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【横浜の名建築】優美で気品ある女王 横浜税関本関庁舎

ココがキニナル!

横浜にある数多くの名建築を詳しくレポートするこのシリーズ。第9回は、海岸通りにある横浜税関本関庁舎。繊細で優しい印象の中に、威厳と美しさを備えた姿は、クイーンの称号にふさわしいものだった。

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ライター:吉澤 由美子

『横浜3塔』は、ジャック(横浜開港記念会館)、キング(神奈川県庁舎)、そして今回紹介するクイーン(横浜税関庁舎)。
 


象の鼻パーク手前から眺めた横浜税関庁舎。塔を中心にした左右対称の姿が美しい


横浜税関庁舎が建てられたのは、1934(昭和9)。横浜税関庁舎は外国商船に向けた日本の顔だった。
案内してくださったのは、横浜税関 税関広報広聴室室長、松野史利さん。
 


松野さんの言葉から、庁舎の歴史や税関の仕事に誇りと愛情を持ってらっしゃることが伝わってきた




最初の設計ではクイーンの塔に青銅のドームがなかった!?



1923(大正12)年、関東大震災に伴う火災で横浜税関の庁舎は焼失。
 


正面玄関にある「横浜税関」の文字は、高橋是清(たかはしこれきよ)が書いたもの


外国船の船長が横浜港に上陸するとまず税関を表敬訪問するならいがあったため、税関にはそれ相応の格式ある建物が必要とされていた。

しかし、その頃は世界大恐慌直後という厳しい時期。
やむなく税関はしばらくバラックのような建物を使っていた。
 


隣のプレートは、GHQ接収時に横長のものにかけ替えられた。縦型の跡がうっすら残っている


そこで、大蔵大臣の高橋是清が「失業者対策」として横浜税関の庁舎建設を勧め、それを受けた第22代税関長、金子隆三(かねこたかぞう)の指示により、予算の少ない中、急ピッチで庁舎の建設が行われた。

設計のチーフは、東宮御所の装飾意匠や実質的な国会議事堂の設計をしたとされる吉武東里(よしたけとうり)。
内装は、総理大臣公邸(総理大臣官邸の隣にある建物)を設計した下元連(しももとむらじ)。

ともに大蔵省営繕部のエリート設計技師であった。

吉武は当初、青銅のドームがない塔を設計。ところが、その高さが県庁の塔より2メートル低かったため、金子税関長が「国の機関である税関が県庁より低いとはなにごとか」と叱咤。
 


このドームがなかったらずいぶんクイーンの印象は違ったはず


その結果、5階の一部を設計から削り、その分の予算で塔の上にドームをつけ、県庁を超える現在の高さ「51m」となった。
1961年に横浜マリンタワーができるまで、横浜税関庁舎は横浜港で一番高い建物であり続けた。
 


象の鼻パークから見た横浜3塔。見つけにくいジャックは、中心やや左にある鉄塔の脇




創建時の姿をとどめる4室、そしてクイーンの塔内部



外壁の上部には、パルメット(棕櫚/シュロ)とハニーサックル(忍冬/スイカズラ)をかたどった波型の棟飾り。
 


棟飾りは大小あわせて461個。下から眺めた時に同じ大きさに見えるよう、6階テラスのものはやや大きい
 

手のひらを広げたような扇状のパルメットは、ギリシャ時代の神殿装飾にも残っている
 

角の端柱は塔の灯りと同じデザイン。上に9本 2階に7本立っている


イスラム風のドームをいただいた塔と、暖かみのあるベージュの外壁色、歩道に植えられた大きな棕櫚とあいまって、どこかエキゾティックな印象だ。
 


入口のアーチと歩道に植わった背の高い棕櫚
 

アーチや装飾がローマ風の正面玄関。建物の一番上にある窓上部が半円形でアクセントになっている