洋食の街、横浜の料理人に密着「横浜コック宝」 真金町「トルーヴィル」編
ココがキニナル!
横浜の洋食文化をつくった老舗洋食店の料理人に密着取材する「横浜コック宝」。第2回は、細やかな美意識を貫く真金町「トルーヴィル」店主、稲垣友三郎さん。
ライター:クドー・シュンサク
営業が始まる
午前11時前、仕込みがほぼ終わり
開店準備
午前11時、トルーヴィルの営業が始まる
お客さんが来るまで、つかのまの休息をとる稲垣さんに話を伺う。
この町で40年以上店を続けてきた思い出から
暗くてちょっとおっかない町だったこの界わい。創業当時から今もなお店に足を運ぶお客さんや、おっかないお客さんとのちょっとしたいい話を聞いた。
下町といわれるこの界わいで洋食を作り続けることについては「仕事もなにも、つらいことは特になかったよ。なんてことなくやるのもコックの仕事だと思ってるし。結局味がすべてだからね。ただ、それだけだよ(笑)」
今年69歳になる稲垣さんは遊ぶことも忘れない
奥さんが「そばで見ていても、何にも手を抜かない人でね、仕事はそうでなくちゃならないけど・・・遊びにもしっかり手を抜かない(笑)」
しばし図星なコック宝としてやったりな奥さん
正午前、タイミング良くお客さんがやってきたので厨房に入る稲垣さん。
トルーヴィルの
素晴らしきお家芸
コック宝と
奥さんによる
阿吽の厨房さばき
都合4人前。日替わりのメンチカツにアラカルトのドリア、同じく日替わりの一口ステーキ2人前を手際よく、次から次へと二人で仕上げていく。
その間には食後のコーヒーのドリップから添え物のマカロニを炒めたりとすべての動きが潤滑で計算されている。
そしてトルーヴィルは料理の提供に時間をかけないだけではなく、必ず同じテーブルの料理は同じタイミングで提供。一緒に来た方々が一緒にいただきますと食べ始められるよう、効率よく的確に調理を施す。
そしてコック宝は寡黙に
静かに、素早くも丁寧に、料理を作る
一組の常連さんに話を聞いた
30年以上、トルーヴィルに通っているというご夫婦。今でも週に3~4回は食べにくる。
「ここの洋食を食べるとほかのじゃちょっと物足りなくてね。ほかが美味しくないんじゃないの。ここの味が優しくて美味しいから、もうここにしか来ないことにしたの」とのこと。
アットホームな雰囲気と味。コック宝の料理は一言で「本当の味」と話してくれました。
約3時間のランチ営業
コック宝はいくつもの料理を
その確かな味を作り上げていった
「お昼にするかい? 君に食べてほしいやつ作るから、食べて」とコック宝からのうれしいお言葉。
トルーヴィルの
コック宝の味
いただきます
理屈のない洋食、トルーヴィルの洋食。
牛ヒレのストロガノフ(ライス付、1800円)、トムライス(オムライス風デミソースかけ、800円)、チキンのシャリアピン(900円)。
美味いと、顔がほころび、舌も心もお腹も、やさしく満足させてくれる味です。
コック宝の想い
午後2時、ランチ営業が終わり、休憩に入るコック宝と奥さんにもう少しお話を伺う。
コック宝が現在にいたるまでの話
若き修業時代。つらいという言葉は使わないコック宝だが「はがゆい気持ちはいっぱいあったよ。2年も皿洗いかタマネギの皮をむくことくらいしかさせてもらえなかったから。それでも雑用でもなんでも、店に一番早く来て、コックの人たちが厨房に来るころにはすべて雑用と仕込みは終わらせる日々を続けてね。腐らずやり続けると認めてもらえるようになったし、そのころの意識が今の自分の基礎になった」と話す。
競争意識の中で自分の美意識を磨いたコック宝
まかないは味の研究の成果を試す。肉のさばき方が知りたくなれば時間を作って肉屋に頭を下げて勉強させてもらいに行く。盛り付けひとつも美しくすることを第一に、妥協はしない。常に「洋食」を作る自分と向かい合う。そんな日々がもう50年続いている。
コックという仕事について
「なにかこうだって決めることは難しいけど、今までやってきたことがすべてだね。少しの間、一度コックを辞めたこともあるけど、つまらなくて、ほかのことは。人のことはよく分からないけど・・・一度始めるとやめられないもんだよ・・・コックってのは」
トルーヴィルのこれからについて
「自分が始めた店で、後継ぎもいないからこの店は自分の代で終わり。ここは体の続く限りやっていくけど、それが難しくなったらね・・・」
それでもコック宝は、引退はしないという。
「店を小さくして、ここかどこかはまだ決めてないけど。いつまでもってわけにはいかないかもしれないけど、コックは続けるよ」
横浜市南区真金町トルーヴィル
夜の営業が
始まる
午後6時、ランチ以上に厨房があわただしい。
店に訪れたお客さんの注文と、夜の営業は出前もある。
店の注文をさばき、出前の注文をかさねてさばく。
出前は長者町や桜木町など、基本的には3km四方くらいまで可能だそう。
お店の混雑具合によって異なるので、注文時に相談してほしいとのこと。
そして、コック宝は料理を仕上げて店を出る。
店に来られない人もいる
だからコック宝は
可能な限り出前にもこたえる
店に戻り、さらに厨房はあわただしい時間が流れる。
午後9時を過ぎ、営業が終了。
1日の最後にコック宝とお話
「言葉でいくら言っても、味は変わらないからね。お客さんの『美味しい』って言葉が聞けるなら、それだけのためのことをやる。クドーくんは、今日どうだった? 食べてみて」
「本当に、美味しかったです」
「そうか。うれしいよ。良かった」
横浜コック宝第2号「トルーヴィル」稲垣友三郎氏
ここに認定いたします。
ありがとうございました
最後に
「誰も作れない味を作るのが自分というコックの仕事。それが美味しいと言われるのは、一番の幸せだよ」稲垣友三郎(1946~)
―終わり―
店舗情報
トルーヴィル
住所/横浜市南区真金町2-21
電話/045-251-5526
営業時間/11:00~14:00、17:00~22:00
定休日/日曜日、毎月11日、22日
<バックナンバーの記事はこちらから>
洋食の街、横浜の料理人に密着「横浜コック宝」老舗「洋食キムラ」編
mxmさん
2017年10月23日 23時46分
20年以上前お世話になってましたので、懐かしく読ませてもらいました。あの頃美味しかった味が懐かしい!今再び味わいたくなりました。
amariftさん
2017年10月04日 11時36分
新しい回を更新したら、全てそのリンクも入れて欲しい。基本、古い方から読むものだし。
ポートサイドさん
2015年03月05日 22時53分
ご主人が、永年、誠実にお仕事を続けていらっしゃる由の記事をずっと拝見していって、最後に、「お客さんの『美味しい』って言葉が聞けるなら、 それだけのためのことをやる。 クドーくんは、今日どうだった? 食べてみて」「本当に、美味しかったです」「そうか。うれしいよ。良かった」---この飾らないやりとりに目頭が熱くなりました。そして、最善を尽くしてなお気負うことのない、こんな素敵な方が横浜でご活躍と知り、この街がますます好きになりました。