洋食の街、横浜の料理人に密着「横浜コック宝」 真金町「トルーヴィル」編
ココがキニナル!
横浜の洋食文化をつくった老舗洋食店の料理人に密着取材する「横浜コック宝」。第2回は、細やかな美意識を貫く真金町「トルーヴィル」店主、稲垣友三郎さん。
ライター:クドー・シュンサク
「一度始めるとやめられないもんだよ・・・コックってのは」
洋食の街、横浜。変わらない、穏やかで、それぞれの確かな思い出がつまった横浜の洋食の味。そして、その文化。
美味しい、嬉しい、いつもそばにある洋食を支え続けるコックさん。
横浜が日本に、世界に誇る「横浜の洋食」を作るコックさんを、横浜の国宝としてその1日に密着し特集する「横浜コック宝」。
始めたいと思います
春を目の前にした第2回は、南区真金町「トルーヴィル」から粋なコック宝を選出。
素朴ながら、自分の味を繊細に、信念と美意識とともに作り続けるコック、稲垣友三郎(ともざぶろう)さんの1日に密着し特集。
横浜コック宝「トルーヴィル」初代であり、最後のコック。稲垣友三郎さんの回です。
コック宝の1日とこだわり
「じゃあ、朝の仕込みの時間からおいでよ」と、約30分の取材交渉の末、今回の取材が決まった。基本、取材は受けない。味でなんとかなるはずだから。それがトルーヴィル。ありがとうございます。
創業41年トルーヴィル
コック宝に迫ります
18歳でコックの世界に足を踏み入れた稲垣さん。某レストランで約2年間、今の時代から考えると長いであろう期間を見習いで過ごす。それからは横浜と東京のレストランで修業を積み、27歳で独立。自分の味を作れる「トルーヴィル」を開店した。
午前10時、厨房へ入ると、仕込みがすでに始まっていた。
41年間、たった一人のコックとして厨房に立ち続けた今回のコック宝の紹介です。
トルーヴィル店主
稲垣友三郎さん
トルーヴィルは稲垣さんと奥さんの二人で店を切り盛りする。料理のすべてを一人でさばく稲垣さんを、奥様がフォローし、支える。そんなトルーヴィルの厨房がこれから始まる。
まずはデミグラスソースの仕込みから
「ドミグラスでもいいんだよ(笑)」という稲垣さんは「まずはこれが基本だよな」
トルーヴィルの味。一言でいうと「すべて手作り」の味。ブイヨンからじっくり何日もかけて作り上げるデミグラスソースから各種ソース、ドレッシングからマヨネーズにいたるまで、トルーヴィルの味は、稲垣さんが「美味しい」と長年の経験と研究により完成した「すべて手作り」のもの。
稲垣さんは大量の仕込みをさばきながらひとつ、コックとは何かを話す
「作るっていうことは、作るってことだからね(笑)。深い話でもないよ。手仕事の量と質、それが作るってこと。つまり、腕があるのがコックってことだよ」
ムダのない手さばきで
仕込みがすすむ
とにかく丁寧で早い
仕込み開始から1時間少々でほとんどの仕込みをすませる。
仕込みの仕上げはデミグラスソース。
味を仕上げた1日分のデミグラスソースは
よく濾してなめらかに仕上げる
「こうやった方がいいってことはやる。手間とかの問題じゃない」
それから稲垣さんは「美味しいものには理屈なんてないからね。あるのはどうすれば美味しくなるかって想い」と続けた。
「コックにとって味は信頼だからね」
仕込みの量が、ソース以外の野菜や添え物からご飯にいたるまで、そこまで多くない理由を伺った。
理由は単純なもので「仕込みと作り置きはまた違うからね。野菜もある程度カットして、なくなればまた必要な分とちょっとくらいその都度仕込めばいい。置いておいたものを調理するのも悪くはないけど、手をかけて時間が経っていないものを食べてほしいってのがあるんだよ」と稲垣さん。
ご飯については奥様が「炊きたてがいちばん美味しいですよね(笑)。だから一度に多くではなくて、ある程度の量を何度も炊いて、炊きたてのご飯で食べてほしいんです」
トルーヴィルの味は理屈ではなく、美味しいものを作るという想い