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金沢区の幼稚園に岡本太郎の壁画があるって本当?

ココがキニナル!

金沢区の金沢シーサイドタウン内にある並木幼稚園には、岡本太郎氏の手がけたという絵がありますが、どういう経緯で岡本太郎氏の作品を書いてもらうことになったか知りたいです(在原紀之さんのキニナル)

はまれぽ調査結果!

並木幼稚園の当時の理事長が「子どもに一流のものを見せることで本物を識別できるようになる」という理念から、岡本太郎に壁画の制作を依頼した。

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ライター:久保田 雄城

最新テクノロジーによってよみがえったアート

復元の経緯はこうだった。
実に24万枚のガラスモザイクでつくられた壁画は、1995(平成7)年にも修復されたのだが、剥離が激しかったという。そこで、並木幼稚園の創立30周年記念事業として、壁画の美しいガラスモザイクをイタリアから輸入して、復元を改めて行うことになった。

壁画の修復は、下絵の撮影や画像解析などをはじめ、高度な最先端のテクノロジーと特殊な手法を用いてすすめられた。監修は、タイセイ総合研究所が行い、工事計画と施工をINAXに依頼して共同で実施された。

筆者は、監修を行ったタイセイ総合研究所の、このプロジェクトの総合監修者であり修復リーダーの杉本賢司さんを訪ねた。
 


ユーモアたっぷりに話してくれた杉本さん


飄々(ひょうひょう)とした語り口調で、杉本さんは当時を振り返ってくれた。
「まずね、岡本太郎記念館の平野暁臣(あきおみ)館長に、並木幼稚園の小嶋禮子理事長(当時)からお願いしてもらって、原画を青山の岡本さんの自邸から借りたんだ。理事長は、『剥離と落下の多い初代のモザイクタイルは、赤の色が当初と変わってしまった。あの赤を取り戻したいの』と何度も僕に言うんだよ」

苦笑いのような照れ笑いのような表情を浮かべて、杉本さんはそう話してくれた。
 


貴重な修復計画の記録


筆者が先を促すと、杉本さんはこう続けた。
「原画の色彩分析を日本色彩学会の環境色彩の協力で厳密にやって、パイオニアの500万円もする超高度測定器を2台使ってデジタル画像を取得した。それで色彩を原画に近づけることに成功した。その結果、1980(昭和55)年に作成されたモザイクタイルを超える、原画に忠実な壁画が完成したんだ」

杉本さんは当たり前の話のように話してくれたのだが、これはとんでもなく凄いことだ。アートというのは、最新のテクノロジーによって、よりオリジナルに近づくことが可能なんだと、リアルに感じることができた瞬間だった。
 


アートが、最新の技術によって支えられていた


理事長がこだわった「赤」は、イタリアのヴェートロ・ディ・ムラーノ(ムラーノ島のガラス)だ。日本ではヴェネチアガラスといわれているが、ムラーノ島でつくられるためイタリアではこう呼ぶそうだ。

余談だが、ノートルダム大聖堂のステンドガラスの赤は、再現が不可能と言われているらしい。赤の色出しが難しく、色が抜けやすいので、最新テクノロジーをもってしても難しいという。しかし、この壁画「海辺の太陽」は、500年後でもオリジナルと同じように復元できるのだと、杉本さんはちょっぴり得意げに教えてくれた。
 


理事長がこだわった「赤」


オリジナルの赤にこだわった小嶋禮子理事長が亡くなったのは、この修復から2年後のことだった。

「子どもたちのために壁画をお願いします」と話した理事長に、「わかりました。大きなものを作りましょう」と答えた岡本氏。

この話し合いが行われたのは2月、海のみえる高台だったという。海はまだ冬のただ中で、凍てついていただろう。けれどこの二人は、その中に光る海をみていたのだと筆者は確信している。

岡本氏が創った「赤」を理事長が引き継ぎ、そしてそれはまた新しい世代に受け継がれていく。人はやがて死ぬが、アートは受け継がれていく。そしてその継続を陰で支えているのが最新のテクノロジー、すなわち今を生きる人々の情熱だ。

この事実を、やはり今を生きる一人の人間として筆者は誇りに思う。



取材を終えて

今回の取材で思い出したのが、横浜そごう屋上にある、岡本太郎氏のパブリックアート「太陽」。これは、並木幼稚園の壁画の5年後、1985(昭和60)年に、そごう横浜店の開店を記念して制作されたものだ。久しぶりにまた見に行きたくなった。
 


そごう横浜店の屋上にある「太陽」


実は岡本氏は、パブリックアートを全国70ヶ所に設置している(横浜市にあるのは「海辺の太陽」と「太陽」の2ヶ所)。これは岡本氏が、「芸術とは誰でもいつでも無償で見られるべき」という考えを持っていたからだ。これはアートに対する根源的で正しい姿勢だと思う。

それにしても、アートというのは本当に人が生きる上で、その人生をより優しく、よりカラフルにしていくものだと思う。


―終わり―


並木幼稚園
所在地/横浜市金沢区並木1-10-2

タイセイ総研
所在地/東京都新宿区西新宿1-25-1
 

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  • わがふるさと「並木」を検索してヒット。いやあ、面白い。というか、岡本氏の芸術に対するフィロソフィーともども、短いながらも深々とした掌編を読んだような感慨を覚えました。実家から歩いて数分の場所にある幼稚園。「ナゼ、岡本太郎?ひょっとしてもどき?」などと大変失礼に思っていたおのが不敏不明を愧じるばかりです。「子どもたちに優れたものを」と熱情を以てあたられた小嶋理事長さんと、それに真向から応えた大家ぶらない岡本氏。その作品の維持に執念を燃やした園の素晴らしさ。お金含めなかなか困難だったと思いますが、それを乗り越えたドラマには、深い感動があります。また、そごう屋上は知りませんでした。今度帰省した折に見てみようと思います。地元にまつわる素晴らしい記事を、ありがとうございました。

  • 杉本賢司さんは、私の友人で、彼の都内の仕事場を訪ねた時に、原画がさりげなく、置いてありました。千年コンクリートなど彼と共に開発したアイデアもありました。難しい問題も共に乗り越えてくれました。大建設会社の社員、そして個人としての研究者として、人の倍のスピードで生きた人だと思います。治療中という話を聞き、かならず、ひょうひょうとして乗り越えてくれると思いましたが、今月、訃報に接しました。あいにく、歩道を逆走してきた子供の自転車をさけて転倒してしまい、怪我の為に、彼の葬儀には、出られませんでしたが、このページ見て、このページで、彼の精神は生きていると思います。彼の偉大な足跡を振り返っています。

  • メキシコの壁画運動にも関わったことのある岡本太郎さんなので、日本でこれだけ大きい壁画を、こどもたちのために作れたことは、とてもうれしかったのではないかと思います。とても貴重な作品なので、いつまでもこの場所に残して欲しいと思います。

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