横浜が誇る歴史と伝統あるバー「シーガーディアン」の今と昔を徹底レポート!
ココがキニナル!
ホテルニューグランドにあるシーガーディアンⅡ(ツー)を特集してください。ちなみに横浜そごうにシーガーディアンⅢ(スリー)もありますが、シーガーディアンⅠはないのでしょうか。(悠介さんのキニナル)
はまれぽ調査結果!
1927(昭和2)年にシーガーディアンが開業し、現在はシーガーディアンⅡ(ツー)、Ⅲ(スリー)の2店舗が営業中。それぞれの特徴は記事を参照。
ライター:篠田 康弘
多くの著名人に愛されたシーガーディアン
シーガーディアンと言えば、数多くの著名人が足繁く通ったことでも有名である。池波正太郎がシーガーディアンのドライマティーニを好んだ話は以前紹介したが、これ以外にも多くの著名人が各々に好みの酒を楽しんでいる。
どのような著名人が来店していたのか太田さんに伺ったところ「やっぱり一番は大佛次郎(おさらぎ・じろう)さんでしょう」という回答が返ってきた。
シーガーディアンで酒を楽しむ大佛次郎
「鞍馬天狗」などの作品で知られる小説家・大佛次郎は、ホテルニューグランドの318号室を自分の仕事部屋としていた。昼間はこの部屋で執筆作業を行い、夕方になると1階に降りてきて、シーガーディアンで1杯飲むのを日課としていたそうだ。
そんな大佛次郎が好んで飲んだのが、イタリアの「ピコン」という酒だった。さまざまなハーブの入ったいわゆる薬膳酒であり、大佛次郎はピコンのソーダ割りに、ザクロのシロップを加えるというスタイルを好んで飲んだそうだ。
大佛次郎の好んだピコン
ピコンのソーダ割りは現在も提供しているそうだ。ただし太田さんが「普通に『ピコンのソーダ割り』とだけ注文すると、ザクロのシロップ抜きが出てきますので、大佛さんと同じものを飲みたい場合は『大佛先生のスタイルのピコンソーダ』と注文してください」と話されていたので、ご注文される場合は注意してほしい。
このほかにも、石原裕次郎や松田優作もよく来店していたそうだ。石原裕次郎は撮影の合間(現在のシーガーディアンⅡ<ツー>は午後5時からの営業だが、シーガーディアンは午前11時半から営業していた)にスタッフたちと来店し、みんなでドライシェリーやブランデーを飲んでいたそうだ。また松田優作は、ウイスキーを好んで飲んでいたとのことであった。
石原裕次郎
石原裕次郎が来店していた当時のシェリーグラス(左)とブランデーグラス
シーガーディアンⅡ(ツー)の誕生
そして1991(平成3)年、ホテルニューグランドが転換期を迎える。本館の隣に新館(ニューグランドタワー)が建築されたのだ。これに伴い本館の各店舗もリニューアルされることになり、シーガーディアンは場所を海岸通り沿いから現在のホテルの奥に移動。生まれ変わったという意味を込めて店名も「シーガーディアンⅡ(ツー)」に改められた。
シーガーディアンのまま残してもよかったのではと思う人も多いだろうが、太田さんによれば、これは全く逆だそうだ。以前の店名が残っているのはシーガーディアンⅡ(ツー)だけで、ほかの店舗は全くの別名に変わったそうだ。例えば以前「コーヒーハウス」と呼ばれていた店舗は、現在は「ザ・カフェ」となっている(正式名称はコーヒーハウス「ザ・カフェ」)。
本館1階 コーヒーハウス「ザ・カフェ」
場所が移動し店名も変わったが、シーガーディアンⅡ(ツー)では全く変わらないサービスとカクテルを提供し続けており、シーガーディアン時代から引き続き通われている常連も多い。俳優の藤竜也氏もそのひとりで、なんとシーガーディアンⅡ(ツー)には藤竜也氏本人が考案したカクテルがあるそうだ。
太田さんから「藤竜也さんと私で考えたカクテルなんですけど、試してみますか」と声をかけていただいたので、こちらをいただいてみることにした。
そのカクテルの名は「ヨコハマElegance(1944円)」。5種類の酒を使った、とても華やかなカクテルだ。
ヨコハマEleganceの材料となる5種類の酒
左から順にウオツカ、シャンパン、バラの花のシロップ、マスカットリキュール、スミレの花のリキュールである。ちなみにバラの花のシロップは横浜市の花である「バラ」、マスカットリキュールは華やかな香り、すみれの花のリキュールは藤竜也の「藤」色と、それぞれにイメージが込められているそうだ。
それではこちらも、太田さんに作っていただいた。華麗な手さばきに注目である。
グラスにシャンパンのみを注ぎ
その他4種類の酒はシェイカーに注ぎ
しっかりとシェイクする
太田さんの手元がぶれているが、これは太田さんのシェイカーを振る速度があまりに速く、カメラの性能が追いつかなかったためである。何卒ご理解いただきたい。
シェイクした酒をシャンパンの入ったグラスに注ぎ
花びらを浮かべて完成。だがまだ濁っている
これで完成であるが、シェイクした直後なのでまだ中身が濁っている。少し時間を置くことで、これが澄んだ藤色に変わっていく。
濁りのなくなった状態。鮮やかに澄んだ藤色が実に美しい
この色を見てほしい。あまりの美しさに、筆者は飲むのをためらった。ただやはり酒なので、飲んであげるのが最大の礼儀だろう。ということで、一口いただいてみた。
ヨコハマEleganceをいただく筆者
花や果実のリキュールを使っているので香りや口当たりは非常に柔らかいが、いやらしい甘さはなく、シャンパンの炭酸も加わって非常にすっきりとした飲み口となっている。
ちなみにこちらのカクテル、女性の手に花束がある姿をイメージしているそうだ。なるほど、美しさに見惚れて飲むのをためらった理由がようやく分かった。
カクテルを考案中の太田さんと藤竜也氏。どちらも楽しそうである
完成後に藤竜也氏からシーガーディアンⅡ(ツー)に届いたお礼の手紙
ちなみに手紙にはMAY 13,2012(2012年5月13日)と書かれている。5月13日は何と「カクテルの日」だそうだ。もう何から何まですべてがかっこいい。本当に素敵である。
最後に太田さんに、シーガーディアンⅡ(ツー)で働いていて一番心に残っている出来事を聞いてみた。
「私は高校生のころから、将来はバーテンダーになろうと決めていたのですが、当時の先生に『お前には向いてないからやめた方がいい』と言われたんです。それでもやっぱりバーテンダーになりたくていろいろ勉強していく中で、歴史あるシーガーディアンの存在を知り、ぜひここで働きたいと思い、ホテルニューグランドに入社しました」
このカウンターの中で働くことが、太田さんの夢だった
「そして、シーガーディアンⅡ(ツー)のカウンターに入るようになって3年くらい経ったある日、突然先生が来店したんです。当時はやめた方がいいと言っていた先生も、自分がバーテンダーになったことをものすごく喜んでくれました。それ以降は常連として、今でもよく来店してくれます。先生の1杯目はドライマティーニと決まっているんですが、先生との約束で、このドライマティーニは必ず自分が作ることになっているんです」
シーガーディアンⅡ(ツー)のドライマティーニ
素敵な話だ。聴いているとカクテルがますます美味しくなった。
シーガーディアンⅡ(ツー)は、そこにいる全ての人間が幸せを感じられる、大人の夢の世界であった。