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『横浜今富嶽三十六景・其の三』

ココがキニナル!

いわゆる高低差の魅力溢れる横浜では、ふと景色がひらけると富士に出会う。かの北斎のように「横浜の今の」富嶽三十六景を仕立ててみる。

はまれぽ調査結果!

『横浜今富嶽三十六景・其の三』「中区見尻坂上」(中区山手町96)の富士をご紹介!

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ライター:永田 ミナミ

『横浜今富嶽三十六景・其の三』


中区山手といえば、開港当時、外国人居留地になったため、今日でも瀟洒(しょうしゃ)な異人館が立ち並び、外国人墓地が趣を添える地区である。

そしてその名の通り、山手は高台に位置する。入海が江戸時代に埋め立てられ、入海の南端が中村川として残された。

さらに開港の翌年の1860(安政7・万延元)年「象ヶ鼻」と呼ばれた砂嘴(さし)の付け根部分に掘割を通して中村川となった。

今日、山手の坂はその中村川に削られた河岸段丘につくられたようにも見えるが、実際にはかつて入海があった時代の海食崖(かいしょくがい)である。
 

実は砂嘴を横断するみなとみらい線。それにしても砂の嘴(くちばし)とはよく言ったものである (GoogleMapより)※クリックして拡大
 

そして中村川が首都高速にすっかり覆われてしまったのは1990(平成2)年のこと
 

外国人居留地という場所柄、また本牧方面へ抜けるために山手を越える必要があったことから、山手から中村川へと降りる斜面にはいくつもの名坂が存在する。

かつてフランス領事館があったフランス山を左手に見ながら、港の見える丘公園沿いへと上る「谷戸坂」や信号に名前がついた代官坂、汐汲坂、地蔵坂が最もよく知られた坂ということになりそうだが、無論ほかにもいろいろな坂が斜面を走っている。

 

かつて本牧十二天への参道でもあった山手東端の「谷戸坂」
 

今回はみなとみらい線元町・中華街駅5番出口(元町口)を出て、まずは「谷戸坂」を上ってから降りることにする。
 

緩やかに弧を描く「谷戸坂」を上っていくと 
 

坂の上に「海の見える丘公園前」の信号が見えてくる

 

この角を右に曲がるといわゆる「山手本通り」であり、行く先には元町公園やフェリス女学院高等学校などが見えてくるわけだが、本日は山手本通りに入ってすぐ右手の外国人墓地の手前で足を止める。すると外国人墓地に負けず劣らず趣ある横浜地方気象台との間に、車は入れない細い通りが延びている。

 

看板の文字からしてすでに味わい深い横浜地方気象台を通り過ぎる
  

その先は、美しく蛇行しながらアメリカ山公園横を通って元町へと降りていく、レンガ敷の階段坂になっている。

 

「見尻坂」である

 

何でも、坂を上ると目の前に前を歩く人の尻があるほど急峻(きゅうしん)ということからこの名がついたという。

などと言いながら散歩をしているうちに日がくれたので、「見尻坂」を降りて帰ろうとしかけてふと左を見ると、外国人墓地の柵や植え込みの間からふと見えてくるのが今回の1枚。

 

『横浜今富嶽三十六景・其の三』 「中区見尻坂上」 (中区山手町96) の富士である

 

以前この「見尻坂」を降りていくとき、上ってきた学生らしきカップルの女子がすれ違いざまに「誰だよこんな坂つくったの」と息を切らしながら毒づいていた。たしかに目的地のみに焦点を当てればそこまでの過程はすべて必要悪の負担となる。

それも考えようで、東京市中の散策記ではあるが『日和下駄』のなかで永井荷風(ながい・かふう)は、「坂」について次のように書いている。

「坂は即ち平地に生じた波瀾(はらん)である。平坦なる大通は歩いて躓(つまず)かず、車を走らせて安全無事、荷物を運ばせて賃銀安しといえども、無聊(ぶりょう)に苦しむ閑人(かんじん)の散歩には余りに単調に過る」

果ても底もない効率と合理性の追求はときに窮屈でもある。たまには暢気に高低の変化を楽しむ。

 

暗くなった坂を抜けた先に街の灯が見えてくるのも悪くない
  

「谷戸坂」から「見尻坂」までの道程と、その周辺の坂たち(GoogleMapより)※クリックして拡大

 

距離と所用時間:みなとみらい線元町・中華街駅元町口より谷戸坂を経て500メートル徒歩6分ほど。元町から「見尻坂」を上って450メートル徒歩5分ほど、アメリカ山を経て300メートル徒歩4分ほど。



-終わり-
 

 

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