【横浜の名建築】三溪園 旧東慶寺仏殿と横笛庵
ココがキニナル!
横浜にある数多くの名建築を詳しくレポートするこのシリーズ。第16回は三溪園にある『旧東慶寺仏殿』と『横笛庵』。女性を救い、縁結びのご利益があるとされた建物はどちらも繊細で女性らしい風情を感じさせる。
ライター:吉澤 由美子
悲恋の伝説をまとう横笛庵 (続き)
悲恋の伝承を持つ横笛の像を安置するために作られたこの建物は、1908(明治41)年に創建された。
横笛が住むにふさわしい隠棲の侘び住まいといった風情だ。
天井が低く、軒の深い座敷は、隠れ住む場所としてもイメージを強めている
土間のある草庵で、土間にある小屋組みの船底天井が特徴。
全体に小さく、屋根も低く、田舎風にしつらえながら女性的で繊細な印象を受ける。
土間の船底天井。天井が高く広々としている
屋根は板葺きと茅葺に分けられ、板葺きにはクリの木が使われている。専門家が「あばれやすい」と表現するクリは、反りやゆがみがでやすい性質を持っているので、うねる様に侘び寂びがあると茶人に好まれたもの。
土間の茅葺は、創建当時、上部が芝棟になっていた。
芝棟は、屋根の一番高い部分に土を盛り、そこに花を植えるもの。
クリの杮葺きは微妙に違うゆがみを愛でるためのもの。奥の茅葺屋根の上部が芝棟だった部分
横笛庵では、芝棟にアヤメ科のイチハツが植えられていた。
落飾し寂しい暮らしをしている尼が、春のいっときだけ、美しく華やかだった若いころの面影を見せるといったイメージが投影されている。
芝棟は建物がとても傷みやすくなってしまうため、現在は行われていないが、表に設置された寒霞橋と横笛庵の説明プレートに芝棟にイチハツが植わっている姿のモノクロ写真がある。
座敷から土間を眺めたアングル。ミニチュアのようなかわいらしさがある
風雅な趣と悲恋の伝承から、この草庵はよく句会などに使われている。
腰かけただけでいい句が浮かんできそうな横笛庵の土間。
竹を板状に開いたものが張り巡らされている
取材を終えて
旧東慶寺仏殿と横笛庵。片方の建物は幾多の女性を救い、もう片方は縁結びへの願いを受け止めてきた。
現在はどちらにも像が現存していないが、そういった風情は今も残っている。
もしかしたら来年あたり、恋に効く新しいパワースポットとして注目を集めることになったりして。
そんなことを思いつつ、とりあえずこれを読んだ女性に恋のご利益があるようお願いしてみる。
土間と座敷で構成された横笛庵は、茅葺と杮葺という違いもあり、見る角度によって表情を変える
歴史ある建築物は厳めしいイメージがあるが、調べてみると思いがけないエピソードが残っていて楽しい。
― 終わり―
※一部の写真は特別な許可をいただいて撮影しています
三溪園 公式サイト
http://www.sankeien.or.jp/
紅葉が見ごろを迎える11月26日(土)~12月11日(日)まで、旧東慶寺仏殿と横笛庵が公開されます。
この期間中は、春草廬も公開のほか、聴秋閣近辺の遊歩道も公開!
横笛庵は、茶会や句会、撮影などに借りることができます。詳しくは公式ページを参照してください。
―終わり―