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鉄道マンはここから誕生する! お遊びじゃない武相高校鉄道研究同好会を追え!

ココがキニナル!

今日の調査報告「京急反町駅」の参考文献にある「武相高校鉄道研究同好会」。高校生なのに出版物があるなんてスゴイ! いつかタモリ倶楽部に出演できそうな彼らを取材願います。(象の鼻さんのキニナル)

はまれぽ調査結果!

鉄道ウンチクなどが語られること一切なし。そこにあるのは40冊を越える鉄道関係の制作物、そしてひとりの教師が培った“仕事人”養成機関だった!

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ライター:松本 伸也

“少数精鋭”になるこんなワケ―「“鉄道オタク”を・・・」



いまは生徒が作業をしていますので行ってみましょう、そう促されて図書室の上階にある小さな部室へ。資料の棚などが迫り、パソコン1台で作業するのがやっと・・・という、ここも雑誌編集部さながら、である。
 


出版関係者なら見覚えのある“編集部的”佇まい


作業をしていたのは2年生の濱崎亮太さんと1年生の吉田拓磨さん。鉄道好きだというおふたり、まさかのこんな活動内容に面食らったんじゃないかと思えば、いずれも「学校説明会で先生に質問して入部を決めた」そう。

「ただNゲージ(日本での“走る鉄道模型”の総称)などを走らせたり、遊びではつまらないと思っていたので」と言う濱崎さんは、1年時に最新作『今日ものんびり JR相模線』を制作しており、初制作となる吉田さんとともに次回作にいそしんでいる。
 


「写真の富士山に掛かった雲を消す」という作業中。神の所業


ちなみにその次回作は吉田さんが何気なく撮ってきた1枚から「これ、もっと撮ってこいよ」と山田先生が乗り、夏休みを使って2人で撮り集めたものだとか。「これ以上はダメ、パクられるから(笑)」、というわけで内容は出てからのお楽しみである。
 


濱崎亮太さん(前列左)と吉田拓磨さん。現役部員は2人だけれども、頑張れ!


と・・・。
ここまで読んでみて一目瞭然だと思うのだが、これは「ある学校の“鉄研”取材記」にもかかわらず、鉄道の車両がどうとか駅がどうとかその類の研究話は一切出てこない。むしろ研究されているのはライターや編集者、そして出版社がいかに生きていくか、なのである。

書籍や文章というモノをどうやって創り出し、そのモノをどうやって売っていくか。それが鉄道と、明朗闊達な山田先生の語り口を媒介に部員に伝えられている。『タモリ倶楽部』に出版物とともに紹介される日は近い!?
 


床には多数の資料や雑誌が・・・


「私らは出版という場所に関係しているわけですが、どんな職業にも繋がりますよね。この部活動を通じて、モノが作られて売れるというサイクルを感じ取ることは将来の仕事にも繋がっていくと思います。私らはプロのみなさんのように決まった納期もないですから、納得がいくまで作り込むこともできますしね」
 


出版業界の仕事の流れ図が張ってあるのも納得


出版技術的なことを記せば「文章・レイアウト」と「写真素材」を別々に印刷所に入稿していたのが普通の時代に、最新技術であるそれらすべてをひとつのデータに取り込んだ“完全データ入稿” (DTP:Desktop publishing又は Desktop prepressと呼ばれる編集作業)を駆使したり、在庫を抱えずに済むよう注文が来たら印刷・製本する“オンデマンド印刷”を導入したり」と、その時々の出版界の最先端を突き進んでいる。
 


“オンデマンド印刷”に対応した『プチ写真集』シリーズ


ひとこと、羨ましい。
もし私がいまのように鉄道好きとして高校時代に戻りこの部活に出会っていたら。鉄道関係の仕事に就いていたかはともかく、出版関係者としての間口は現実に始めた当初より間違いなく、広大だったはずなのだから。

なにせ“鉄道研究会”の取材じゃないですか、ジオラマ見たり「デゴイチ(D51型蒸気機関車の愛称)の“D”は・・・」とか、そんな話になるかと思っていました――。
 


部室にはこういった鉄道らしいモノも飾ってはあります


帰り際、お礼とともにそんなことを呟くと、「それだけじゃつまらないじゃないですか」と、異才の教諭はこう続ける。

「私もそうですが、せっかく鉄道が好きなんです。それを活かしていかに自分のキャリアに繋げるか、ですよ。好きな鉄道に触れながら、いろいろと考えて、時間はかかってでも作り上げて、それが売れるところまで経験できる。こんなにおもしろいこと、ないですよね。『本なんか作るつもりじゃなかった』のなら当然ですし、私が気に入らなければ何度でも現地に行って撮り直させたりするのですから、生半可な気持ちではやってられません。私からも『キミにこの部は向いていないよ』と伝えることもあります」

これが冒頭に出た“少数精鋭”になる答えだった。ドンピシャにマスコミ関係はもちろん、たとえば鉄道会社に就職するにしろ、自らが大好きな鉄道を媒介にして、世に出たときに必要な能力を身につける、身につけさせる――その意図が共有されていない、生半可な気持ちでは確かに“持つ”わけがないのだ。
 


2012(平成24)年の文化祭での様子。教室を埋め尽くすレールの向こうには方向幕も展示

 
そんな“鉄研”なのだから、やっぱり異才の下から異才が飛び出している。先に出てきた“製版屋さん”もその後に「BRCプロ」という編集プロダクションを創設し、現在は同好会の制作物の発行も手掛けている。

そしてさらには・・・
「それこそ2日に一度は怒って3日に一度は『クビにするぞ』と言われていた子は、いつ辞めててもおかしくないのに、なんか3年間居ちゃった不思議なヤツなんだけれど、大学卒業後、JR東日本系のSuica制作部署へ行き、そこでSuica制作時のトラブル・マニュアルなどを作り(笑)、それで社長賞とかもらっていましたよ」

「そうかと思えば“ブラインドタッチの達人”がいて、大学時代にはインターンシップに行った大企業に気に入られて『卒業後は我が社に』って言われながら、本人はバスの運転手になりたいって夢があったから、結局大手バス会社へ事務方で行ったの。そこからさらに転職して箱根登山バスで念願の運転手になったら、とても対応が丁寧で事業所にファンレターとかが来ちゃって、これも会社から表彰された(笑)。ほかにも電鉄関係で運転士や車掌をやっているOBたちも沢山いますよ。」

すごい話だ。40人ほどのOBの中からこれほどの逸材が飛び出してきている。だってSuica作っちゃったんだぜ(驚)。
 


2011(平成23)年の文化祭で集合したOBのお歴々。本文中に出てきた方もおられます

 
もう、この先生あっての手下のみなさん、ですね・・・。心底、感嘆して言うと、創設36年目を迎える“親分”、誇らしげな微笑みとともにこう続けた。

「それにだいたい・・・」

だいたい・・・?

「ヤツらだって多くはそうだったんだ。そんな“鉄道オタク”を“仕事のできる鉄道好き”にしてあげるのが、この部の役割なんです。ははは」

いや参った。恐れ入りました。
妙蓮寺の近郊、高級住宅街の奥。そこには異才が異才を呼ぶ、鉄っちゃん中高生たちの“約束の地”が、紛れもなくあった。



取材を終えて



本文中にも書いたジオラマやら鉄道ウンチクやら、多少の鉄道好きとしてそんな内容も期待はしていた今回の取材。皆無でございました(笑)。いやしかし、自分の職業を見つめ直すいい機会になりました。

「あ、ジオラマとか観たかった? それなら文化祭にいらしてくださいよ」と再び山田先生。そんな文化祭には総勢40人ほどのOBのみなさん、こぞって文化祭には駆けつけるという。

「みんなでジオラマの制作やNゲージを動かしてくれる。だから私や現役は展示物の作なんかに時間をかけられる。これはありがたいですよ。ヤツらには“帰るところがある”ってことで、そういう場所があるのは重要ですよね(ニッコリ)」

観てみたいな、その光景を。ジオラマだけでなく錚々(そうそう)たるOBも(笑)。
今年は武相中学・高等学校の文化祭、行ってみますか。


―終わり―
 

学校法人武相学園 武相中学・高等学校
住所/神奈川県横浜市港北区仲手原2-34-1
 

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  • 少数故の密度の濃い人間関係が出来ていることが分かりますね。昨今のオタクではなく昔の「マニア」の良い時代を感じました。

  • Nゲージ(日本での“走る鉄道模型”の総 称) という表現は、言わんとする事は解らんでもないが、やっぱりおかしいので指摘しておく。

  • 有隣堂でマニアックな鉄道の本があって手にすると「武相高校鉄道研究同好会」の本ということが何度かありました。これからも続いてほしいです。

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