をするとすごく喜んで、ほんとに可愛かった」
「でも、2代目のくうちゃんもとても優しくて可愛い。私が泣き真似をすると、心配してニャアニャア言いながら手を伸ばすんですよ」

ただ、そんなくうちゃんは、今日はとにかくひたすら寝ている。と、少しだけ目を開けたところを、とりあえずすかさず写真に撮る。
　

薄っすら目を開けて「眠いの、ワタシ」と訴えるかのよう。メスである
　

でも一度だけくっきりと目を見開いたときがあった
　

くうちゃんの目線の先にはハイカーが連れた犬がいた
　

でも犬が立ち去ると、またスヤスヤと寝てしまった
　

天園休憩所はなんだか『まんが日本昔ばなし』の世界のようだった

　
下界のメインスポットの喧騒とはほど遠い、居心地の良さだ。ここなら、くうちゃんも安心して猫の務めである「寝ること」に励めるだろう。

なお、「天園ハイキングコース」は今年（2019年）9月9日未明に襲った台風15号の影響で、全面的に通行止めとなった。行かれる方は、事前に鎌倉市観光協会などへ必ず確認してほしい。