磯子区のお寺で体験できる、江戸時代から伝わる「峯のお灸」って?
ココがキニナル!
今も峯のお灸ってあるのでしょうか?体験取材をお願いします!(Robinさんのキニナル)
はまれぽ調査結果!
今もあった! 磯子区峰町にある円海山護念寺(ごねんじ)の住職が代々伝える峯の灸は、人々の苦しみを救う仏の教だった
ライター:ほしば あずみ
江戸時代から続くお灸
「強情灸(ごうじょうきゅう)」という落語がある。熱い事で有名な「峯(みね)の灸」に行った男が、背中がカチカチ山の狸みたいになっても耐えてみせたと自慢する。それを聞いた友人が張り合って、山盛りのお灸を自らすえる。そのやせ我慢で苦しむ様を面白おかしく演じる一席だ。
江戸時代、落語に取り上げられるほど有名だった「峯の灸」。
それは円海山護念寺(磯子区峰町)という浄土宗のお寺に伝わるお灸で、かつてはお灸を据えてもらいたい人々によって「灸の道」ができたほど評判だったという。
円海山護念寺の本堂
インターネットで調べてみたところ、お灸の施療は現在でも行われているようだ。お灸は要予約で午前中のみ(月、土、日、祝日休み)。施療代は1回4000円。
調査結果は「今もあります!」で、終わってしまいそうだが、体験取材・・・落語によると「大の男が悲鳴をあげて飛び上がり天井板をぶち抜く」ほど熱いらしいのだが。
そもそもお灸とは、よもぎの葉を材料にした「艾(もぐさ)」を皮膚に乗せて線香で火をつけ、ツボを刺激し血行を促進するという東洋医学。
現在では、艾を台座に乗せて間接的に温めるやり方が増えているが、峯の灸がそんな「ぬるい灸」で済むはずがない。
いったいどれほどの熱さなのか・・・身をもって体験してみる。
現代の「お灸の道」へ
護念寺は、その山号(さんごう)のとおり円海山に抱かれるように山中にある。JR磯子駅から市営バス10系で終点「峰の郷」下車か、JR洋光台駅からタクシー利用で10分ほど。ただし、バスは本数が少なく1時間に1~2本程度。洋光台駅から徒歩だと健康な人で約50分(参考:はま旅「洋光台編」)。
円海山護念寺の入口には「峯の灸」の大きな看板が
まずは、お寺やお灸の由緒を住職の苅部恭明(かるべやすあき)さんに伺う。写真には写っていただけなかったが、気さくで話し上手なご住職だ。
「護念寺は、徳川八代将軍吉宗の命を受け、高僧(高い身分の僧侶)の隠居寺として九代将軍家重の時代に建立されました。1917(大正6)年に大火で堂の建物を焼失し建て直しましたが、鐘楼(しょうろう)は天明年間(1781~1789)のものが今でも残っています」
およそ230年前から建つ鐘楼。梵鐘(ぼんしょう)には「天明二年」の銘がある
特別に本堂も拝観させていただいた。本尊は阿弥陀三尊像
お寺に伝わる仏は本尊のほかに、弘法大師作と伝わる大威徳明王像(だいいとくみょうおう、密教の五大明王の一尊)があり、この明王が峯の灸の由来に関わっているという。
「このお寺の5代目、1808(文化5)年に入山した萬随(ばんずい)和尚の夢枕に、ある夜、大威徳明王が現れ、霊灸を授けて“この灸で万民を救済せよ”と告げたのが、峯の灸のはじまりです。霊灸の効験が評判となり、引きも切らず人々が訪れ、萬随和尚は60余万人を施療したといいます」
施療を行う庫裡(くり/僧侶の住居)は、1917(大正6)年の火災後に仮本堂として建てられた
かつて東海道保土ケ谷宿、帷子の辻(かたびらのつじ)には「円海山道」の道標(みちしるべ)があった。井土ヶ谷、弘明寺の参道を横切って大岡川沿いの旧道で笹下へ至るルートが「灸の道」だという。
苅部住職によると、現在のお寺への参道は1945(昭和20)年ごろ電電公社(現在のNTT)がアンテナ工事のために開通させたもの。本来の「灸の道」は付近のハイキングコースなどの山道では、との事だ。
今でこそ深閑とした山中のお寺だが、「灸の道」を人々が通っていたころは、お寺の周りに多い時で19軒もの茶店が軒を連ねており、評判のあまり偽の「峯の灸」を掲げるものも複数あったのだそうだ。
茶店は数軒が戦後まで残っていたそう。茶店だった建物が1棟、お寺のそばに残っている
「峯の灸は代々の住職に受け継がれているもの。ほかで名乗る事はありえないんです」と語る苅部住職。お寺の開山からは13代目、お灸は9代目になる住職も、家伝の灸を継ぐため僧侶の免許を得たのちに、鍼灸師の国家資格を得たそうだ。
「鍼や灸というと、肩こりなど“辛いかもしれないけれど命にかかわるほどではない症状の緩和”だと思われがちです。それらは町なかにある鍼灸院で対処できます。
ここには、あらゆる手を尽くしてほかに手立てのない方たちが、最後の手段として訪れます。灸は東洋医学ですから、今は法的にがんや糖尿病などの難病を治療してはいけないし、治るとも言えない。けれど人々を苦しみから救うのは仏の教えにも通じる事で、使命だと思っています。命にかかわる方がすがって来られるので、こちらも命がけです」と苅部住職。
お灸の道具類。中央にこんもりしているのが「艾」。左側の線香で火をつける
特に体に不調もない筆者が据えてもらうにはおそれ多いのでは…という気すらするが、由緒ある峯の灸とはどんなものなのか、こちらは伝えるのが使命だ。
「熱いですか?」
「それは火をつけますからね。施療となると同じところに何度もすえるので痕も残ります」
痕も残るのか・・・誰に見せる肌でもなし仕方ない、これもはまれぽ読者のキニナルのため・・・という覚悟を決めて、ひと肌脱いだところを「誰に」どころか「全世界に」さらして、以下、お灸体験レポートをお届けする。