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解体が報じられた、横浜最古の倉庫「旧日東倉庫」の歴史を探る!【後編】

ココがキニナル!

解体が取りざたされている横浜最古の倉庫「旧日東倉庫」の今後はどうなる?(はまれぽ編集部のキニナル)

はまれぽ調査結果!

9月1日現在解体の動きはないが、現所有者の「解体予定」にもまだ動きはない模様。一方で保存を求める動きは確実に大きくなってきている

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ライター:永田 ミナミ

耐震建築物としての価値



日本における鉄筋コンクリート建築の先駆者として遠藤於菟の功績を語る上で、興味深いエピソードがある。

日本初の全鉄筋コンクリート建築の設計を進めていた遠藤於菟に、神奈川県庁舎新築設計の依頼がきた。

「横浜港頭にふさわしい豪壮な建物を」という要望から、ルネサンス様式による石材・煉瓦・鉄筋コンクリート混用の3階て建庁舎を設計するとともに、建設期間中に使用する仮庁舎を横浜公園内に建設した。
 


遠藤於菟の設計はどのようなものだったのだろう。写真はサン・ピエトロ寺院(フリー画像)

 
仮庁舎とはいえ建築物としての質を維持するため、遠藤於菟は3万8000円(現在のおよそ7億6000万円)という最低落札価格を指定したが、落札した業者は3万3000円で下請けに丸投げしていた。
そのため、完成した仮庁舎の床に使用した木材や壁面などに不具合が出てしまう。

当時、神奈川県知事は憲政会所属で、議会では憲政会と立憲政友会が対立していたことから、この仮庁舎の粗造は格好の攻撃材料となった。「粗造の仮庁舎の監督者に本庁舎をつくらせるのか」という政争の具として巻き込まれた遠藤於菟は、責任をとって神奈川県嘱託を辞任。

その後、妻木頼黄(よりなか)、辰野金吾とならんで「明治建築界の三巨頭」と言われた片山東熊(とうくま)が起用され、片山は木子幸三郎(きごこうざぶろう)とともに石材と煉瓦造によるルネサンス様式の県庁を設計した。
 


赤坂離宮など宮廷建築家として名を馳せていた片山東熊による神奈川県庁舎
(横浜市中央図書館提供)

 
1913(大正2)年6月に竣工した新庁舎は、その壮麗さによって高い評判を得ていたが、完成から10年後の1923(大正12)年9月1日に発生した関東大震災によって、庁舎は内部を焼失、取り壊されることになる。

一方、県庁建設と同時期に妻木頼黄の依頼で現場監督を努めて1911(明治44)年に2号棟、1913(大正2)年1号棟が完成していた横浜保税倉庫(現在の赤レンガ倉庫)を含め、全鉄筋コンクリートの三井物産横浜支店ビル、横浜正金銀行本店など、遠藤於菟が関わった建物は、多少の被害はあったものの、いずれも震災を乗り越えて瓦礫のなかで立ち続けていた。
 


そして現在、観光スポットとして人気を集めている赤レンガ倉庫(フリー画像)

 
1925(大正14)年に発行された『大正大震災震害及火害之研究』によると、「三井物産株式会社生糸倉庫」の「被害ノ概況」に「(倉庫の)外部ニ於テハ煉瓦積ニ軽微ノ亀裂ヲ認ムルノミナリキ」とあり、「(オフィスビルである)第三號棟ニ於テハ一二化粧煉瓦剝落セルノ外災害ノ認ムベキモノナシ」とある。

ここから倉庫は煉瓦壁に少し亀裂が入っただけ、支店ビルは壁面に貼られた白いタイルが数枚剝落しただけと、被害はほとんどなかったことがわかる。

そのあとの記述には、隣接する「チャータード銀行(煉瓦造)」と「獨亞銀行(煉瓦造)」が、完全に倒壊していることから付近一帯の地盤が良好ではないことがわかり、「本倉庫第一號棟及第三號棟ガ能ク強震ニ耐ヘテ被害ナカリシハ、偏ニ設計及工事施工方法ノ優良ナリシガ為メナルベシ(※編集部注=本倉庫第1号棟と3号棟(支店ビル)が強震に耐えて被害がなかったのは、ひとえに設計や工事方法が優良だったためである)」とある。

この記述と、さらに建設から100年後の東日本大震災も乗り越えていることもあわせて考えると、現在の基準に照らし合わせても相当の耐震性を有していることがうかがえる。



今後の展望と期待



「歴史を生かしたまちづくり」に向け「横浜市が歴史的建造物を取得し、市民利用施設として整備公開を図」る方向へ動くことがなく、あるいはその要請をケン・コーポレーションが拒否した場合、もちろん最終的な判断は、現所有者であるケン・コーポレーションが下すことになる。
 


大野准教授が参考にしてほしいと紹介した旧神戸居留地十五番街

 
ケン・コーポレーションにとっては、倉庫がある日本大通周辺の容積率が700%であるということも魅力となっているかもしれない。

700%ということは、敷地面積の7倍の延べ床面積の建物が建てられるということであり、容積率に含まれない地下階を残すならば、地上7階と合わせて最大8フロアの建物の建設が可能ということになる。

この点も、保存するかどうかの交渉においては課題になりそうだ。
 


ざっくり表してみるとこんな感じのビルが可能ということになる

 
上の画像は構造も含めたファサード保存がなされた場合のイメージだが、跡形もなく取り壊されてしまう場合には、隣接する旧三井物産横浜支店ビルや、近隣の横浜情報文化センター、旧横浜地方裁判所、神奈川県庁などとの都市景観を見る広い視野が求められることになるだろう。



取材を終えて



9月1日現在、倉庫にまだ解体の動きは見られない。91年前の9月1日に発生した関東大震災のあと、一面瓦礫の山と化した日本大通周辺でわずかに残った建物のなかに、旧日東倉庫と旧三井物産横浜支店ビルがあった。

保存を求める動きは、8月5日のシンポジウムで緊急アピールが採択されたほか、8月22日には日本建築家協会から保存要望書が提出された。また、オンラインの署名も1200人を超えている。
 


最後にもう一度、旧日東倉庫(奥)と旧三井物産横浜支店(手前)

 
震災と空襲を乗り越えて104年間建ち続けている建築物をもし破壊するならば、破壊したあとつくられる建築物は、少なくとも今後の104年間を担いうるものでなければならないし、のちに「偏ニ設計及工事施工方法ノ優良ナリシガ為メナルベシ」と評価されるものでなければならないだろう。

明治政府によって破却が決定されたものの実行されなかった姫路城が、のちに国宝、重要文化財、国特別史跡に指定され、世界遺産となるようなこともある。

今ある建物も、これからつくられる建物も、すべての建物は建築史を構成している要素なのである。将来あるべき街の姿を見据える視点と長期的な展望とをもって、「横浜」という都市の景観がつくられていくことを期待する。


―終わり―
 
参考文献
『日本の建築[明治・大正・昭和]10 日本のモダニズム』/近江栄+堀勇良著/三省堂/1981
『近代建築のパイオニア 防災建築にうちこんだ遠藤於菟』上坂高生著/PHP研究所/1983
『建築全史 建築と意味』/スピロ・コストフ著/鈴木博之監訳/住まいの図書館出版局/1990
『日本近代建築大全[東日本篇]』/米山勇監修/講談社/2010
『横浜洋館散歩 山手とベイエリアを訪ねて』/阿部編集事務所編/淡交社/2005
『職人魂の「唯物論」』/山崎正和著/日本文芸協会編『新茶とアカシア』/光村図書/2001
『実業之横浜』第8巻24号/1911
『大正大震災 震害及火害之研究』震害調査委員会編/洪洋社/1925
 

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  • 再掲載もいいけど もう無いじゃん

  • 現所有者を謗る意見が多かったが、やはり売り飛ばした三井がダメだったんじゃねーかよ

  • 倉庫の歴史的価値とは関係ないのですが、以前ゆずのCD販売イベントが行われていたような気がします。ミニ映画館とか、ジャズやクラッシックのライブ会場にするとか、横浜らしい新しい利用方法がありそうですが。

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