横浜市の水道水はおいしくなったって本当?
ココがキニナル!
10年ぐらい前までは、自宅の水道水は浄水器を通さないと、においや味が変だった。最近は、浄水器なしでも飲めるようになった。おいしい水道水になった水道局の方の努力をレポしてくだ。(RIPさん)
はまれぽ調査結果!
水道水は10年前と比べ、日々の浄水技術の向上だけではなく塩素濃度を下げる努力など、さまざまな取り組みによって実現されていた!
ライター:すがた もえ子
おいしい水の秘訣とは?
川井浄水場は横浜市に現存する最古の浄水場
川井浄水場正門
100年以上の歴史を持つ川井浄水場の創設は1901(明治34)年だという。
今回ご対応いただいたのは、横浜市水道局浄水部川井浄水場課長補佐運営係長の井田雅之(いだ・まさゆき)さん。
お忙しい中、ありがとうございます
浄水場の内部を見学させていただく前に、昔と今の水道水の違いについてご説明いただいた。
10年前と水源は変わらず、5ヶ所の水源の水を使っている
川井浄水場の水源は道志川であり、そのほかに横浜市では相模湖、馬入(まにゅう)川、酒匂(さかわ)川、宮ケ瀬湖がある。
処理方法については、自然界の山の環境を再現し、微生物と砂を使って水をきれいにする「緩速(かんそく)ろ過」という方法が最も古く、ろ過が終わった最後の部分にだけ消毒のために薬品を使用する。しかしこの方法では時間がかかり人口が多い都市部では対応できないため、20世紀にアメリカで「急速濾過」という方法が生み出された。
砂を使った急速濾過の模型
この方法は、ポリ塩化アルミニウムという薬品を使って汚れ同士をくっつけて大きな塊にして沈める。そして上澄みのきれいな部分を早いスピードで砂の層を通してろ過する。人口が増えた都市部に適した方法で、横浜市の浄水場は2015(平成27)年3月まで3ヶ所ともこの方法で浄水していた。
現在の川井浄水場は、砂ではなくセラミック膜という陶器と同じ焼き物を使ってろ過をしている。
セラミック膜をスライスしたもの
2014(平成26)年の4月から省スペース化の実現と、水源である道志川との高低差による位置エネルギーを有効活用できる膜ろ過方式を採用。セラミック膜の浄水法に変わった。このセラミックに空いている穴は0.1マイクロメートルという極小のもので、物理的に汚れを通さない構造になっている。処理法として大きく変わったのはこの部分だけだという。
それではなぜ水道水が美味しく感じるようになったか?
水道法という法律では、細菌等の繁殖を防ぐために家庭の蛇口から出る段階で、水の中に0.1mg/l(ミリグラムパーリットル)以上の塩素が含まれていなければならないという法律がある。
詳しくお話しいただく
浄水場から各家庭へ水道水として届けられるまでの間で、途中で塩素の濃度が薄くなってしまうため、浄水場から送り出す段階で高い濃度の塩素を加えていたという。そのため浄水場から家庭までの距離によって塩素が濃い薄いの差があった。
人は塩素濃度が0.4mg/l以下になると水道水を美味しく感じると言われている。水道法という国の法律で、0.1mg/l以上でなければいけないので、0.1mg/l〜0.4mg/lの範囲にいかに近づけるかという取組みを水道局ではしてきた。
図に書いて説明いただけた
水道局では2年に1回程度お客様アンケートを取っており、「美味しくない」「カルキ臭い」という意見も多かったという。
現在は浄水場と各家庭の間で、遠隔操作によって塩素を追加して濃度を調整する仕組みを設けており、各家庭で蛇口をひねって出てくる水は0.1mg/lに近い濃度になるようにと調整されている。川井浄水場では0.65mg/lの塩素で送り出し、距離が遠いところは、途中で塩素を追加して濃度を調整している。
また、水道水の味は塩素だけが関係するのではない。
古い水道管を通ってきた水は錆び臭くなる。
年代については記載がない古い水道管。内部は錆ついて真っ赤だ
1988(昭和63)年に埋められた内側が塗装された水道管
どちらも交換のため、掘り出された古い物だ。2つの水道管を比べると、どちらの水道管を通った水が美味しいか一目瞭然だろう。浄水場でできあがった安全で美味しい水道水を家庭に届ける配水管を「地震に強い」という付加価値を付けて神戸の震災以降、年間約110kmも更新してきた。
また、受水槽を通さずに水道水の鮮度を保ったまま給水できる「直結給水化」の取組みも行ってきた。
マンションの屋上などにある受水槽
昔は3階以上には受水槽を作らなければならない決まりだったが、横浜市では2010(平成22)年7月1日から配水管から高置水槽までを直結給水にする方法を導入。現在は10階部分まで直接水を送れるようになった。このためマンションなどにお住まいの方は確実にお水が美味しくなっているだろう、とのことだ。
また川井浄水場の水源、山梨県道志村の水源林の保全も重要な部分だという。
山に囲まれた道志川(画像提供: Cory :Wikimedia Commons)
水道局が山梨県道志村に所有する2873ヘクタールの水源かん養林を約100年にわたって整備するとともに、水源かん養機能(森林が水資源を蓄え、育み、守っている働き)が低下した民有林を市民ボランティアと協同で整備してきた。
綺麗な水質と豊富な水量を守っていくためには絶対に必要な取り組みだと、井田さんは力強く語る。
川井浄水場の施設を見学
一通り横浜市の水道に関して説明をいただくと、次は川井浄水場の施設を見学させていただけることに。
浄水設備のあるエリアには鍵がかけられている
この扉の奥は、ウォーターネクスト横浜株式会社が維持管理を請け負っていて、井田さんたち水道局の方々も鍵を借りて入ることになる。
ウォーターネクスト横浜維持管理部浅野眞也(あさの・まさや)さん
これが川井浄水場の「セラミック膜ろ過設備」
大量の水が処理されているはずなのに、驚くほどに静か。扉が防音なのかと思ったが、中に足を踏み入れてもほとんど無音状態だった。
1日の浄水処理能力は17万2800立方メートル
原水から取り出されたゴミを固めたもの。無臭
24時間運用の中央監視室
水質管理室ではメダカも働いていた
メダカたちは原水に毒物が混ざっていないかをチェックする大事な役目を果たしている。メダカたちの水槽には原水が流れこんでいて、メダカの反応を自動水質監視装置と水質計器で常時監視し、原水に異常がないかを監視している。
メダカだけでなく、人の手でも細かく検査されている
見学に来る子どもたちのために分かりやすい図になっていた
見学コースの最後に出来立ての水が飲める水道が!
さっそく試飲させていただく
味は常温の水道水だけど、できたてのせいか美味しく感じる。
いつも口にする水道水と大きな差はないような気がする。カルキ臭さは特に気にならない。当然ながらほかに嫌なにおいなども全然しなかった。
実は各家庭に届く水道水は「○○水源の水100%」にはなっていないのだという。
これはどこかの水源に何かが起きた時のためのバックアップという意味を持っており、危機管理上必要なことなのだ。水道管の中で常に流しておかなければ、水が腐ってしまっていざというときに使えないからだ。基本は住んでいる場所から近い浄水場の水が多く取り込まれているそうだ。
「でも、基本的に全部同じレベルの水道水を作るのが僕たちの仕事なんで、そんなに差はないですよ」と井田さんは言う。
「見学に来た方ができたてのお水を飲んで“川井のお水おいしい、今度引っ越すときは川井浄水場のエリアにする”なんておっしゃってくださる方もいるんですが、横浜の3つの浄水場のできたてのお水はどれも美味しいんですよ」と井田さん。
浄水場の敷地内ではたくさんのメダカが飼育されていた
「地下鉄サリン事件の時には、この子たちを連れて水道施設のパトロールに行ったそうです」と井田さんは語る。横浜市民の飲み水を守るために、メダカたちも重要な役割をはたしていた。
水道水の厳しい基準とは
日本の水道水は、世界でもトップレベルの安全な飲料水だ。
ミネラルウォーターの水質検査項目は18項目なのに対して、水道水の検査項目数は約100項目という厳しい基準をクリアして、みなさんのご家庭に届けられているのだという。
値段にしても水道水は1リットル何十銭という世界で、ペットボトルと比べると200倍ほどの差がある。
ペットボトルの水は加熱殺菌後、真空状態で水を詰めているので封を開けるまでは無菌状態だが、空気に触れた瞬間から雑菌は増え始めていく。だから「開栓後はなるべく早めにお召し上がりください」と表示されているのだ。
一方、塩素が入っているおかげで水道水は雑菌が万が一入っても殺菌される。ポリタンクに詰めても夏場なら3日、冬場は1週間は平気なのだ! 塩素は雑菌と戦い自分も死んでいくので時間が経つにつれて徐々に少なくなっていく。そう思うとかわいいやつでしょ、と井田さんが言う。安く豊富に国民が使えるようにと努力した結果が、いまの水道水なのだ。
実はすごかった水道水(画像提供:KlausOhl:Wikimedia Commons)
浄水技術が進み、人の感覚も大事にしてチェックされた水道水だが、横浜市民の1日の平均使用量はなんと230リットル。そのほとんどがトイレなどの生活用水として使われていて、飲用されるのはほんの数%にすぎない。しかしその数%のために水道局のみなさんは日々水質管理に力を入れ、美味しく安全な水をみんなに供給し続けているのだ。
水の循環の説明パネル
「横浜市会会議録」1998(平成10)年、決算第二特別委員会の中に『市民から安全でおいしい水の要望がある。本市の水道水は厚生省の水質基準を満たし十分安全であると考えているが、安全のため注入している塩素が敏感な市民のカルキ臭への不満の原因にもなっている。そこでカルキ臭の解消とトリハロメタンの低減化を目的に、塩素注入量の低減化対策を実施。より良質な水道水を供給するための高度浄水処理実験なども行っている』という旨の記載がある。
10年前と比べて水道水が美味しくなった理由は、浄水技術の向上だけではなかった。3つの浄水場と水道局全体が、美味しい水を各家庭に提供しようと塩素濃度を下げる努力や水道管の取り換えなど、さまざまな取り組みによって実現されたものだった。
取材を終えて
なんとなく塩素が入っていると「良くない」という印象だったが、横浜の水道水は国の基準よりも厳格な基準をクリアして安全な飲み水を提供してくれていた。
これからは今まで以上に大切にお水を使わなくては、と心から思った。
―終わりー
tenruさん
2015年10月30日 12時10分
東京から5年前に越してきましたが、横浜の水はまずくて飲めません。カルキというか生臭さを感じます。やっぱり水道管がだめなんでしょうかね??
カニさん
2015年10月14日 07時25分
旭区,保土ケ谷区に住んで40年以上ですが,水道水をそのまま飲んでもまずいということはなかったですね.家でも学校でも,公園でも.「10年前」との比較が明確になってないですね.
きょんのさん
2015年10月13日 23時06分
相模湖、津久井湖のアオコの緑色の水、台風の後の相模川のどちゃ濁りの茶色い泥水を安心安全に処理して当たり前のように供給してくださってる水道局に感謝です。