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神奈川の海ではナマコがよく獲れる? 横浜の「マニアック」なナマコ事情を徹底レポート!

ココがキニナル!

神奈川県の海でナマコがよく捕れるそう。年間の漁獲量は? 横浜市内で新鮮なナマコを食べられるお店は? ナマコで有名な青森県横浜町とはどちらが多く捕れる?(華麗なる模型界の貴公子様♪さん)

はまれぽ調査結果!

2013年度の漁獲量は神奈川県の東京湾が約69.5トンで青森県横浜町が約91トン、青森県横浜町の勝ち。新鮮なナマコが食べられるのは本牧漁港内「叶家」

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ライター:楪 ゆう子

「ユズリハさん、ナマコとかお好きですかー?」
はまれぽ編集部・山岸嬢より、またもや意味不明なキニナル取材依頼メール。

・・・電話の次はナマコときたね。
 


誰もが一度は食べたことはある?「ナマコの酢の物」


いいえお好きじゃございません。自慢じゃないが、不肖ユズリハ、ナマコは20年このかた口にしたことはない。ビキニで砂浜を闊歩(かっぽ)していた遥か昔のサマーバケーション。民宿のお膳に据えられたナマコの酢の物を、それと知らずに食べた直後、軒先の発泡スチロール箱に詰まった本体と遭遇してトラウマとなって以来すっかり疎遠になっていたのだが。

40代にさしかかった人生折り返し地点の今こそ、ナマコとの残念な出会いを見直すラストチャンス。個人的なパラダイムチェンジに期待して、さっそく調査を開始した。



What’s NAMAKO?



『ナマコガイドブック』(本川達雄・今岡亨・楚山いさむ 著)によると、ナマコはウニやヒトデと同じ棘皮(きょくひ)動物の仲間で、世界に約1500種、日本で200種と種類が豊富。日本では北海道から九州に至る内湾に生息し、寒い冬から春にかけて出回る食材だ。
 


柴漁港で獲れたナマコたち


砂地にコロンと転がってほとんど動かず、餌が砂なら糞も砂(正確には砂泥に混じった植物片や有機物が栄養源)という生涯を送る彼ら。
 


アオナマコ(提供:神奈川県水産技術センター)


食用となったのは、平安時代中期ごろから。927(延長5)年に発行された『延喜式(えんぎしき)』という文献で食用の記述が認められ、1697(元禄10)年発行、江戸時代の食材辞典「本朝食鑑」でも紹介されている。

現在では茹でて下ごしらえしたものを薄切りにして、コリコリの食感を楽しむ酢の物や和え物でいただくのが日本流の食べ方だが、中国料理では乾燥ナマコを水で戻してプルプルの煮物にするのがほとんど。
 


クロナマコ(提供:神奈川県水産技術センター)


投稿にあったナマコと横浜の関係は、『江戸名所図会』(横浜開港資料館所蔵)に描かれた、江戸時代後期の杉田村(現在、磯子区)での「いりこ(乾燥ナマコ)」生産の様子からうかがえる。横浜開港資料館公式サイトによると、東京湾でナマコ漁が始まったのは戦国時代からであり、以降、現在の横浜市から横須賀市にかけての漁村で大量のナマコが水揚げされ続け、その量は年間10数トンもあったといわれている。ちなみに、当時は乾燥ナマコに適したクロナマコやアオナマコよりも、酢の物などで食するに適したアカナマコが多かったという説もある。
 


『江戸名所図会』(横浜開港資料館所蔵)


その伝統は近代から途絶えていたが、ここ数年で復活。今、神奈川県でナマコがたくさん水揚げされている場所といえば、中華街から車で10分ほどの場所にある「本牧漁港」だ。漁港の詳細は「獲れたての魚が食べられる食堂もある本牧漁港ってどんなところ?」をチェックしてほしい。



横浜でナマコといえば本牧漁港



11月某日、はまれぽ編集部の山岸嬢と共に、本牧でのナマコ漁についてお話を伺うため、横浜市漁業協同組合の副組合長理事本牧支所長を務める鈴木達治(たつじ)さんを訪ねた。
 


横浜市漁業協同組合本牧支所の入り口
 

帰船を待ってイザ事務所へ
 

長年船を操ってきた鈴木さんは筋金入りの「海の男」だ


真っ黒に日焼けした鈴木さんは、15歳で漁をはじめてからこの道60年以上のベテラン漁師だが、本牧漁港でナマコ漁が始まったのはここ5~6年のことだという。

「1963(昭和38)年以前は、ナマコもそこそこ獲ってたの。だけど、それから埋め立てになったじゃない。それで本牧の漁自体が一旦ぜんぶ失くなって、再開したのが1980(昭和55)年。その間20年から30年間はぜんぜん何も獲らなかったでしょ。だからまた始めた当初は魚がいっぱいいたんだけど、1992(平成4)年ぐらいからガクンと漁獲量が減っちゃってね。それでナマコにまで手を出さなきゃならなくなったんだよ」

にわかに注目を浴びた形のナマコだが、背景には中国の景気動向が大きく影響している。国内では生鮮をメインとした小規模市場、しかし中国では乾物が一般的で滋養強壮の漢方薬ともなる高級食材である。中国人の所得が上がったことで、日本産乾燥ナマコの需要が高まり、漁師たちの採算ラインに乗るようになったのだ。
 


ずらりと並んだ底びき船


「昔のナマコは安かったんだよ。1955(昭和30)年前後の日本じゃ1斗樽(18リットル) 一杯200円ぐらいで、獲ってもしょうがなかったけど、今じゃ本牧のナマコは千葉の乾燥加工業者にまんま渡してるから、ほとんどが中国行きだね。中央市場とかに出てるのは、国内向けの国産ナマコで神奈川産じゃないと思うよ」

本牧漁港でのナマコの漁獲量は、2010(平成22)年4月1日から2011(平成23)年3月31日までが51.45トン、2011年4月1日から2012(平成24)年3月31日までが16.37トン、2012年4月1日から2013(平成25)年3月31日までが17.57トンである。

2011年度以降減っているのは、東日本大震災の影響でナマコの値が下がり、資源保全の観点からもあえて漁獲制限を厳しくしていたため。船数は少ないが、乱獲を防ぐために、一隻の船で一日50キロまでの漁を1ヶ月間だけ許可する・・・といった制限付きで漁を行っているのだ。
 


チェーンが連なるケタ網(提供:神奈川県水産技術センター)


ナマコ漁は、江戸時代から行われているケタ網を使った底びき漁で行う。底びき船のクレーンに吊り下げるケタと網の間に、ナマコを海底から引き離して下網の中に導くチェーンがいくつも渡してあり、またこのチェーンが海底の石とナマコを選別して分けてくれるため、獲れたナマコを傷つけずに済む。

漁獲制限から出航時間は朝5時ぐらいと決められており、帰船時間は上限キロ数獲り切りで各船による。早い船は1時間ぐらい、ほとんどが午前中のうちに戻ってくる。本牧を出て、根岸のほうから川崎までと漁場は広いが、あたりをつけるのにこれといったポイントもなく、完全に漁師のカン頼り。天然のナマコレーダーで探すほかないのだという。
 


獲ったナマコは出荷場で梱包されそのまま加工業者へ


ケタ網の許可を持たない柴漁港などでは普通の底びき漁、横須賀のほうでは素潜りの銛(もり)突き漁で獲っている。相手が動かぬナマコでは、獲物を甲板に揚げる瞬間もあまり活況なイメージは湧かないが、乾燥ナマコはいまでは「黒いダイヤ」と呼ばれ、密漁も後を絶たないお宝になり得るのである。



資源管理と増殖が今後の課題



それにしても、漁獲が始まってからは、右肩下がりで資源量が激減とは。
やっぱり、獲ったら減るんですね。

横浜市漁業協同組合本牧支所の置田さんが話の後を継いでくれた。
 


本牧漁港の「ナマコ博士」置田さん


「そりゃ魚ですから・・・回遊魚ならまた違うんですが、地の魚で、しかも動かない生き物なので、獲れば獲っただけなくなります。売る相手は中国なので売れるうちに売りたいという希望もあるけど、制限してるんです。漁の始まりも終了も資源調査次第。2月が解禁と言われているかもしれませんが、ほかの魚が獲れていればナマコはまだ待って、その魚が獲れなくなったらナマコやろうとかそんな調子で決まるので、ここでのシーズンがいつともハッキリ言えない。“春までだと思うんですが”というぐらいです」

もともとナマコは、何十年も商売にならなかった魚。それが、中国の景気動向で一気に需要が伸びて、一気に商売になったという経緯のため、県の水産課も漁師と共に模索中なのだという。生態も資源も売り先も不明瞭なまま、毎年どれだけ減るのかを確認しながら漁に向かっている状態だ。しかし、神奈川県水産技術センターでは、資源を増やすために稚ナマコの種苗生産試験が始まっている。
 


波板に乗る稚ナマコ。表面に培養した珪藻(けいそう)を餌に育つ(提供:神奈川県水産技術センター)
 

強化プラスチック水槽の壁に稚ナマコが這う様子(提供:神奈川県水産技術センター)


「3年前からやってるんだけど・・・放流したナマコの顔はまだ一回も拝んでないよなぁ、置田」と鈴木さん。

置田さんは「ナマコの身体はほとんどが水分で、水温が上がればびろんと伸びて下がれば縮む性質から大きさで歳が判断できないうえに、皮膚が溶けてしまうので目印もつけられないため、稚ナマコの成長の確認が難しいんです。年数が経つ中で統計を取ってみないと、どのぐらい効果があるのか見当もつかないですね」と答える。
 


放流した稚ナマコはいずこ


水温が高いと仮死状態で半分溶けてしまい、冷たい水に戻ると元の恰好に戻って活動を始めるナマコちゃん。あーもう生き物としてナゾ過ぎるわ・・・! 結局、ナマコにとっての良好な生育環境がどんなものかいまだ明らかではないが、とにかく水温が密接に関係していることだけは確かなのだという。

ちなみに、置田さんご自身はナマコ、お食べになります?

「僕は・・・食べません(笑)。ナマコは海のミミズみたいなもんだと思ってるんですよね。その原始的な生態も、砂や泥を食べて土壌を耕し海水を浄化する役割的にも。となると、食わず嫌いの多い僕としては、ミミズが中国ではそんなに高いのかよ!」と。
 


初めて目にした乾燥ナマコに驚く筆者


そのツッコミに激しく同意する筆者に、瓶詰の乾燥ナマコを見せてくれた置田さん。2月~3月のシーズン中に、本牧漁港の出荷所で観察がてら笊(ざる)に乗せて3日間天日干し、元の3分の1~4分の1ほどにまで縮ませたものだ。乾燥ナマコは人差し指にも満たない大きさで、黒くカチンコチンに乾いた本体は、一見すると猫のフ○みたいである(失礼)。たしかに、コレが中国ではそんなに高いのかァ・・・?
 


道に落ちていたらなんか別のものと勘違いしそう


後日、神奈川県水産技術センターに取材したところ、センター独自の調査によれば、2013(平成25)年度の柴・本牧・横須賀漁港におけるナマコの漁獲量は約69.5トンだった。農林水産省の調べからは神奈川県全体のナマコ単体の漁獲量は把握できず、オキアミ・シャコ・エサムシなどとあわせた“その他水産動物”としての総量になってしまうため、この主要3漁港をあわせた数値を、神奈川県東京湾における年間のナマコ漁獲量として報告する。

投稿にあったナマコの有名ブランド・青森県横浜町の漁業協同組合に問い合わせると、2013(平成25)年度の漁獲量は91トンというから、やはり本場中の本場である“青森のヨコハマ”には勝てなかった。ちなみに、青森県漁獲統計を見ると、北海道に次いで2位となる青森県全体の前年度におけるナマコ漁獲量は1485.73トンであるからして、もはやくらべものにならない規模!  

さすがは本物のキモカワイさで人気を博している『なまこストラップ』発祥の地である。
 


JF青森漁連アスパム直販店販売、横浜町乾燥ナマコを使用したなまこストラップ(1230円)


知れば知るほどミステリーなナマコだが、ただ獲るばかりではなく、自ら学んで情報を集め、乱獲を防ぐために自主規制し、資源としての未来も考えながら真摯にナマコに向き合っている本牧漁港の漁師さんたちの姿に感銘を受けた。
 


ナマコシーズンが待ち遠しい・・・