殺処分「ゼロ」?神奈川県における動物保護の光と影・前編
ココがキニナル!
神奈川県は2016年度の犬猫殺処分はゼロと発表したが、横浜市はどうなの? 時を同じくして市は待機児童が2人と発表するも、実態とかけ離れ過ぎていると批判されたばかり。キニナル!(よこはまいちばんさん)
はまれぽ調査結果!
2016年度、横浜市動物愛護センターで安楽死処分されたのは、犬36頭、猫404頭。対して神奈川県動物保護センターは犬猫共にゼロ。理由は本文参照
ライター:関口 美由紀
一般的に動物愛護・保護センターと呼ばれる行政組織は、飼い主が不明となった動物の保護や、返還、譲渡などを行っている。動物愛護への啓発、ペットとの暮らし方への提案から相談まで、人間と動物が共存するためには欠かせない窓口だ。
ここで、神奈川県における動物愛護・保護センターの区分けを説明しておこう。
横浜市・川崎市・横須賀市は各市動物愛護センターを持っているため各市での活動となる。センターを持っていない相模原市、藤沢市は一時保護の後、県に委託。
それ以外の28市町村は、神奈川県動物保護センターが所管している。
キニナルにもあるように神奈川県動物保護センターが犬猫の殺処分「ゼロ」を達成、というニュースは記憶に新しい。では、横浜市動物愛護センターはどうなのだろうか?
というわけで神奈川区にある「横浜市動物愛護センター」に行って来た。
横浜市動物愛護センターへ
JR鴨居駅からバスで約15分。西菅田団地バス停で下車
「横浜市動物愛護センター」は住宅街から離れ、緑に囲まれた静かな場所にある
2011年(平成23)に横浜市畜犬センターから移転した施設で、“愛護センター”という名前の通り、動物愛護思想や適正飼育の普及啓発を行う拠点として、「人と動物が共に快適に暮らせる環境づくり」を推進している。
横浜市は、引き取りや収容した動物を譲渡することを積極的に行っている。また、動物愛護センターには、地域との交流、イベントなどで市民等が使える場所の提供もしている。
ふれあい広場は無料で使用可能(貸出は予約制。リード着用厳守!)
犬舎は冷暖房完備の個室
収容される犬は、飼い主から離れて放浪しているケースが多く、猫は、親猫から離れて弱ってしまっている子猫など、通報や連絡が来れば収容するという。
一時的に警察が保護する場合でも、飼い主がすぐに現れなければ横浜市動物愛護センターで預かることになる。
やむなく飼えない事情があって区役所に持ち込まれ、動物愛護センターで引き取るといったケースもある。
受付には厳しい言葉のポスターが
路上や公の場でケガをして動けないでいる動物(迷子になっている家庭飼育動物のウサギなどの小動物や鳥なども含む)に関しては、収容後飼い主が見付かれば返還するのが基本だ。飼い主が見付からない場合は、ケガをしていれば可能な限りの治療をし、新しい飼い主を探して譲渡するという対応を取っている。
所内にはペットと暮らす上で役立つ情報がたくさん展示されている
市川英毅(いちかわ・ひでたけ)動物愛護センター長と岡部智明(おかべ・ともあき)運営企画係長にお話を伺うことができた。
さっそく質問をぶつけてみる。 神奈川県では殺処分「ゼロ」とのことですが、横浜市ではどうなのですか?
「殺処分ゼロというのは、最近よく耳にする言葉ですが、横浜市の場合は『ゼロ』とは言ってはいないんです。適正飼育や終生飼養、不妊去勢手術実施等の啓発を行い、動物愛護センターへの収容数を減らしていきたいと考えています」とのこと。
「というのも、ケガをして治る見込みがない、重篤(じゅうとく)な病気が確認される、ほかの収容動物に影響を及ぼす可能性がある感染症にかかってしまっている、攻撃性があるなど、積極的に譲渡することが出来ない状態の個体の収容もあるからです。このまま回復の見込みがないと獣医学的な判断がされた場合には、致死処分ということもあります」とお答えいただいた。
新しく衛生的なグルーミング体験室
攻撃性があり、常に威嚇するなどの個体に関しては、1ヶ月ほどの観察期間の中で譲渡先での事故等の可能性がないかどうかなど、状態を見ながら飼育。どうしても改善されず、譲渡できないと判断した場合は、致死(ちし)処分の対象になるということだ。
「当施設では殺処分、ではなく『致死処分』という言い方をするのですが、処分の方法も、動物に苦痛を与えないように、獣医師の職員が注射を使って個体ごとに麻酔で安楽死させる方法を取っています」とのことで、動物が苦しむような処分方法ではない。
横浜市動物愛護センターに収容された犬
横浜市には、野犬や野良犬がいないので、野で生まれた子犬の収容はない。迷子や放浪している個体をセンターが収容することが多く、飼い主が見付かればすぐに返還となる。一定期間飼い主が見付からない場合は、譲渡対象として市民やボランティアを通じて新しいご家族にお渡しすることになり、譲渡対象の犬が処分されることは無い。
横浜市動物愛護センターに収容された猫など(頭数には負傷の小動物を含む)
猫に関しては、生後91日未満の幼齢の乳飲み猫が非常に多い。幼齢の猫に関しては24時間飼育をしないとなかなか育たないというところがあるため、飼育は非常に難しく、ミルクを与えて育てる保育ボランティアに協力をしてもらっているそうだ。
ラックの中にいる譲渡対象の猫。譲渡先はすでに決まっていた
「幼齢の子猫には数時間おきにミルクを与えなければならないし、免疫力も無いので衰弱する個体も多く、譲渡条件である避妊去勢手術が出来る大きさにまで育てていくのは、非常に難しいんです。我々も、なるべく譲渡出来るようにと取り組みはしているのですが、入って来る個体も致死処分とされる個体も幼齢の猫が多くを占めているという状況は知っていただきたいです」とのことだ。
横浜市では基本的に「譲渡」することを最優先に飼育に当たっている。しかし、処分対象となる個体がいるのもまた事実なのだ。
では、神奈川県の状況はどうなのだろうか? 公開されている資料『神奈川県動物保護センター事業概要』から保護センターの「動物の譲渡と処分」について確認してみた。
『神奈川県動物保護センター事業概要』より(平成27年度)
なるほど確かに致死処分の数は「ゼロ」となっている。
しかし、キニナルことが。
それは、ボランティアへの譲渡数。そのほとんどがボランティア団体へと譲渡されている。
横浜市では「処分対象の個体」となるはずの保護動物を、神奈川県ではどうしているのだろうか? 乳飲み猫の問題は? 凶暴な個体や病体への対応は?
神奈川県動物保護センターでは、どのように殺処分「ゼロ」を達成したのだろうか。
さらなる疑問を解決すべく、平塚市にある「神奈川県動物保護センター」に向かった。