山手の味わいある建物の正体は? 熟練の技をもつ、染み抜き「杉本家」の職人に密着レポート!
ココがキニナル!
山手駅の商店街にあるしみ抜きの「杉本家」の建物は味わいがあり、ガラス張り作業しているのが丸見え。とても渋い雰囲気のご主人と、その奥様?がもくもくと作業されてる姿がとても素敵です。(いなれいさん)
はまれぽ調査結果!
味わいのある建物は店主と同い年。ここで生まれ育ち、着物に向き合って来たご主人と側で支える奥様。汚れた着物を再生する熟練の技をご覧あれ
ライター:たなか みえ
山手のキニナル「杉本家」
「杉本家」さんを、ネットで検索しても、住所と電話番号くらいしか載っていない。何年か前にはまれぽで山手界わいを取材したときの記事に「杉本家」さんの写真を発見! そうかこれがキニナル投稿者・いなれいさんの言う「味わいのあるガラス張りの建物」か。このガラスの向こうに渋い雰囲気のご主人がいるのか、と電話したのが、暮れも押し迫った12月。
2011(平成23)年7月9日掲載「はま旅Vol.15『山手編』」より
「あの、はまれぽと申しますが、取材をさせていただきたいのですが・・・」「はまれぽって何ですか? う~ん。いいですよ。でも今は忙しいので、お正月が明けてからにしてください」
12月は着物を着る機会の多い、お正月や成人式を前に、1年で最も忙しい時期とのこと。そんなやりとりがあって取材に出かけたのは1月の半ば。
JR山手駅から歩いて5分くらい。古い商店街に「杉本家」さんは、今もはまれぽ記事の写真と同じ佇まいのままあった。古い木造、木枠にガラスをはめ込んだ引き戸。なんだかそこだけ、昭和の時代にタイムスリップしたようだ。こんなことを書くと年齢がバレバレだが、筆者が子どものころはこんな家ばかりだったなと、妙に懐かしい気分、胸が熱くなる。
この一角だけ昭和にタイムスリップ!?
ところで、看板には「しみぬき、生洗い、洗張り 杉本家」とある。「しみぬき」はともかく「生洗い(いきあらい)」「洗張り(あらいはり)」ってどんなことだろうと思いながら、ガラスの引き戸を開けた。
「しみぬき」はわかるけど・・・
そしたら・・・。いらっしゃいましたよ。渋いご主人! その横に笑顔の奥様。いなれいさんに限らず、この佇まい、お二人を見たら、そりゃ、キニナル(笑)
渋いご主人と笑顔がやさしい奥様
「せっかく来てもらったけど、おもしろい話なんてないよ」と、店主の内野健一さん。やっぱり渋い。若いころはさぞモテたんだろうな・・・。いや、今日はそんな話を聞きに来たわけじゃない。気を取り直して「看板にある生洗いとか、洗張りとか、どんなことをするのでしょう?」と直球勝負に出てみた。
店主の内野健一さん
「和服、いわゆる着物のお手入れ全般って言ったらいいかな。でも最近は着物を着る人が減っているからね。いわゆる布物の染み抜きが多いかな。ネクタイをお持ちになるお客様も増えていますね」
お客さんから預かった着物がずらり
「えっと、洗張りって染み抜きのことなんですか?」
そこへ奥様のよし子さん登場。「そうですよね。洗張りのことを染み抜きだと思う人、多いですよねぇ。着物はそもそも反物。12~3メートルの生地を仕立ててできているんですよ。洗張りは、着物をほどいて糸をかけ、また一枚の布に戻して、洗って染みを抜いて。反物の状態にするまでのことを言います。その後また、仕立て屋さんに持っていき、着物に仕立てるんですね」
ほどいた着物を布に戻します
寸とcmを比べる秘密兵器! 1寸は3.6cm
幅は9寸5分~8分。計算すると、約36cm~37cm
布に戻したらしみをぬいて汚れを落として反物に
洗張り屋さんは、着物がまだ普段着だった時代に、クリーニング屋さん的な役割を担っていたということか。そうそう、生洗いとは丸洗いのこと。クリーニング屋さんと違うのは、汚れを落としつつも、なるべく生地を傷めないように時間をかけて丁寧に仕上げるところなんだとか。
手入れの行き届いたアイロン
「ご自分がお召しになっていた着物を娘さんやお嫁さんにっていうときも、サイズが違うでしょう? 洗張りをして反物に戻して、差し上げる方のサイズに合わせて仕立て直すことができるんです。地味な八掛(裾回し)や裏地の色を変えれば、お召しになる方の年代も広がりますしね」とご主人。
最近はリサイクルとか、リユースとかいうけれど、着物こそ無駄なく使い回しができると聞いてなんだか目からウロコ。昔の人は賢かったんだ。今のようにモノがあふれていなかったからこそ、一つのモノを長く大切に使い回す知恵が必要だったのかも・・・。
留袖の造りを説明してくれる奥様
そういえば、さっきから、天井からかかっている濃い朱色にこどもの柄の着物が気になって仕方ない。